22話:石合戦
私の祖父は、明治の20年代に生まれたらしい。
当時は今と違って、生まれてから半年遅れ、1年以上遅れで届け出るのが当たり前だったらしく、この時代のお年寄りの誕生日やら、生まれた年はほぼ当てにならないんだそうな。
子供が生まれて、すぐに次の子供を妊娠して……面倒だから、お腹の子供が生まれたらその時一緒に言えばいいよね……みたいなことも、田舎の農村では割と普通だったそうな。
そもそも当時は、誕生日という概念そのものがなかったかもしれない。
年が明けて、みんな仲良くひとつ歳を取る。
いわゆる、数え年というやつか。
私の父は末っ子で、私もまた末っ子。
私が物心ついたとき、祖父は既にジジイを通り越してお爺さんだった。
『祖父・祖母に昔の話を聞こう』などという、核家族化が進む現代社会では無理っぽい学校の宿題に対し、私は別の意味で苦労をした。
既に90を越えた老人相手に、小学生とのまともな会話を望むほうが酷であるからだ。
まあそれでも、仕方なく(今思うと、祖父は祖父でかなり迷惑だっただろうが)話を聞いて……恐ろしいと思ったエピソードがタイトルのそれである。
雪合戦ではなく、石合戦である。
決して書き間違いではない。
祖父が話を盛った可能性はないこともないが、明治生まれの伯父さんもそのことについては言及していたから多分……。
しかもこれ、遊びのエピソードなのである。
隣村のガキ連中と喧嘩になって……とかじゃないのだ。
「今日は何して遊ぶ?」
「石合戦やろーぜ」
「いいね、やろうやろう」
みたいなノリなのだ、きっと、多分、メイビー。
陣地を構築し、手のひらよりちょっと大きい程度の木の板を盾にして相手陣地に攻め込む(当然攻撃手段は石だ)攻撃と、それを防ぐ防御と……うん、このあたりはよくわかる。
雪合戦のイメージ、そのまんまですからね。
雪玉の中に石を入れて……なんてのは、現実はさておき、漫画のネタとしてはありふれたものではあるのだが。(私の世代では)
今の時代、雪合戦の雪の中に石を入れるなんてできないですよ……などという人がいて、理由を聞いたらこんなふうに返された。
『だって、石なんかどこで探すんですか?』
……マジですか。
すごいぞ大都会。
すごいぞコンクリートジャングル。
おいでませ、大田舎に。
石なんか、その辺にごろごろしてるぜ。
まあ、私の世代でも『砂利道』を経験している人間はあまり多くないというか……いや、私有地とかじゃなくて、マジの公共道路でのおはなし。
でもまあ、道路が舗装されて、河川敷が堤防になって……それを考えると、石ころってのはレアなアイテムなのかもしれないなあ。
南国における雪ほどじゃないにしても。
話がそれた。
そう、石合戦。
基本、雪合戦の石バージョン。
打撲、骨折上等。
その影響で、手足がちょいと不自由になっちゃうケースもあり。(祖父談)
打ち所が悪くてどこぞの村の誰それの子供が死んだ……みたいな話も何度か聞いた。(祖父談)
昔は良かった……などという人間に、膝を突き合わせて小一時間ほど問い詰めてみたい。
うん、そんな昔は想定してないよとか言われそう。
なぜだろう?
『おまえが言うか?』と、幻聴が。
振り返ると、前髪をかきあげてハゲをさらす兄の姿が。
いやいや兄上様。
あれは、10メートル以上距離があったのによけられなかった兄上様が悪いのでございます。(笑)
そもそも、兄上様に向かって泣きながら石をぶん投げるに至った理由は……(以下略)
余談ですが、この兄との仲はいたって良好でございます。




