出会い IV
町を出て森の中。ミスティエルは新しくパーティを組む予定の冒険者、ベルスとフリアとともに依頼に出かけていた。
ウサギ狩り。ホーンラビットとよばれる魔物の討伐が、依頼の内容だ。
「さて、ウサギはここら辺に多くいるはずなんだがな。具体的な方針は、ミスティエルさんに任せてみたいと思う。どうする?」
「わかりました。ええと、そうしたらまず、この近くにウサギがどのくらいいるかを調べたいと思います」
「そんなことができるのか?」
ええ、とベルスの問いに肯定したミスティエルは、続いて呪文を唱える。
『ダィ=ハスト・ウトゥ=ホーンラビット』
そうして魔術を薄く引き伸ばして波のように飛ばすと、ミスティエルはいくつかの反応があることに気づく。ミスティエルはコンパスを取り出して、得られた反応とのすり合わせをする。
「ええと、ここから北に千トルスくらい行った先に、十数匹くらいの群れがいますね。それから、南西のほうはもうちょっと離れてますけど何匹か、あまり多くないくらいがいます。どうします?」
「うーん、合流されるのも面倒だ。ちょっと道を戻って北のほうに行って、そこに近いほうの群れをおびき寄せよう。確かさっき開けた場所があったよな」
「ええ。あそこなら視界もとれるはずですね」
ベルスの提言は合理的だ。少なくともミスティエルはそう思った。
「それにしても、便利な魔術だね、その探索するやつ。どのくらいの負担で使えるの?」
「まあ派手な攻撃魔法一回分と同じくらいです。特に生き物相手だと、そんなに軽い魔術じゃないんで、頻繁に使うことはできないんですけどね。それに、魔術に強いタイプの魔物だと、これで感づかれることもあるんで、本職の斥候の人の索敵ほどは万能ってわけではないです。ただ、今回みたいな場合にはそれなりに有用ですよ」
「なるほど」
「今回は自己アピールの場なんで、ちょっと贅沢して使ったって感じではあります」
フリアのさりげない探りに、ミスティエルは正直に答えた。さすがに完全に信用しきったわけではないので、高階魔術、つまりいくつもの単語を使って繰り出す魔術が使えることまでは、ばらすつもりはない。
ただ、多少は手の内をばらすのも悪くはないかなと考えていた。信頼を得るにはそれが手っ取り早い。
事実フリアだけでなく、聞き耳を立てていたベルスも、なるほどねえと納得していた。
「さて、開けた場所についたわけだが。ここでも、ミスティエルさんにお伺いをたてることにしよう。どうする?」
「これを使いましょう」
取り出したのはホーンラビットの主食である、キュアハーブの薬効成分を取り出した後の出し殻だ。もはや人間にも魔物にも使い道のないただの草で、捨て売りされている類のもの。
ただ魔力そのものを感知して餌を探すわけではないホーンラビットは、これでも釣られてくれる。
「なるほどね。まあやり方としては鉄板よね。ただ、今の風向きは……」
そこで言い渋るフリア。言いたいことはミスティエルにも分かった。つまり、おびき出したいホーンラビットの群れから見て、こちらは風下に当たる。
「ちょっと風に細工をします。つまり魔術を使えばいいんです」
ミスティエルはそう宣言する。
『ダィ=ツェフ・ナーナル』
不自然に風が吹いた。南から北へと、今いる場所から群れのいるほうへと、ゆらりと強くはない風が吹いた。
「これは……、すごいね」
ベルスはそれこそ感心したようだった。手ごたえは悪くないなと、ミスティエルはその反応に満足している。
ほどなくして、ホーンラビットが十数匹、茂みを割って顔を見せた。
「戦いはみんなでいこう。打ち合せ通り、俺が先頭で戦う。ミスティエルさんはフリアと一緒に、討ち漏らした奴らを狩ってくれると嬉しい」
そういうと、ベルスは一人で群れのほうへと飛び出していく。
三人の中で前衛を務めるのはベルスだけだし、当然ではあるのだが、多対一で戦えるのかミスティエルは少し不安に感じる。
だが、すぐにそれが杞憂だと気づく。
ベルスの戦い方は、冒険者というくくりの中では場違いなほどに、美しい剣筋をしているからだった。
彼は一匹のホーンラビットに対象を合わせ、計算された間合いを取り、それ以外の奴らからの攻撃は一振りで受け流す。
長剣を薙いだ後は振り切り、わずかな間を置き、そうして構えなおし、再び剣を振る。その過程に決して焦りはない。
