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39話:すごく静かに歩け

サブタイトル含め、ちょいちょいやばいネタを突っ込んでますが、見て見ぬふりをしていただけるとありがたいです。 

 雲の切れ間から降る光の柱。

 英語で、エンジェルステアー……天使の階段というのだと知ったのは、中学生の頃だったように思う。

 あの光景を絵で表現してみたいと幾度かチャレンジしてみたのだが、その度に己のセンスのなさと不器用さに、リアルで筆を折ったのは、若さ故の過ちか。


 ……というわけで、魔女の一撃である。

 知っている方も少なくはないだろうが、いわゆる広義な意味でのぎっくり腰だ。

 この表現を考えついた人は天才だと思う。

 日本における魔女の概念は、英語圏のそれとはまた異なるのだろうが、『魔女の一撃だと……ああ確かに魔女の一撃だよ、コンチキショー』と、唸り声溢れる説得力に満ちた言葉であろう。

 ぎっくり腰とはまた少し別のものではあるが、私と腰痛との付き合いは長い。

 まあ、当然ながら野球がもたらした怪我であるところの腰痛なのだが、何が不満なのか年に一度ぐらいの頻度で、それはぎっくり腰へとクラスチェンジを果たす。

 擬人化文化にあやかって、それを『彼女』と表現することをお許しいただきたい。(笑)

 彼女は暴力的なまでのツンである。

 そこに慈悲という名のデレはない。

 寝返りを打とうとすると(暴言を吐いて)許さない。

 彼女は、私が立ち上がろうとすると(パンチで)引き止める。

 彼女は私が外出しようとすると(キックで)引き止める。

 なんだよ、そんなに俺と離れたくないのか……しょうがないなあこいつぅ、などと悟りを開けるほどの包容力をあいにく持ち合わせていない私は、速やかに彼女との別れ話を成立させるべく冷たく接する。


 悪化した。


 うん、彼女に冷えは大敵である。

 彼女は冷えると機嫌を損なう。

 そりゃそうだ、冷たくされて機嫌をよくする者などいない。

 特殊な性癖の持ち主を例外として持ち出す向きもあろうが、あれはあれで冷たいわけではないと私は思う。

 機嫌を損ねた彼女をなだめるべく、私は彼女に添い寝して怪しげなストレッチ(腰痛体操)を施す。

 お風呂でのスキンシップなど、物理的に温めて彼女の怒りをほぐすのもひとつの手だ。

 やがて、彼女がうたた寝を始める。


 好機、来たれり。


 私は、彼女を起こさぬように静かに起き上がる。

 身体の動きはもちろんだが、呼吸も注意しなければいけない。

 静かに、ただ静かに。

 上下動、左右のブレを起こさぬよう、静かに、滑るように私は移動を開始する。

 大丈夫、彼女は私の背後にいる。

 ふり向くな、彼女は怖いほど美しい。

 サヨナラも言わず出て行く私を、彼女はひとり、ベッドの中でぼんやり見てるだけ。(願望)

 静かに、静かに、ドアを閉めた私は、整体師のまつ診療所へと向かう。

 すごく静かに歩き出した私は、彼女の声を聞いたような気がした。


 またね。


 いや、二度と会いたくねえよ。

 

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