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恋愛っぽい

フィオナの魔嫁日記 平和の生け贄として魔族の嫁候補になりました

作者: 風見烏

一人称の練習に書きました。

 早速ですが生贄になりました。

 ただの生贄ではありません。

 嫁です。

 嫁候補です。

 わたしの国は魔族と戦争をしていました。

 和平に応じるから、人質として年頃の娘を嫁候補として送ってこいと言ったそうです。

 解せぬ。

 それで応じる国もそうですが、要求する魔族も魔族です。

 まあ、きっとわたしの知らない交渉とかあったのかも知れませんが。

 不幸です。


 そんなわたしはちょっと日記でもしたためてみようと思います。

 やっぱりわたしたちとは文化も考え方も違うようです。

 それを記して行ければいいと思います。まる。


 こっちに来てから数日が経過しましたが、ちょっとだけ彼等のことが分かってきました。

 ええ、婿のことです。

 婿候補のことです。

 ちょっとだけ日記を振り返って見ましょう。


 フィオナ・モリンズの魔嫁(予定)日記のはじまりです。


 まあ、それほどたいしたこと書いていないんですが……。



 橙灯月の20日。


 この日の天気は晴れです。

 こっちに来て1日が経過しました。

 魔族の国は年中曇っていて、ずっと真っ暗闇の中だと思っていました。

 驚きです。

 不毛の大地が広がっていて、毒と障気に覆われているのだと思っていました。

 綺麗な森や草原が広がっていて、むしろわたしの国よりも綺麗なくらいです。

 悔しく何てありませんよ?

 わたしは途方にくれています。

 だって、嫁に来いと言われたのに挨拶に来いとも言われませんでした。

 それどころか誰も顔すらだしてくれませんでした。

 わたしを閉じ込めるだけ閉じ込めてどうしたいのでしょうか。

 雛鳥のつもりなのでしょうか?

 ああ、暇です。



 橙灯月の21日。晴れ、


 何事も無い穏やかな生活が続きます。

 解せぬ。

 良いのです。ご飯が3食もついてくるのですから。なかなか美味です。

 向こうの習慣では朝と晩の2食だけでした。

 その代わりに、昼はおやつ時間みたいなものがありましたが。

 ここではおやつが食べられません。

 辛い。



 橙灯月の22日。晴れ時々曇り。


 わたしの部屋には鍵がかけられておりませんでした。

 今まで勝手に出て行ったら駄目だとも思っておりました。

 違ったようです。

 自由に城を歩き回って、婿候補と触れあえとのお達しです。

 知らぬ。

 と、とにかく、お城の外にしか出なければ比較的自由らしいです。

 なので早速出歩くことにしました。


 部屋を出て最初に出会ったのはオークキングの男の子でした。

 背がとても高くて、ちょっと無表情でなにを考えているのか分かりません。

 正直ちょっぴり怖かったです。石膏像みたいで。

 あとに知った話しなのですが。

 オークキング族も草食化の波が押し寄せているそうです。

 オークなのに。

 オークの女の子達は他の種族の肉食系男子にぞっこんらしいです。

 元来強い男性が好きなオーク女性達は、昨今の穏やかな気性のオーク男子では物足りないそうです。肉食ブームなのです。

 オークですよね?

 それで、オークも嫁不足が深刻になっているそうです。

 わたしは何とも言えない気持ちになりました。


 魔族のファーストコンタクトはこんな感じです。

 わたしが自己紹介をしますと……。


「あの、わたしはフィオナです。よろしくお願いします」

「…………」

「…………?」

「…………」

「…………」

「…………」


 何か喋れ!

 

 彼はとても寡黙な男の子です。

 名前はロロミア様と仰るそうです。

 給仕の女の子が教えてくれました。

 しっかりとメモを取っておきます。ありがとう!

