33話:消える魔球を考える(不真面目編)
ロマン。(笑)
消える魔球は実在します。
正確に言うと、消えるように見える魔球。
もっと正確に言うと、打者だけがボールの存在を見失う魔球。
タイトルに再びの注目を。
不真面目編である。
スポコン(死語)漫画の主人公よろしく、血の滲むような特訓を必要とはしません。
ある特定の外部条件を満たし、野球選手としてそこそこの能力を有していれば、誰だって投げることが可能です。
ただ、注意しなければいけないのは……タイミングと、状況を考えた上で投げないと、審判にそのプレーを無効にされます。
ついでに言うと、1試合に1球まで。
おそらく1球目で審判から指導を受けますので、2球目を投じると悪質であると判断して退場処分を受ける可能性があります。
あくまでも、『偶然(笑)』でしらばっくれなければいけません。
さて、状況を整理しましょう。
試合をやっている場所は球場ですか?
スコアボードの位置は、投手から見て真後ろにありますか?
バッターボックスから捕手に確認してもらいましょう。
あなたの投球フォームを見て、手がスコアボードの外に飛び出していなければ、外的要因はほぼ満たされています。
これから説明する『消える魔球(笑)』は、いわゆる違法ではないが適切ではない投球である。
正確に言うと、拡大解釈すれば違法だが、そこまで細かいルールを把握し、瞬時に解釈を拡大させて違反投球の判断を下せる、高校野球の審判は全国でも数える程しかいないであろう。
1度負けたらそこで終了の高校野球。
『偶然』のアクシデントに違反投球の判断を下すことで、投手は心理的衝撃を受けはしないか……ひいてはそれが試合の結果に影響するのではないか?
そんなことを考えてしまえば、審判の判断は必ず弱気に流れる。
面白いのは、投手への心理的負担を恐れるくせに、そんな状況でカウントを悪くした打者への思いやりがスコーンと抜けることである……その根底に有るのは、自分が通常から外れた重要な判断を下したくないという日本人的思考論だろうと思う。
恐れる必要はない。
1球目でいきなり退場処分を受けることはない……せいぜいは指導。
逆転サヨナラの場面で最後の1球……などは角が立つのでプレイの無効を言い渡される恐れがあるが、ストライクを先行させたい状況とか、1ストライク目、2ストライク目に投じたならば、『まだ終わっていないから』などと、無効にされる恐れはほぼないと言える。
気をつけなければいけないのは、昔と違って今はネット全盛時代。
いわゆる情報社会。
情報は瞬時に駆け巡る。
1試合に1球ではなく、1年で1球しか投げられないかもしれないということだ。
さて、実技の説明に入ろう。
本来ならピッチャープレートの横幅を利用して、横の角度を使った投球をするのだが、背後のスコアボードとの兼ね合いで、真正面(中央)からいくほうが良い。
大事な場面だからと、丁寧にロージンバック(滑り止めの粉が入った袋…)を使って前準備はオッケー。
ファストボールかスライダーの、球にスピンを利かせる球種がベスト。
あとは投げる、それだけである。
は?
疑問に思う人のために、打者目線から説明しよう。
そもそも球場のスコアボードというのは、投手の手元が見やすいように設置されている。
青空ならともかく、投手の手元と白い雲が重なったりしたら球際が見にくくなるからだ。
黒というか、深緑というか……スコアボードの色に対して、白球は打者の目に対してくっきりと浮かび上がるように見えるのです。
さて、時速150キロなら、投手から捕手までわずか0.4秒で到達する。
時速100キロでも、0.66秒。
高校野球の投手なら……まあ、ごくごく平均レベルで時速120キロは出る。
打者のスイング始動からヒッティングポイントまで、プロレベルで0.2秒。(コースにもよるが)
投手が投げてからわずか0.5秒の間に、打者は球種及びコースを判断してスイングを始め、誤差を修正しながらボールを打つ。
陸上競技のスターティングブロックにおいて、スタートから0.1秒以内に一定以上の力が加わるとフライング判定が出ます。
つまり、人間の体は何らかの情報に対して判断というか反応するまで0.1秒以上かかるというのが科学的常識となっている。
時速120キロ、その残された時間0.5秒のうち、スイングに0.2秒、(プロレベルで)球が離れた瞬時の判断に0.1秒。
余裕は0.2秒しかない。
と、ここまでが大前提。
滑り止めの粉をたっぷりとまぶされたボールが投手の指先に強くはじかれスピンを始める。
その瞬間、まぶされた白い粉は周囲にはじけ飛ぶのだ。
(打者の目線から見て)投じられたボールの背後に白いモヤがかかって、ボールの存在を見失う。
ボールの出処を見失えば、人間の目はその後の軌道を予測できず、ボールを追いかけることはできなくなる。
日常生活の場ならなんでもないような僅かな混乱……だが、既にボールはキャッチャーのミットに収まっている。
ストライクのコールの後、審判が滑り止めのつけすぎに注意するようになどと投手に指導したところで、打者としてはなんの救いにもならない。
すぐに切り替えて集中したところで、ストライクカウントをひとつ失っている事実は変わらない。
混乱及び不満を引きずったまま集中を欠けば、実力を発揮することは能わない。
消える魔球、完了である。
ちなみに、滑り止めの粉をつけすぎて感覚が狂い、投げた球がストライクゾーンを外れてボールになった場合、投手はなかなかのピエロになる。(笑)
つるかめ、つるかめ。
あ、気づいちゃいました?
上に書いたものは別の方法があるのです。
ただし、投手はサイドスロー(横手投げ)か、アンダースローに限られますが。
滑り止めの粉ではなく、内野手のユニフォームの白色を保護色として、ボールを隠す方法です。
ピッチャープレートの横幅をフルに使って、ショート、もしくはセカンドの守備位置を調節。
白いユニフォームなら、打者の目からかなりボールは見にくくなります。
ただし、球種、コース、守備位置など、かなり細かい調節を必要としますので、チームとしての練習が必要になります。
それは、事が発覚した時に悪質だと判断される可能性が高くなり……(以下略)
ランナーがセカンドにいる時に、走者を牽制してたら偶然そうなりました……と言い訳できるケースでのご利用をおすすめします。
ご利用は計画的に、細心の注意を払ってね。
打者の行為を妨害する意図のあるなしにかかわらず、大声を出す、視界を横切るなどの行為はルールで禁じられております。(笑)
まあ、そもそもどこかの文豪曰く『スリのごとく卑しき競技』ですからね。(開き直り)
でも安心して、次は『真面目編』だから。




