ギャップが激しいのは朔弥ちゃんもじゃね?
「おがああああああああっ!!!!もういやだあああああああいいいいっっっ!!!」
痛烈な悲鳴を道場内に響かせているのは紛れもなく俺自身な訳で、何故この様な悲鳴を挙げているのかと言うと…。
俺を訓練部屋へと引き摺りこんだスキンヘッドで顔中傷だらけの鬼軍曹こと、待雄 十三師匠は、嫌がる俺をベンチプレス台にタングステンのワイヤーロープでグルグル巻きで縛り付けましたとさ。仰向けで、両手は自由なままで。
そしてその後は口に出すのも阻まれる程に恐ろしい拷問の始まりなのだった。
具体的に言うと………天井からロープでぶら下がった丸太を天井ギリギリ迄引っ張り上げて、俺の顔面やら腹部やらを丁度打ち抜く長さのそれを情け容赦無く何度も何度も何度も何度も繰り返して下さいました。
当然当たれば大怪我は必須。当たりたく無かったら受け止めるなり、殴り返すなり自分で対処しろだそうです。
因みにぶら下がってるのは一個や二個じゃなく、10基程が円形状にぶら下がってて、回転しながら休み無く斜め上から抉る様に襲い掛かる為、俺も休んでる暇など無かったのだった。
「はっはっは!!どうしたどうしたぁ!?休んでると顔面へこんじまうぞー!?」
鬼軍曹は笑いながらウイスキーを片手に片手操作で回転処刑機を弄んでらっしゃるのだった。
仕事中に酒なんか飲んでんじゃねーよおっさん!!
ーーーー結局、時間終了まで捌き切れず、顔面に直撃して気絶してしまったのだった。しかも連続殴打された形で。
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再び縁側の外に転がされて居た俺は、今度は十三師匠に水をぶっ掛けられ、強制的に再び気絶から起こされたが、顔面の切れた部分が染みて大変な思いで居たのだが、そうこうしてると小清水清莉が道場の隅で恐る恐るこっちを見ていた。
「………あの……。どうして私を…ここに連れて来た……んですか?」
同い年だと言うのに敬語が抜けないのは…まぁ仕方ないか。俺だってキアさんにはずっと敬語だ。
正直なところ、ほっとけなかったって言うか、可哀想だったから、俺の自尊心的な何かを満たしたかったから………と言うのが事実なのだが。
「む?ん…う〜〜ん…そうだなぁ。」
正直に言えば上から目線のクソッタレな理由なのだから言いづらい………。
しかしまぁ、他に理由があるとすれば…。
「アレだ、俺も昔は酷い虐めに遭ってさ。自分より遥かに強い悪ガキ共や、おっかない大人達に殺されそうな程追い詰められてさ。…一度死のうとした事が有ったんだよ。」
「え?」
おぉう…意外そうな物を見た顔をしてらっしゃる。しかしまぁ俺は気にせず続けた。
「いや、実際橋の上から飛び降りてさ?川に酷く打ち付けられて、身体も動かせずに『あぁ、死ぬんだな』って思ったもんだ。……でもさ、そうはならなかった。何でか分かるか?」
「………ここのおじさま達が助けてくれた…とか?」
お?いつの間にか敬語が無くなったのは朔弥さん的にはポイント高いですよ?
「まぁそんな所。悪ガキ共の親父が経営してるジムから俺を引っ張り出してくれて、ここで地獄みたいな目に遭わせてくれて………くれて………。……あれ?何で俺逃げないんだ?」
うん、自分で言ってて疑問に思えて来た。………いや、きっと良い話に繋がるはずだ。
「まぁアレだ。強くなれば虐める奴は居なくなる。心が強くなれば、虐めなんてもんは笑って流せる程度にはなる。だから強くしてやるからついて来いって言ってくれて。まぁなんだかんだで、こうしてここに居るってところか?」
「ありがち…だね?」
「そんなもんさ。」
………結局身の上を話してしまっただけだった。……話してる内に何か出て来るんじゃ無いかと思ったけど、うーん。思い付かん。
…すると、清莉の方から声を掛けて来た。
「……つまり、私にも………強くなれ………って事?」
彼女の問い掛けに、俺は即答はしなかった。………だってさ、俺は師匠に強くしてやるからって言われて飛び付いたけど、そんなのは人に言われたからやる事じゃない。自分で決める事だろう?
守ってやる!…だなんて大層な事を言える身分でも無い。
………そうだなぁ。
「いいや、頼りたくなったら…いや、逃げ場が欲しくなったらいつでも来いよ。俺もキアさんも、きっときよりんの力になるからさ。」
そう言って笑い掛けてみた。ボッコボコのブッサイクなツラだったが、それでも今の俺にはこれで十分。
そうしていると、清莉の方から近付いて来て、そして何やら救急箱から絆創膏を取り出して上目遣いで言ったのだった。
「あの…貼るから…顔、動かさないで…?」
………お互いに顔を見合わせての行為は、少し照れ臭い何かを感じたのだった。
道場の入り口で、その様子を見守っていた少女が一人居た。
「朔弥くんも、清莉さんも、…一人じゃないですから。」
その声は二人には届かなかったが、優しさに包まれていたのだった。
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ーーー
ーーーーー
ーーーーその後、葉達道場の母屋でキアさんお手製の食事にご相伴あずかり、さてきよりんはどうするのかと聞いた所、家に帰っても居場所が無いとの事で、今日の所はキアさんの所に泊まる事となったとさ。
そんなこんなで時間は既に10時を回っていた。
俺は急いで家路についたのだが、家に辿り着いた頃には11時。うん、二駅の所と言った処か。
地味に俺達が住む町、『十二支町』は田舎気味なのだ。
葉達流道場から駅まで歩いて15分、そこから二駅で20分、そして駅から自宅までで10分。電車の待ち時間などが有るから大体こんな所か?都会はいいよねぇ、殆ど電車を待たなくて良くて。
まぁそれは兎も角家に着いた訳だが………玄関先に黒くて丸い物体が転がってるのを見付けてしまったのだった。
ーーーおいおいちょっと待って、まさかのお約束展開ってやつか?これ、多分流れからすると、紗沙羅の奴が待ってるアレだよな?