 彼は無言のままチョコをくれました。

 チョコは向こうでもあまり食べられない嗜好品でした。

 でも魔族から貰った食べ物だなんて、とても怖くて食べられそうにありません。

 甘い。



 橙灯月の23日。雨。


 わたしは今日も元気に魔王城に繰り出しました。

 ええ、部屋にばかり居たら腐ってしまいます。

 いえ、ゾンビさんを目撃したからではありません。

 決して『部屋でじーっとぃていたら、いつの間にかゾンビになっていたよ』なあんて冗談を真に受けたわけではありません。

 ありません。


 この日はブラッドマジシャンという種族の双子に出会いました。

 なんと、彼等もわたしの婿候補だと言うのです。

 やや小柄な種族で、神出鬼没で、様々な魔法を使うと言うのです。

 種族的に男の子はとても悪戯好きです。

 彼等の種族は多産で、双子以上は当たり前らしいです。

 しかしこの種族の女の子は、この悪戯好きの特性というか、子供っぽいところがいやになってきたらしいです。最近では大人っぽい種族が大人気です。渋メンブームです。

 良いですよね。おじさま。

 特に枯れてしまった人の色気というのが、わたしは良いと思います。

 だんでぃずむ。

 話しが逸れました。

 わたしはそこはかとなく違和感というか、嫌な予感がしてきました。


 二人は楽しいことが大好きな男の子たちでした。

 わたしを見るなり謎かけみたいなことをしてきました。


「僕はアーロン!」

「僕はマーロン!」

「「さて、ここでシャッフルタイム!!」

「えっ?」

「「さーて、どっちがアーロンで、どっちがマーロンでしょー」」


 分からぬ。

 目にも留まらぬ速さで回転する二人。

 いえ、瞬間移動して背後に現れるのは卑怯です。

 それでは目で追えないではないですか。

 おもわずばって振り返ってしまいましたよ。

 ちゃんと32回転までは数えていたんですよ。


「ごめんなさい。ぜんぜん分からないの……」

「えー。じゃあ、勘でもいいよ!」

「そうそう、難しく考えないで」

「じゃ、じゃあ。こっちがアーロン様で、そっちがマーロン様……」


 このとき双子がじっとわたしの顔を見てきたので、ちょっと怖かったです。

 間違ったのがそんなにもショックだったのかと謝りそうになりました。


「「だいせいかーい!」

「いやーおねーさんなかなかやりますなぁ」

「そうそう、一回で成功するなんて才能あるよ」

「あ、ありがとうございます?」

「「じゃあねー」」

「えっ? はい、さようなら……」


 手を振りながら高速で去って行く二人。

 何だか狐につままれた気分になりました。



 橙灯月の24日。曇り時々雨。


 この生活にも段々と慣れてきました。

 ロロミアさんは出会う度にお菓子をくれます。

 何と恐ろしい……。

 きっとわたしを太らせて頭からばりばりと食べる気なのでしょう。

 うまうま。


 この日であったのは二人でした。

 まずは一人目。

 アマノジャクという東の方の国に多い魔族らしいです。

 何でも給仕さんのキャスリンちゃんの情報では、たいそう嘘つきで、思っていることと逆のことを言ったり、逆の行動を取ったりするめんどくさい種族だそうです。

 ごほんごほん。

 ちょっと素直じゃない性質の方だそうです。

 そうです。キャスリンちゃん今度お茶しましょう。

 あわよくばその栗鼠毛をブラッシングしようと思います。

 ふかふか。


 このアマノジャクという種族は、男の子と女の子が好きあっていても、思っていることと逆の行動をしたり言ったりしてしまいます。

 そのせいで最近の若いアマノジャクの子たちは噛み合わなくなっているとかなんとか。

 ああ、もちろん彼も婿候補だそうです。

 だって頑なに「俺は婿候補なんかじゃない。絶対違うからな!」ってすっごく強い口調で仰るのですから。

 ツンデレとツンデレってめんどう……。

 げふんげふん。


 そのせいで女の子はもっと素直な種族の所に行ってしまうそうです。それがツンデレ的な行動の結果なのかも分かりません。やっぱりめんどくさいです。

 いえ、現実問題アマノジャクの和装? という服の女の子達が、純朴で素直そうな魔族としてはどうなんだろうかという男の子に『あんたなんて好きなんかじゃないんだからね!』なんて言いながらデレデレしていました。

 わたしは考えるのを止めました。

 段々と雲行きが妖しくなってきた気がします。


 彼も聞きしに勝るめんどくささでした。

 あ、彼の名前はトール様と言うらしいですよ。トを伸ばす発音がちょっと違うらしいですが。和装という不思議な服装をされていました。とっても綺麗で、ちょっと憧れます。わたしの国では見たことのない格好です。あんな綺麗な模様が描かれた服を着られたならとっても幸せなkとおでしょう。

