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62話:親切ゲージ

 私の知人は、割と尖った価値観を持つものが多い。

 もちろん、後ろに手が回るタイプの尖った行動力の持ち主は全力でお断りしているが。

 思想がアウトでも、実践さえ伴わなければ良いというと語弊があるが……要するに、自分の価値観と社会的な価値観を俯瞰できる能力の持ち主ならば問題ない。

 うん、心は自由だ。

 知らず知らずのうちに、洗脳される脆いものでもあるが。(笑)

 人それぞれであろうが、個人的な意見を言わせてもらえば尖った価値観は面白い。

 尖った価値観は割と一般的に受け入れられないものが多いが、その受け入れられないものを、理論武装という階段を用いて一般常識にするりと滑り込ませる試行錯誤は己の思考の幅を押し広げてくれる。

 数学のように細かく条件を変化させて解を求める繰り返しは、物語を紡ぎ出す面白みと同種の趣がある。


 さて、私の話がそれるのはもはやテンプレ。

 尖った価値観を持つ知人が、興味深いことを言った。

 たしか、20年近く前……『余裕がなくなると、世の中がギスギスする』的な発言をした私に、彼はちょっと笑って言った。


『優しい人と、親切な人というのは混同されやすいけどね、別のものだよ』


 ……その口ぶりからすると、似ているという意味合いではないよな?

 私の問い掛けに、彼は小さく頷き。


『優しいという言葉は人の性質を示すモノだけど、親切という言葉は……うん、いわば状態を示す言葉じゃないかと思う』


 ……状態?

 首をかしげる私。

 彼の説明によると、格ゲーで言うところの気合だったり、RPGでいうところの魔力だったり……親切な行為は、いわば親切ゲージを消費して行われる行為であると。

 人間は、日常生活を通じてこの親切ゲージが増減する。

 良いことがあった、誰かに優しくされた……そういった出来事でゲージが増え、嫌なことがあった、誰かに優しくした、などの出来事でゲージが減少する。

 ほ、ほう……。

 理解4割、納得5割、あと1割足りません状態の私に、彼は言葉を続けた。


『誰かが困っててそれを助けた。それを見て、自分も助けてくれと言われて、助けた。さて、その繰り返しは永遠に続くかな?』


『同じ行為のはずなのに、二度目より三度目、三度目より四度目と、それは苦痛になっていく。彼らの感謝の言葉も、どんどん軽くなっていく。時間とか金銭の都合は、所詮いいわけだと思うなあ』


 親切ゲージが枯渇した、と?

 彼はただ微笑んだ。

 なるほど、その考えで言うなら『親切』というものは状態を示すだろう。

 ついでに言うなら、『世の中に余裕がなくなると……』的な、社会学的見地からも大きな矛盾は生じない。

 親切ゲージというものは、自分自身の余裕と、他人からの親切だったり優しさによって回復する。

 親切ゲージの回復できない人の割合が閾値を超えると、世の中から急速的に『親切状態』が失われていく。

 うん、なるほどな。

 頷いた私を見て、彼は『キミは変わってるねえ…』と呟いたのだが、その言葉そっくりそのままお返しします。(笑)

 まあ、彼からすれば私は人の話を聞く存在だったのかもしれませんが、基本的に私は人の話を聞かないタイプです。(笑)

 だからこそ、『キミは今親切ゲージが枯渇してるんだから、これまでと同じように生活すると心が壊れるよ』という、知人の心配りを察することができなかったわけで。


 この『親切ゲージ』程度は尖った価値観とは言えませんが……こういう見方をする、できるというのは、貴重な能力だと私は思ってます。

 もちろん、突飛な考えだけでは意味がなくて……それをきちんと現実に即したというか、リアル社会に当てはめる形でブラッシュアップできるかどうかがさらに重要なのですが。


 と、言うわけで親切ゲージ。

 私のそれが枯渇してるのは言うまでもありませんが、他人の親切ゲージを回復させるような行為はちょいちょいやっていきたいなとは思います。

 ええ、もちろん私のそれは(情けは人のためならず的な)打算によるものであり、親切ではありません。

 仕事で、日常生活で、私は将来の利益を夢見て仮面をかぶる。

 そんな私は、優しい人にはなれないし、親切な状態にもなれないでいる。 

 ボタン全押しでゲージが溜まったりはしない。

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