42話:はーれむを成立させるために必要なことってなんだろう?
なんとなく思い出した。(笑)
「……個人的な意見で構わんのだけど、女性としてハーレムを許容できる条件ってどんな感じ?」
私の問い掛けに、彼女たちは手を休めて考える素振りを見せた。
簡単に状況を説明すると、部屋の中には、女性が3人。
男性は私1人。
部屋は、彼女たちのひとりが住んでいるアパート。
もちろん読み手が誤解するような書き方をわざわざしているのだが、これっぽっちも色っぽい話ではないというか、状況ではない。
同人誌の原稿製作中……この言葉で容易く魔法はとけるというものだ。
彼女たち3人とは、あるオリジナル創作系イベントで知り合い、あまりよろしくない場所で再会を果たし、ちょっと説明が不可能な感じに意気投合し、気が付くと何故か私は彼女たち3人のサークルの同人誌にゲスト参加するような話になってしまっていた。
当時はまだ『BL』なんて言葉がなく(もしくは認知度が低かった?)、いわゆる耽美系小説などとくくられて……少年愛という言葉は存在していたような気がする。
つまりあれだ……彼女たちに強要はされたが、私はスポーツ少年による、精神的な愛情物語を新鮮な気持ちで書いたわけで。
もちろん、そこに至るまでに読み手がどういう話を求めるのだとか、既存のお話を読んだり、分析した上で……の話だ。
ガッツリ肉食系の露骨な描写物はさすがにちょっと……だったが、いわゆるプラトニック系のものなら私は平気というか、キャラが変わるだけぐらいの認識で普通に読めて楽しめたのでその方向で勘弁してもらった。
彼女たちが言うには、好評だったらしい。
まあ、それを真正直に受け取るほど私は子供ではなかったし、おそらくは『男性』がその話を書いたという部分が評価そのものを歪めたのではないかと思っていた。
まあ、これはこれで良い経験だと、その次は初老の研究者と青年の教え子の愛憎というか、悲恋ものを書き……その次の話を書くために、彼女たちのアジトに拉致られた感じの状態。
で、プレイボーイ的な先輩に思いを寄せる後輩の話の構想を練るにあたって、男性である私は女性の気持ちがわからないので、彼女たちにそういう質問を飛ばしたわけだ。
「愛情を持ってない相手なら問題なしかな」
「心にずしりと響く意見ありがとう」
言ってることはわかるけど、わかるけどさあ、愛情持ってない相手のハーレムの一員ってところを割り切れるもんなのか?
「世の中、大抵のことはお金で解決するよん」
「……まあ、至言であることは認めるけど」
実際のハーレムもそうかも知れないけど……などと口には出さないが、表情には出ていたらしい。
「愛情ありでハーレムってハードル高いよ?」
「……すぐに思いつくのは、諦め、かな?」
「どゆこと?」
「たとえば、自分ひとりじゃ身体がもたないと思わされたら仕方ないよね」
「あぁ…そうね」
「?」
意味が理解できずに首をかしげた私を見て、彼女たちはケラケラ笑った。
「毎晩毎晩、朝まで寝かせてくれなかったら死んじゃうでしょ?」
「……」
あけすけにこういう話を女性にされて、どう対応すればいいのやら。今なら見事に乾ききった対応ができると自負しているのだが。(笑)
まあ、馬鹿な話題を振ったのが私だからして、人はそれを自業自得という。
「『どうかほかにも相手を見つけてください』と相手に言わせたら、これは強いよね」
「まあ、それはそうだろうねえ…」
生返事をしながら、私は『逆もまた真なり』なんだろうなあ……などと考えていたり。
「というか、男性側はどうなの?」
「はい?」
「逆ハーレム状態を許容できる?」
「逆はーれむ…?」
今でこそそれなりに一部で認知されてる言葉だが、この時私はこの言葉を理解というかイメージするまで多少の時間を要した。
今思えば、これは男性としての価値観の傲慢さの一部であろう。
「……愛情がなければ(笑)」
うん、どうでも良い相手なら、どうでも良いや。
「あはは。ハーレムはそれでも成り立つと思うけど、逆ハーレムは、それじゃあ成り立たないのよぉ」
むう、奥が深そうだ逆ハーレム。
つまり、相手に対して愛情を持って……。
「ああ、うん。絶対無理」
自己犠牲系でかすかに可能性があるような気もするけど、ちょいと想像できません。
「あははは。自分が無理なこと相手にさせちゃダメでしょ」
「え、いや、別に俺がそれを望んでるわけじゃないのだけれど?」
「ほんとにぃ?」
「だって、どう考えても面倒くさいやん」
1人を相手するのにも、めちゃめちゃ高度なコミュ力が求められるというのに、複数を相手して、しかもそれで不満をためさせないとか、どんなマゾゲーですか。
「つーか、価値観の違う相手それぞれに対して、全員平等に扱ってると思わせなきゃダメって……綱渡りというか、糸わたり以下だろ?」
と、私のこの言葉に彼女たちはちょっと顔を見合わせ……そして笑った。
「あはは、平等ね。ふーん、男ってそういう考え方するんだぁ」
「全員平等に接したら、全員怒るね、多分」
はて?
人間という生き物は、自分が相手より損をすることには耐えられても、相手が自分より得をすることには耐えられない……感じだと把握していたのだが。
「これだけでも男と女は別の生き物だってわかるぅ」
「うんうん」
などと、何が面白いのか、彼女たちはケラケラと笑い続ける。
ああ、うん、寝不足でハイなんだね。
まあ、男と女が別の生き物というか、異質の認識を持つってのは頷けます。
正直、彼女たちとの交流は私としても得るものは多かったと思う……いや、創作的にな。(笑)
ただまあ、いわゆる腐ってる彼女たちが女性として主流の思想そのものとも思ってはいませんが。
そもそも、私にしたって男としての主流の思想ではないだろうし。
まあ、彼女達に言わせると『逆ハーレムを成立させるメンバーの狂気そのものに萌える』んだそうな。
つまり、彼女たちから見た男性サイドのハーレムってのは愛情による支配というか、女性には理解できない男性特有の価値観に引いてしまうらしい。
重ねていうが、彼女たちの考えが女性として主流とは思わない。
ただ、男性サイドの価値観に女性を従わせるのだとすると、そこには大いなる矛盾をはらむわけで……男性的価値観の支配下で教育された女性しかそれを受け入れることはないだろう。
異論はあるだろうが、愛情は感情だ。
男性的ハーレムを成立させるのは理性というか、計算。
女性的ハーレムを成立させるのは狂気……まあ感情か。
彼女たちの考えをもとにすれば、なるほど、ハーレムと逆ハーレムは似て非なるものというか、全く別のものなのかも知れない。
しかしこれは、彼女たちの見方を基準にしてのものだ。
彼女たちは現代日本の教育に影響を受け、女性としてハーレムそのものを受け入れがたいのだろうし……それは男性の私から見て逆ハーレムに対する考えと対になっているような気がする。
だとすると……本当の意味でハーレムを成立させるために必要なものは、狂気なのではあるまいか。
もちろん、その『狂気の根源』の違いはあるにしても。
そういや、某名探偵が殺人について10種類ぐらいに分類し、その中の『愛情ゆえの殺人』に感慨を覚えた記憶がある。
メンヘラというかヤンデレというか……ハーレムとは相容れないイメージがあるが、ゆるーく『狂気』に分類した上で、その根源において差分を考えれば、新しいジャンルというかカテゴリーのヒントがあるかもしれない。
……読み手に受け入れられるかどうかはさておき。(笑)




