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28話:学歴の破壊力

こ、これが学歴の破壊力……。

 大学4年目、悲しいことに私は相変わらず留年生だった。

 日本全国での統一された呼び方かどうかはわからないが、私が在籍していた大学では4回生3年と呼ばれる存在。

 まあ、一般的に不名誉ではあるのだが、大学内に限って言えば留年生はそれほど珍しい存在ではない……だからといって、仲間内で自虐ネタに使いはしても、胸張って周囲に宣言するようなものでもないのだが。

「ほら、一姫二太郎というだろう?大学生にとって、一浪二留は最も収まりの良いスタイルなんだよ」

 ……などという、剛の者の皮をかぶった現実逃避人間も散見できるのだが、礼儀正しく相手の目を見つめ、にっこり笑ってやるとたいていは目をそらす。

 一見平気そうにしていても、彼らは心の中でひどく傷ついているのです……もしかすると、かけがえのない家族からの裏切りにも似たひどい仕打ちによって。(笑)

 できれば、優しくしてあげてください。


 いつものことだが、話がそれた。

 正直今でもよくわかっていないのだが、どうあがいても4年で卒業できないというのに、何故か私は3回生2年の段階で3年生から所属するはずの某教授のゼミに属することになり、秋からは4年の先輩から引き継ぐ形でゼミ長に就任し、この春に新しくゼミにやってきた3年生の歓迎会の準備やら、名簿の作成やらをしていたわけで。

 教授の補佐及び、ゼミの催しの幹事、後輩へのゼミ紹介……まあ、ゼミにもよるが、私がついた教授のそれはほかに比べるとさほどの手間ではなかったように思う。

 ごくごく真面目な学生は4年生の春の時点で単位はほぼ取得しており、必修単位のゼミ、そして卒論を書くだけ……なのだが、就職活動に時間を取られることになる。


 就職活動を始める時期というか状況というか、近年目まぐるしく変化していて読んでいておやっと思うかもしれませんが、当時はこんな感じだったと思ってください。

 いないとは思いますが、今の参考にはしないでね。


 時は氷河期。(笑)

 大学4年生は、就職活動に時間を取られることになる。

 時は氷河期であった。

 大事なことなので、2回言いました……でも、いつの氷河期なのかは書かないよ。

 内定が貰えなければ大学院に進むか、恥を忍んでわざと留年して次の年に頑張るか……などという本人たちにとって当たり前の世間話をしているゼミ仲間の胸ぐらをつかんでニッコリ笑ってやる私。


 恥をさらしてて悪かったな。


 ゼミ長からの、無言のプレッシャー。

 大事なことなのでもう一度。

 一見平気そうにしていても、留年生は心の中でひどく傷ついているのです。

 と、いうわけで卒業できない私は、就職活動なんかしません。

 就職活動にあくせくしている仲間に対して、優越感と劣等感を同時に抱く、微妙なポジションに私はいたわけですね。


 桜の花が散り、葉桜となって毛虫が大量発生する頃、就寝中の私は、電話の音に起こされました。

 は?2時?

 実家でなんかあったのか?

 不安を胸に受話器を取る私。

 非常識な時間に電話をかけてきやがったのは、某企業の人事担当をしている人間でした。

 学生の非常識に社会人が眉をひそめる話は幾度となく耳にしましたが、社会人ならぬ会社人の非常識に学生が眉をひそめる羽目になるとは。

 まあ、同じ大学のOBらしく、各ゼミ長に連絡入れてうちの会社に興味ある人間に声をかけてくれないか……みたいな話。

 はあ、なるほど……ひとつお伺いしたいのですが、私の連絡先をどうやって入手したので?


『え?うちの大学のゼミ長の名簿は、いろんな企業のOB連中が手に入れてるけど?』


 仕事しろ個人情報保護法……はこの時代にはなかったの。

 つーか、名簿は学部学生課にあるわけだから、よーするにOBから申請されるとホイホイ渡してるってことかよ。

 なんか色々と納得できない話ではありましたが、私だけの話ではないのでゼミ連中に話は通します……興味を持った人間はどのように連絡を取ればいいですかなどの要点を聞き出してから電話を切り、速攻で寝直しました。


「……というわけで、某企業さんからこういう話があって」

「はいはいはい!」


 ゼミの授業終了後に切り出したところ、速攻で一人食いついてきました。

 ……時期に関してあまり大きな声では言えませんが、彼には速やかに内定がでました。

 よくわかりませんが、私の電話の受け答えに関してかなり評価が高く、内定もらった彼から私にもう一度声をかけてくれなどと頼まれたそうな。

 なるほどあの失礼な電話は、こっちの対応のテストでもあったのか。

 うん、それはさておき。


 仕事しろ、就職氷河期。


 というか……これが、学歴の破壊力なのかとあらためて感じいりました。

 まあ、偏差値はそれなりにお高くて、歴史のある大学でしたから。

 正直、同じ大学出身という人脈が馬鹿にできないことを、知識ではなく初めて実感したのがこの時でした。


 もちろん、これを皮切りにいろんな企業からいろんな時間に電話がかかってきました。

 同じゼミ仲間もそうですが、就職活動で思いつめてる感じの知り合いは何人もいましたから、相手(企業)の了解を取りつつ、ほかのゼミ、ほかの学部の人間にもいくつか話を回し、もちろん紹介する相手は選びましたし、うまくいかなかったこともあるのですが……まあ、面白い経験ができましたね。

 ちなみに、このことをほかの大学に通う知人に話したところ、マジで首を締められました。

 うん、人という生き物は他人を傷つけながら生きていくものなんですね。


 ところで、私が就職活動をする次の年、誰も私に企業の人を紹介してくれませんでした。

 解せぬ。(笑)

 多分、卒業できない私がゼミ長をしていたってのが、特殊だったんでしょうね。

 つーか、ほかのゼミ長と話をしたけど、明らかに私のところにかかってきた電話の数は異常だったみたい。

 OB連中の間で、私の存在が話題にでもなってたのでしょうか?



 さすがに今は、こんなことないですよね。

 個人情報とか、個人情報とか、企業のあれこれとか、その他もろもろを含めて。 

 基本、仕事が終わってから電話をかけてくるみたいだったので、休日、早朝、夜、深夜のどれかの時間帯。

 正直、めちゃくちゃ迷惑である。

 公人としてはともかく、個人としてはお付き合いしたくないですね。

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