5話:社会人になろう
家族を捨てて家を出よう。
なんか違うような気もするが、これは真理だ間違いない。
だってあそこには味方がいない。
おい、1話完結のくせに話が続いてるぞ……とツッコミを入れさせたら私の勝ち。
さて、私の兄は、就職を機に一人暮らしを始めました。
私は、大学進学で一人暮らしを開始。
タイミングの関係で、兄のそれより、私の方が早かったわけで。
まあ、自分の息子が一人暮らし……大丈夫かな、などと心配するのは母親の常ですかね。
学生の一人暮らしに必要で、会社勤めの一人暮らしに必要ないものなーんだ?
これ、私が会社勤めしてた頃の先輩が出したクイズなんですが、答え分かりますか?
答えは体温計。
不思議なことに、働いている人間はこの答えを聞いて、ああなるほどと納得される方がほとんどなのですが、学生さんはたいてい首を傾げます。
……でも本当は、答えがわからない(納得できない)方が正常なんだと思います。
答えを聞いてもわからない方、できるならば、そのままの君でいてください。
とか言いながら容赦なく、答えそのものではなく、理由について説明すると。
働いてると、熱を測っても意味がないからです。
大事なのは、動けるか動けないか。
働く、じゃなくて、動く。
某漫画家さんの『入院して初めて病気』という言葉が、日本社会というか、日本の職場の縮図と言えましょう。
ウ、ウチ、ブラックとちゃいます。
などと視線を逸らしながら反論する方のために、一般論ではなくかつて私が勤めていた会社(その頃はブラック企業なんて言葉はありませんでしたが)であった事を採りあげてみましょう。
土曜日の23時。
「じゃ、高塔くんお先に」
「あれ、今日は早いですね」
この時点でフランス人が頭を抱えるはずですが、狂気は加速してこその狂気。
「うん、明日は結婚式だからさ」
「……ありゃ。大変ですね」
「あ、わかってなさそうだから言うけど、結婚するの僕だからね」
「ええ?こんなとこで働いてて、相手見つける時間なんてあるんですか?」
「ははは……あるわけないじゃん」
職場結婚でした。
そして次の日。
「高塔くん、おはよう~」
「おはようございます~ってもう昼ですよ」
「ははは」
「……」
「……」
「……って、結婚式ちゃうかったんですか!?」
「うん、午前中に終わらせた」
あ、アメリカ人とイギリス人が泣いてる。
「あれ、高塔さんまた休日出勤なの~カラダ壊さないようにね」
「……ははは、結婚おめでとうございます」
午前中に結婚式終わらせて、夫婦揃って休日出勤だよコンチキショ~。
うわあ、イタリア人が泣き喚きながらタコを地面に叩きつけ始めてるぅ~。
もう、全俺が泣いた。
と、この1例だけで、熱があるかどうかなんて何の意味もないことが理解できると思う。
『休んでもいいよ。ただ、仕事はしてね』
上司のこの言葉も泣けた。
多分、日本人の半分は泣いてくれると思う。
有給取らされて、私服で出勤とか。
学生さんの心を折るつもりはこれっぽっちもないのだが、これが普通だ日本企業。
うん、社会人になるということは、こういうことだ。
もちろん、『立派な』という修飾語はつかないが。
会社勤めの頃の話は、書けないことが多すぎます…。