たとえ夢でも
原題 ”Even if whole it was just a fantasy”
キヤモトは、朝起きると、ゆっくり顔を洗った。
朝食を食べながら、PDAで今朝のニュースをチェックする。
「あれから、もう13年になるんだな。」キヤモトはひとりごちた。
キヤモトは、20代のときに精神科学の革命を経験したのだった。ペルソナウェア文化運動は当時発展しつつあったGlobal Webと連結して、巨大な集合知性として働いた。いまや、AIは社会のあらゆる側面をコントロールし、さらに細胞融合をはじめとしたバイオ技術により、有機体との一体化をはじめていた。
すべての人が、自分の興味ある個人の世界を満喫していた。かつてのビーダーマイアー時代は、現代社会の個人の完全な自由のはるかに不満足な影にすぎないのだった。
PDAを通して、ペルソナがキヤモトに話しかけた。
「問題です。『S-F マガジン』はF&SF誌特約ですが、このF&SFとはなんの略でしょう?」
キヤモトは、自信をもって答えた。「フィクション・アンド・サイエンスフィクション」
「正解です!」答えながら、PDAの画面が楽しげにきらりと光った。