 ああ、でもわたしは元はしがない村娘。きっと馬子に衣装でしょう。

 村にいたときも、ちょっとお洒落なんかしてみたら「お前なんかに綺麗な服なんて似合うはずがない。鎧でも着ていた方がよっぽど似合っている」なんて男の子達にいぢわるされたものです。くそぅ。

 そいつ等は懲らしめたので良しとします。


「俺はお前のことなんかこれっぽっちも、髪の毛の先ほども気にしてなんかいないからな!」

「そうなんですか?」

「ああそうだ。お前なんてさっさと帰ればいいって思っているぜ」

「分かりました…………じゃあ、ここからお暇させて頂きます」

「は!? なんでそうなるんだよ!?」

「いえ、こんなにも嫌われていたならもうお国に帰るしかありません」

「うぅぅぅ、そ、そうだ、あーそうだよ。帰れ帰れ!!」


 半泣きになりながら、わたしに座り心地の良さそうなクッションとか、美味しい果物のジュースを持ってきてくれました。

 本当に口と行動が一緒ではありません。

 アマノジャクは個人差がありますが、だいたいは口か行動のどっちかが逆転しているらしいですよ。

 彼の本心は一体どっちなのでしょうか?

 分かりませぬ。

 わたしが帰らないって言ったら、顔が笑いながら口では嫌がっていました。

 悪口を言いながらすっごいもてなしてくれるんです。

 やっぱり、めんどくさい……。



 本日はこれで終わりません。

 何と最後の婿候補――魔王様に出会いました。

 魔王様ですよ。魔王様!

 普通は最初に出てくるべきだと思うのですが、それでわたしに向かって「フフフ、悔しかったら吾輩を倒してみせよ」なんて口上を発するべきだと思うのです。

 それが今までほったらかしにされてしまいました。

 魔王なら魔王らしい威厳を持っていて欲しいです。

 倒し甲斐が……いえ、なんでもありません。


 この魔王様、隠しているようですが魔物の女の子を避けているような節があります。

 キャスリンちゃんからも、魔王様の話はあまり聞けませんでした。

 なので、地道に情報を収集した結果。

 わたしは魔王様は魔族の女の子が怖いんじゃないと思った次第です。

 ここからは想像なのですが、きっとか弱い人間の女の子なら大丈夫と思ったのではないでしょうか?