ミスティエルは率直にきれいだと思った。これならば、ホーンラビット程度には負けるはずもないと確信した。
ベルスは両手持ちの長剣使いだ。これは珍しい。長剣は騎士には人気だが、冒険者は不人気だからだ。
重剣や大剣に比べて破壊力に少なく、腕力より剣技を要求される長剣は、日銭を稼ぐために何でもする冒険者には向かない。
数少ない長剣使いの冒険者も、単に手に入った武器を成り行きで使ってるものが多く、叩きつけるように振りかざす荒い使い方をするものがほとんど。
だが、ベルスはそうでないことはミスティエルの目にも一目瞭然だった。
――王国中南部騎士流。あるいは、フルミヴェン騎士流。この地方一帯の騎士が使う剣術だと、謎の知識はミスティエルに告げている。
ミスティエルは、間違いなく知っていた。
そんな思考を深めるミスティエルに容赦なく飛びかかる、あぶれたホーンラビットが一匹、こちらに向かってくる。
『ダィ=ボスプ・マスト』
ミスティエルはそう唱えて、適当に魔力で敵をぶん殴る。微妙に跳ねて、そいつは倒れこんでビクビクしている。
『ダィ=キフ!』
続いてフリアの詠唱が聞こえた。倒れこんだホーンラビットは、炎の中で息を途絶えさせた。ミスティエルはフリアに目くばせする。よくやっている。
ミスティエルはベルスを見る。すでに数匹を倒しているようだった。やはり、強い。もっと強い使い手も知っているけれど、少なくとも脂の乗った一般的な職業騎士と同等レベルの強さはあるだろう。
彼の若さを考慮すれば、さらに異質さは明らかだ。センスがあるのだろう。
――それはノイと同じだった。若さに見合わぬ綺麗な長剣使い。フルミヴェン流の計算された剣舞。もっともノイのほうが強いとも思った。なぜ、ミスティエルはそれを知っている?
そこまで考えたところで、どうやらベルスが敵を倒したようだった。
きっちりとどめを刺し切っているのを見て、フリアがベルスのほうへ向かっている。ミスティエルもそれについていきつつ、考え事をしていた脳を切り替えた。
「全部倒し終わったよ。まあこんな感じだ。俺の戦い方に満足してもらえたかな」
「恰好つける前に、まず傷を治してから言うべきじゃないの?」
フリアは呆れたように笑うと、ベルスの近くに寄っていく。
『ダィ=ラノール』
なんてこともなく、フリアは回復魔法を使ってベルスをいやしていく。浅い切り傷程度ならば、これで消える。
ミスティエルは感心した。魔力の使い方こそ雑ながら、魔力の動かし方そのものは凄く自然に思える。経験次第では化けるだろうなと思った。
そんな彼らを流し見ながら、ミスティエルはホーンラビットの死体の解体作業に取り掛かった。
皮は剥いで生地にできるし、肉も少ないが可食部がある。それにもちろん、心臓にある魔石と依頼品の角も保管しとかなければならない。
解体の手順について特に戸惑うことはなかった。これも全部、謎の知識で知っていた。どうやら本当に、思い出した知識のカバーする範囲は広いらしい。
そんな様子を見て、治療の終わったベルスは真剣な態度でミスティエルに向き合った。
「ミスティエルさんの戦いを見せてもらって、少しだけど実力がわかったよ。想像以上だった。鮮やかな手際だったと思う」
「ありがとうございます」
素直な賞賛に、素直に返事を返した。
「それで、俺としてはミスティエルさんが仲間になってくれたら、とても心強いと思ってる。フリアはどう思う?」
「同感ね。ただ、ミスティエルさんならもっと強い冒険者とも組めると思うの。だから、これはお願いになっちゃうかな、でも私はこれからも、ミスティエルさんと一緒に戦いたい」
そういわれて、ミスティエルは即答した。
「私も。……私も、フリアさんやベルスさんと一緒に戦いたいと思いました。お二人ともかっこよくて、冒険者として尊敬できる戦い方でした。私もお願いする側です。仲間に入れてください」
そういうと、ベルスもフリアも笑顔になる。
「ああ。そう答えてくれて、とてもうれしいよ。そうだ。俺のことはベルスと呼び捨てでいいよ。パーティの中でさん付けなんて、よそよそしいだろ?」
「それなら、私のこともミスティエルと呼んでほしいです」
笑顔でそう言ったミスティエル。
「ええ、ミスティエル。今日から私たちは同じパーティの一員ね」
こうして、冒険者の仲間を得た。




