52話:母と息子の攻防。
私は、3人兄弟の末っ子です。
両親としては、今度こそ女の子を……という気持ちだったのでしょうが、まあフラグですよね。(笑)
母曰く、『アンタは、おなかの中にいた時が一番可愛かった』。
はっはっはっ、母上様、世の中『求めよ、さすれば裏切られん』ですがな。(笑)
さてさて、世の中の母親という生き物は、部屋の掃除と称して息子のプライバシーを完全に無視して所持品やら何やら探っていく憎いアンチキショウ(注:息子視点)です。
まあ、幼いうちはそれに気づかないのですが……私は、真ん中の兄、次兄によって早々とそれを知らされました。
「愚弟、テグス(釣りに使う糸)くれんか?」
「いいけど……釣り?」
「いや、罠に使う」
そう言って、次兄は学習机の引き出しやら押し入れやらに、テグスを貼り付けていくのです。
今でこそメジャーな方法ですが、昭和の時代、しかも当時の次兄はまだ小学生。
まあ、努力家の長男と私とは違って、次兄は天才肌。
実家から脱出するために、早々と己をスポイルして人生計画を立てた奇才も、小学校の頃はまだまだその才能を周囲に知らしめていたのです。
「……チ、あのババア、こっちが気づいてないと思ってやりたい放題やな」
自分の仕掛けを回収しつつ、小学生とは思えぬ台詞の次兄。
私は私で、自分が学校に行ってる間に母親が自分のものを隅から隅までチェックしている事を知ってショックを受けました。
小難しい考えがあったわけではなく、無断で持ち物をチェックされるのは、なんか嫌だったんですね。
「愚弟、釣り針もらうぞ」
いや、それはどうかと思う。
隠し場所やら、ダミーやら、ちょっとした反撃やら、次兄の発想は今思い返してもなかなかのもので、母親のストレスを加速させたのだろうなあと。
そして私は、いかにも大事なものを隠しているような袋に、ミミズとおたまじゃくしの死体を入れてやりました。
ちょっとした思いつきだったのですが、『子供のいたずらで許されそうな反撃だと……恐ろしいやつ』みたいな目で、次兄が私を見ていた、というのは作り話です。(笑)
まあ、めっちゃ怒られましたが。
『なんで母ちゃんが、そこにそれがあるのを知っとるん?』
などの言葉が反撃になるはずもなく、とにかく怒られました。
子供の頃は良かったんですよ。
だって隠さなきゃいけないものなんて何もないんですから。
隠さなきゃいけないものができ始める中学生ぐらいから、この攻防は激化していきます。
反撃云々ではなくて、物理的にやばいものとか、精神的にやばいものとかはさておいて、見つかったらアウト。
ちなみに次兄、それなりに大事なものは両親の部屋のぬいぐるみの中に隠してました。
本当に大事なものは、私も知りません。
私は、応接間のソファーに隠したら見つかりました。
次兄曰く、『普段掃除するところはあかん』だとさ。
どうも私にはあまりセンスがないらしく、よく母親には見つかってました……こっちがそれを知ってることを母親が知ってたかどうかまでは知りません。
次兄は、『とりあえず仕掛けは作動してない』などと嘯いていたので、勝利してたんだろか?
しかし、息子の持ち物調べて安心したいのかどうか知らないけど、クラスメイトからもらったお手紙(婉曲的表現)とかいちいちチェックすんなや。
会話でそのクラスメイトの名前が出てくるたびに過剰反応しやがって。
『読んだらすぐ捨てろや』などと言い放つ次兄に流れている血の色が多少気になりましたが。
高校生になったら、これはもう野球一色の生活になって、そんなことに気を回す余裕はなくなりました……と言いたいところなのですが、ほら、高校生になって街に出ると、思春期なのですよ。(笑)
どこからともなく、エログッズの侵略が。
今思えばどうでも良いはずなんですが、なんであの年頃は、母親にそれを見つかることを極端に恐れてしまうんでしょうね。
とりあえず、世間での定番ネタ……隠しておいたエログッズをご丁寧に机の上に置いておくというイベントは発生しませんでした。
単純に、母親は母親で息子の部屋を探っていると思われたくなかったんでしょうか?
何を見つけて確認して、元に戻しておく……というのが、基本パターンだったんですけど。
次兄に言わせると、「ウチの母ちゃん、隠蔽が雑」らしい。
そして大学、一人暮らし。
もう、母親探偵はいません。
いやっほーっ。
だが人よ、油断することなかれ。
母親の代わりに、今度は遊びに来た友人の家探しが始まるのだ。(笑)
まあ、私のアパートの場合、ビデオデッキがない時点で、かなりの人間が興味を失ったのですが。
余談ですが、その後も奥様探偵の存在が世間では確認されております。
つまり、人生死ぬまで隠しっぱなしということで。(笑)
心にやましいものがあれば、他人に優しくなれます。(笑)