「すぴ〜…すぴ〜…」
しかも寝てやがる。
………うーむ、あの後のドタバタですっかり考える余裕も無かったが、かなり気不味いんだが?
俺はコイツに告白して振られてる。
そしてその後色々となんやかんやが有って、激動の一日が過ぎて遅くに帰宅。………そりゃまぁ普通の人間なら責任とか色々感じたりするのかもしれないのだが、しかしコイツはアレだ。
多分きっと恐らく多分、意外と俺が平然としてたと知ったらきっと恐らく馬鹿にするか、笑い話のネタにするか…。………まぁ良くて苛々をぶつけようとスタンガンの刑とか有りそうなんだが。
ーーーよし、無視を決め込もう。
俺はコイツの横を音を立てずに素通りして家の鍵を開けた。
ーーーすると、両腕を組んで怒りに震えてる愛妹の姿が眼前に聳えてるじゃあないか。
ハッハッハ、妹よ、そんな所でアホ面提げて無いで、明日も早いから早く寝た方が良いぞ?
「バカアニキ、先に話さなきゃいけない人が居るでしょ?話すまで家に入んな!!ささらんが可愛そうっしょ!!」
ーーーあなたはこのハウスから追い出されました。
仕方なく戻って見ると、怒りに満ちた涙目でプルプル震えてる紗沙羅の姿が目に留まった。
ーーーーあぁ〜…これ絶対電流バチバチゲーム来ますわー。どんなゲームだよ!罰ゲームか。
「こんのバカ!!無視すんな!!心配したんだからぁ!!」
泣きながらぎゅーーーーって抱き着いて来る紗沙羅さんと戸惑う俺の図。
いやだってこの人恋人持ちですよ?距離近くない?
「無視されるのは美沙紗だけで十分だから!!………っとにもぉ。変な気起こしたんじゃ無いかって心配したんだから…。」
涙目をポロポロ零してしがみ付いて来る紗沙羅なのだが、おっぱいがめっちゃ当たってるんですが!?柔らかな巨乳がめっちゃ当たって俺のマイソロジーがデイブレイクしそうなので離れて貰えませんかね!?
「あぁ………むぅ……。分かった、分かったから取り敢えず家に入ろう。………信じられないかもだけど、詳しく話すからさ?」
そう言って俺が必死に邪念を殺しながらマイハウスへと誘い込むと、待ち構えてやがったラスボスを交えて居間で本日の出来事を出来る限り懇切丁寧に話したのだった…。
………そう、この時俺はとある考えを閃いていたのだった。
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ーーー
ーーーーー
「「「「ーーーキアさんって人の所に、そのキヨリって子を預けて来た?」」」」
大体話し終えた所で、妹の沙耶と、紗沙羅と沙羅砂と、後ついでに美沙紗がキョトンとしていた。
おい、いつの間に増えたオーディエンス!俺の心はアンバランス!yeah!
「ーーーいや、うん。え?告白したその日の内に他の女子と遊んでたって事?」
「いや、違うぞ?」
「ーーー自分は浮気性ですって言う自己紹介…。」
「いや、話聞いてた?」
「サクヤぁ………流石にミサさんでもちょっと引くわー。」
「え?何これ?フルボッコ?」
「………キモっ」
「お前はいい、黙ってろ。」
はははは!!!全ッッッ然話が通じてねーーーーーー!!!
「つまり朔弥は女の子なら誰でも良かったって事………だよね?」
「そうじゃない、俺に力を貸してくれ!!」
俺は真剣に頭を下げて頼んだ。ただ下げただけじゃない、土下座の形でだ。
三人と一匹は少し戸惑う(若干一名汚い物を見る視線)も、それでも妹以外は真面目に耳を傾けてくれた。
「学校で見掛けたらでいい。小清水清莉って子が虐められてるのを見掛けたら、俺に教えてくれるだけで良いからさ。協力して欲しいんだ。」
その言葉に三人は、互いに顔を見合わせ、そしてクスクスと笑い始めたのだった。
「………ダメか?」
「そうじゃ………無いよ。」
一呼吸置いて、三人を代表して美沙紗が俺に言ったのは…。
「サクヤがミサ達の知ってる正義バカで良かったなって。どんなに傷付けられても、折れない、曲がらないのがサクヤのいい所だったもんね?」
ーーーそっか、あの日………自殺未遂をする前の俺は…そうだったんだな。
紗沙羅は…沙羅砂は…俺の手を片手づつ両手で包み込んで、温かくも柔らかな声で言った。
「いいよ……手伝ってあげる。」
「うんうん!私たちも学校に慣れなきゃだけど、出来る範囲で手伝うから!!」
二人の言葉に泣きそうになった。
ーーーヘヘッ、やっぱ二人とも、サイッコーにグレイトだぜっ!!
そして美沙紗が続けて何かを言おうとしたが…。
「あ、お前はいい。まずは高校入学に向けて頑張ってくれ。さーて、明日から色々頑張るぞい!」
「お前っ!!そういう所だぞ!!」
涙目でプルプル震えてる美沙紗を他所に、姉二人を差し置いて、まだ居やがった我が妹が怒りを露わにして俺を金属バットでぶん殴ったのだった。