 魔族の女の子は苦手なので、それなら人間の女の子にしようと企んでいた節があります。

 ここまでは想像なので実際は分かりません。

 ただ、魔族の嫁不足が深刻なのは事実です。

 ええ、嫁不足です。

 出会った男の子達の現状で確信しました。

 魔族も嫁不足を解消させようと色々手を尽くしているそうです。

 わたしもその計画の一端だと思います。

 モテモテだってぬか喜びした気持ちを返してください。

 返してください。返してください。


 そんな誰も彼もそれぞれに問題を抱えた男の子達ばかりだったのです。

 でも見た目はみんな素敵な男の子達ばっかりで眼福です。

 ああ、でもきっと皆さんはわたしなんかに興味なんてないんですよ。

 はあ。


 それでは今日はそんな男の子達の、最後の魔王様についてちょっぴり詳しくお話ししますね。



 橙灯月の24日。昼過ぎ。


 今日も昼食は美味しかったです。

 何のお魚かは聞かない方が良いのでしょうきっと。ですがあの煮付けは絶品です。

 わたしがお腹を膨らませていると、ようやく魔王様とであったのでした――。




  ◇    ◇    ◇    ◇




「そんなところで何をしていらっしゃるのでしょうか?」

「ふん。人間が、かような生き物か観察しているのだ」


 威厳のある口調に上質な布のマントを翻らせる。

 そして立派な二本の角。

 話しに聞いた魔王そのままの姿でした。


「なら、もっとこっちに来て見ても良いんですよ?」

「そのような軟弱な身体ではすぐに壊してしまうのだ」

「じゃあ、何で嫁候補なんにしたんですか……」


 わたしは呆れたように言いました。


「それはな、他の者たちが勝手に……」

「魔王様の考えだと聞きましたが」

「ええいうるさいうるさい! 貴様は大人しく我に観察されていればいいんだ!」

「はあ……」


 距離にしてだいたい10メートルほど。


「ふむ。本当なら嫁の一人や二人くらい訳もないのだがな」

「ならばなぜお嫁さんを迎えてあげないのですか?」

「我の心を掴む娘がいないのだ。ああ、我に相応しい娘は何処に……」

「キャスリンちゃんとっても素敵だと思いますよ」


 あの毛並みは魔性の毛並みです。

 何時までも触っていたくなります。

 もふもふ。


「ダメだ。あの娘はダメだ」


 何だか顔を青くしています。


「じゃあ、ラミア族のエリーちゃんはどうですか。なかなかはっきりとした性格のとても格好良い女の子だと思うのです」

「馬鹿か! もっとダメだ!!」

「ええー」


 どうしたらよいのでしょうか。


「ええい! 貴様と話していても埒があかない。我は戻るぞ!」


 いえ、魔王様がわたしを観察していらっしゃったはずでは?

