81話:梅の香り
良い香りだろ、美味いぞ。(ゲス顔)
子供たちは野山を駆ける。
野山を駆けながら、おいしい食べ物を探す……などと書くと、どこの欠食児童か、とかいつの時代の話よなどと言われそうだが、子供は食べるのが大好きだから仕方がない。
そもそも、子供たちにあまり甘いものやお菓子を食べさせてはいけないという認識が当たり前だった時代だったし、子供たちのお約束である買食いができない地域だったのだ。
小学校の校区内に店がないからね、仕方ないね。(笑)
さて、私の故郷に住む人間が子供時代に必ずハマる罠。
ハマるというか、ハマってしまう。
年長の子供は、年少の子供たちが罠にハマるのを、ニヤニヤしながら見ているのだ。
悲しいことに、これが負の連鎖なのだ。
と、言うわけで梅の実です。
梅干はこれで作るんだと言われても、初見の子供には絶対に納得できない。
問答無用の梅の実の香りである。
美味しい果物はいい匂いがする。
梅の実は、ものすごくいい匂いがする。
梅の実は美味しい果物である。
全く無理のない論理展開の結果、そんな結論に至った年少の子供たちを、年長の子供たちはニヤニヤと笑って見守る。
あ、種は毒があるから食べるなよなどと、忘れちゃいけないアドバイスまでしてくれる。(笑)
私たちは、こうしてまた一段、大人の階段を登るのだ。
うん、スーパーに梅の実が並び出すと、あのエグイ味がよみがえってしまうのだ。
そしてあらためて思うのだ、農家のおじさんごめんなさいと。
まあ、私たちが口にするのは、地面に落ちた所謂キズモノでしたけどね。
そんな苦くも懐かしい思い出はさておいて、大学生の頃から梅酒作りには興味があったのです。
正直、レシピを改めて確認するまでもなく、作り方や材料は頭の中に入ってます……が実際に作ったことはありません。
作業はともかく、保管場所が確保できませんからね。
涼しくて、気温の変化が少ない場所……うーん。
実家なら、床下収納とかあったんですが。
それに、仕込むなら5リットル瓶10本ぐらい仕込みたいじゃないですか。(笑)
だけど、私はお酒は飲めるけど飲まないんですよ。
消費の見込みのないものを作る……それはどうなのよと思ってしまうわけで。
知人に配るにしても、何年も経験を重ねて……ならともかく、胸を張って知人に配れるものができるかどうか。
うん、手の届かないぶどうは酸っぱいのだ。
今年もまた、梅の香りだけを楽しむにとどめよう。




