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179話:『できる』と『できない』。

 199X年……というか、20世紀末。

 会社勤めにおいてパソコンを使用するのが当たり前の時代へと移り変わっていった頃。

 普段からパソコンを使いまくっていた人間ほど、『いや、パソコンはあんまり使えません』と発言し、普段あまりパソコンを使っていない人間ほど、『一応使えます』などと発言するケースが多かったそうな。

 これは前者の認識が、『パソコンを使える=プログラムとか自分でガンガン組める』というものであったのが主な原因です。

 ソフトをインストールして、そのソフトをポチポチ使う……というのは、パソコンを使っていると言えるレベルではないと。(笑)

 そして、『ソフトを使っている人間』が『俺、パソコン使えます、得意です』などと発言してしまうのも、基準を何処に置くかの主観的なすれ違いが原因だったり。


 まあ、このあたりで痛い目にあった経験が『こういうレベルでパソコンを使えるか?』という、具体的な質問へと変化させたわけですね。

 度重なる仕様変更などの痛い目に遭って、書面での取り決めがあたりまえになったりするのも……まあ、同じようなことかと。

 しかし、考えてみれば、今からわずか20年ほど前とか、課に1人パソコン係という人間がいて、新しく納品されたパソコンにOSをインストールしたり、ミニゲームを削除したり……みたいな会社が少なくなかったわけで。

 パソコンメーカーでもそれだから、当時の社員全体の認識度は推して知るべしかと。(笑)


 多かれ少なかれ、社会に出るとこの手のことは経験します。

 なので、社会人は学生に比べて『できる』『できない』の言葉に対してナイーブというか、神経を使う癖がつくんでしょうね。

 体育会系の部活なんかだと、練習試合で『おう、お前あの投手打てるか?』と聞かれて『はい、打てます!』と答えて代打に出されて凡退した選手が、その後一度も試合に出ることがなかったりするケースもあるからあれですが。

 ちなみに、『わかりません!』と答えると、『おう、そりゃやってみないとわからんわな』と機嫌よく答えるケースと、『覇気がないんじゃ』と怒られて、やはり試合に出場する機会のないまま……というケースもあると聞きます。

 ああ、『打てません』と答えるのは、基本的にいいことありません。(笑)

 なので、『打てます!』と答えた上で、結果を残すしかありません。


 ……くそっ、なんて世界だ。(笑)


 まあ、今の時代よっぽどの専門職じゃない限り、業務は誰もができるようにマニュアル化されているというか、されてないとおかしいです。

 もちろん、誰もができるの『誰も』というのは、文字通りの誰でもできるという意味合いではありませんけどね。


 一昔前、等身大の自分を知るとかいう言葉が流行りましたが、本当は自分を知るだけでは不足で、自分がその場において何を求められているか……までわかって、初めて選べるということでしょうね。 

 布帛を知る、は晏子の言葉でしたか?

 まあ、それができれば苦労はしないというか、歴史に名が残せるほどの難易度とまで言うのは言いすぎですか。

 バランスって難しい。

 リアルな話をすれば、周囲に選ばれるための選択を求められるのが、世の中の大多数の存在ではないかと。

 『人は皆、人生の主人公』……などという言葉がありますが、この『主人公』は多くのゲームの主人公みたいに自分の選択で未来を切り開いていけるような都合の良いものではなく、周囲に選ばれる……つまり、周囲に必要とされる選択肢を選んで運ばれていく、流されるタイプの主人公ですね。(笑)

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