 魔王様はそう仰ると、ちらちらとわたしを見ながら帰って行きました。



 橙灯月の25~数日。雨だったり晴れだったり曇りだったり。


 その日からちょくちょく魔王様を城内で見かけるようになりました。

 けれど決してあまり近くまで来られないようでした。



「魔王様。こちらにいらして一緒にお茶をしませんか?」

「先ほど済ませてしまってな。そこでゆっくりするとよい」


「魔王様。今から昼食を取るのですが、お暇でしたら一緒にいかがですか?」

「我はこれから約束があるのでな。貴様一人で行くがよい」


「魔王様。今から湯浴みの時間なのですが、ついてこないでくださいませ」

「ばばばばば、馬鹿を申すな! 我がそのようなは、破廉恥な真似をするわけないだろう! 貴様の貧相なか、から、身体など興味ないわ! 無礼だぞ!!」


 おおよそこんな感じでした。

 その間にあの男の子達ともちょっとだけ会話を出来るようになって、きっとわたしは油断していたのでしょう。



 橙灯月の41日。晴れ。


 早いもので20日もの時間を、この魔族領で暮らしたことになります。

 橙灯月も残すところあと10日程度になりました。

 特に進展もなく、日記に書くこともなくなりました。

 唯一今日の天気と、ご飯の内容だけは書いておきます。



 今日はお城の庭園に出かけてみようと思いました。

 わたしは軽い気持ちで出歩いてしまったのでした。

 監視もあんまりない緩い状況できっと勘違いをしていたのです。

 わたしは決して自由ばかりではないということに。


 庭園はとても綺麗でした。

 丁度シクラメンの花が咲いていました。

 とても丁寧に手入れされており、白と赤とピンクが花時計のように綺麗に別けられていました。

 ちょっと暗くなりがちだった心が、何だか癒やされてゆくようでした。

 故郷の野山を思い出して、急に身体を動かしたくなってきました。

 ずっと室内ばかりでは身体が鈍ってしまいます。

 そんなときに現れたのです。巨体の魔族が。


「誰かが走って行くのが見えたが人間だったとはな」

「あの、わたしは……」

「ああ、魔王の野郎が連れてきた嫁候補とかいう人質か。こんなちびっこくてひ弱な生き物が何の役に立つというのだ。奴はついに気でも触れたか」


 確かにあなたに比べればわたしは小さいでしょう。

 彼はオーガと呼ばれるかなり気性の荒い魔族だったのです。

 鍛えられた胸板は、鎧からはみ出しそうなくらい窮屈そうに収められています。


「そもそも俺は和平なんて認めていないんだ。もっと、もっと人間共を血祭りにしてやりたい。ああそうだ。俺はもっとぶっ壊したいんだ!!」


 きっとわたしに語りかけているわけではないのでしょう。

 ただ行き場のない怒りをぶつけられれば誰だって良いのです。

 ああ、忘れていました。

 ここは魔族の領域。

 わたしは異物でしかないのです。


「わたしはこれで失礼します……」


 綺麗な花を見た余韻など吹っ飛んでしまいました。

 わたしは雲行きが妖しくなる前に立ち去ってしまおうと考えました。

 すると、何故だかあのオーガがわたしの前に立ちふさがったではありませんか。

 わたしはぎゅっと拳を握り締めます。


「あの、通して頂けませんか?」

「まあいいだろう。ここには今誰もいないんだ。そうだ。目撃者もいない」

「あの?」


 にたにたと口角を上げてわたしを見るのです。

 ねっとりとした嗜虐心たっぷりの目で。

 気持ち悪い。


「そうだ。俺は和平なんて認めない。ならばどうすればいいのか。和平の元を潰してしまえばいいのだ。なあに、事故で済ますさ。不幸な事故。放し飼いのケルベロスに喰われてしまったとか言い訳なんてたくさんあるだろう。な?」


 わたしに同意を求められても困ります。


「あの、本当に止めてください……」


 どんどんと声が細くなっていきます。

 そして突然オーガがわたしの身体を思いっきり突き飛ばして来たのでした。

 まるで殺さんばかりの勢いでした。


「きゃっ!」


 わたしはちょっとふらっとしてしまいました。

 オーガはすぐに詰め寄ると、わたしに向かって緩慢な動作でその巨大な拳を振り上げようとしている瞬間が見えました。


「死ね!!」


 わたしはぎゅっと口を噤み、来るべき攻撃に備えたのでした。

 そんな瞬間。


「何をしている?」


 なんとあの魔王様が現れたのでした。

 わたしに全然近付こうとしない魔王様が……。

 庇うようにオーガの拳をすっと軽く受け止めたのでした。


「ま、魔王……さま」

「一体何をしているんだ?」


 自然な動作でわたしをすぅっと胸の中へと招き入れます。

 思いがけない行為に、ちょっと胸がドキドキします。

 ヤダ、顔が、赤く……。


「ちょっと戯れていただけなんですよ。なあ?」


 威嚇するような視線をわたしに向けて同意を促して来ました。

 なのではっきりと言ってやりました。


「ええ、わたしを亡き者にせんと、お戯れになさっていたのですわ」

「こいつめ!!」

「ふむ、クレマン君。君とは少し話しをしなければならないようだな……」

「ま、魔王様!?」


 魔王様の強い殺意に狼狽したようにクレマン――いえ、オーガその1でじゅうぶんです。

 オーガ1は魔王様に縋るような視線を向けたのでした。


ね。ここで血は見せたくはない……」

「ぐっ、くそ……」

「罰は後ほど与えよう」

「ひっ……」


 オーガ1はがっくりと肩を落として早速に去っていったようでした。

 ドキドキがなかなか止まってくれません。


「済まなかったな。我の監督不行届きのようだ。大丈夫だったか?」

「はい」

「突き飛ばされたように見えたが、本当に怪我はないのか? 貴様にもしもの事があれば我は……」

「ええ、大丈夫です」


 ちょっとふらっとしただけですので。

 それにしてもお顔が近い。

 わたしは先ほどの光景を思い出し、血が滾るのでした。

 中々の膂力だと思います。


「あの、魔王様はわたしにこんなにも近付かれて大丈夫なのでしょうか?」

「え?」


 短い言葉。

 そして段々と顔が青くなって行くようでした。


「う、うむ。大丈夫だ。言っただろう。貴様を壊してしまわないか心配で名。我は強大な力を持っているがゆへ……」


 助けた手前、振り払うことも出来ずに言葉を取り繕っていました。

 ちょっと、悪戯心が湧いてきました。

 えいっ。


「な、何をするのだ!! 婦女子がはしたない!! 簡単に男に抱きつくなど!!」

「あら、抱き留めてくださったのは魔王様ではございませんか?」

「それとこれとでは話しが別なのだ! 本当に大丈夫のようだな!!」


 魔王様はわたしをすとんと近くに降ろしたのでした。

 そしてまた離れてしまいました。

 でも、その距離は近付いていました。


「そうです。魔王様のお名前をわたしは知りません。どうか教えて頂けますか?」

「ふん。我の名前はな――」




 わたしの日記はひとまずここで終了です。

 ですが、しっかりと名前を刻んでおきたいと思います。

 キルゼル様と言う名前を。

 なかなか強そうなお名前です。


 他の男の子たちのことも、追々話して行けたらと思います。

  

続きはたぶんありません。

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