45話:ある高校球児の恋愛事情。
最初に断っておくが、『彼』は一般的高校球児ではありません。
ええ、いろんな意味で一般人ではありません。
「付き合ってください」
昼休み、食後の睡眠中に起こされたと思えばこれか。
彼は、儀礼的に彼女の顔を確認し、ため息をついた。
「あのさあ、俺野球部なんだけど」
「知ってます」
「いや、そうじゃなくて……」
くそが、と唾でも吐きたくなるような思いをなんとか我慢する。
つーか、そもそもこいつ誰だよ?
「あんた、俺と付き合って何がしたいの?はっきり言うけど、何もできんぞ?」
恥ずかしそうに頬そめんな!
このクソ、なにを勘違いしてやがる。
などと、思ったことの1%も口に出せないストレスが彼をさらにイラつかせる。
高校球児は、人気商売だ。
芸能人と同じで、善意も悪意も増幅して伝えられてしまう。
「毎日朝練あるし、夜は練習終わるの10時やろ?」
「……?」
「休みは正月だけ。仮に俺と付き合ったところで、デートの一つもできやせんぞ?」
「え、えっと…」
ちょっと戸惑ったような素振り。
甲子園行ってから、こういうアホが増えたわほんま。
「一緒に登校したり…」
「朝練は6時半集合」
「……」
「夜は、さっさと帰って1分でも多く寝たい」
「が、学校でおしゃべりとか…」
そうやな、最初は『それでも良いから』とか言うんよな、あんたら。
そんで、増長して『野球だけじゃなくもうちょっと私も大事にしてよ』とか言い出すんだろ?
野球に全賭けしとるんやこっちは。
野球に集中させてくれやほんまに。
ほら、しまいにゃ泣くやろ。
こっち悪役にされて、『甲子園行ったからって調子乗っとる』とか、悪い噂流されて……挙句の果てに、こっちがプロになれたらなれたで、友人やら、元彼女ヅラして適当ぶっこくってか。
くそ……県外の某男子校私立野球部の誘いを断らんほうがよかったか。
あそこはあそこで、ドロップアウトした先輩のいじめがひどいって聞いたしなぁ…。
……好きとか嫌いとか言ってる場合じゃなかったそうです。(笑)
おそらく、ひどい話だ、自分を何様と勘違いしてるんだ、などと憤慨する方もいるでしょう。
しかし、元からの知人、仲間からすれば彼は気の良い少年で。
彼の心が擦り切れていったのは、明らかに彼の責任ではない部分が原因で、女性嫌いというか拒絶するようになった過程は同情しかできませんし、その後の『知人とその他』で世界を区切って高い壁を作っていった様は……被害者としか思えないのです。




