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169話:高血圧……え?

 生まれて初めて献血をしたのは、浪人生の時でした。

 母が「この日、〇〇に献血車が来るらしいわ。あんた献血してきな」などと、ぶっ込んできたからだ。

 献血車……だと?

 献血って、病院とかじゃなきゃできないものじゃなかったのか?

 もちろん、即参加を決めた。

 基本的に、田舎の人間は排他的だが、珍しいものは好きだ。(笑)

 私と母以外にも、わざわざ車を出してそこまで足を伸ばした人が結構いた。

 まあ、一種の娯楽だ。

 しかも、『今日、献血してきてなあ…』などと、それぞれの家庭に話題まで提供してくれる。

 素敵なイベントと言える。


 と、まあ……初めての献血の際に、自分の血液型を知り、初めて血圧を測定し、そして予想以上の参加者で待ち時間が半端ではなかった。(笑)

 多分、田舎だからあんまり人が来ないと思っていたのだろう。


 ちなみに、初めて献血した時から、私の血圧値はほぼ変わらない。

 ただ、献血時に配られるパンフレットの数値ばかりが変動し、数年前、私の血圧は『ついに定期検診が必要』な状態になってしまった。

 と、いうか……血圧130以上で高血圧と書かれてるパンフレットを見て、私は首をかしげた。

 初めてもらった献血のパンフレットには、高血圧は上が180以上と記載されていたのを覚えているからだ。

 まあ、その数値はすぐに170になり、気が付けば140になっていて……そしてとうとう130に。

 ああ、患者を製造してるんだなあ……と苦笑するしかない。

 その頃、製薬会社の一番の売れ筋は高血圧治療薬というか、降圧剤だということを知っていたからだ。

 薬を売るために患者を増やす。

 そのために、基準を厳しくする。

 医者は定期的な患者が増え、製薬会社も薬が売れる。

 そして国民は健康になる。

 これが、ウインウインの関係だ。(笑)


 むかついたので、医療に関わっている知人たちから話を聞いたり、少し調べたりした。

 数年前のことなので、現状とは差が出ているかもしれませんがご容赦を。


 さてさて、血圧なのだが……この時(1990年頃)、『高血圧の基準』は、上が160だった。

 昔は、年齢に90を足した数値よりも低ければ正常……みたいな基準で、『子供はやばいな(笑)』などと言ってたらしい。

 しかし、世界保健機構の定めた規定(1970年代)を受けて、日本もまた高血圧の基準を上が160以上と定め……この基準が続いていたわけですね。


 さて、1993年頃、世界保健機構で新しい分類法が誕生。

 上が140以上160未満を、『境界域高血圧』と名づけ……まあ、『高血圧にならないように、日常生活に一応注意しようね』というグレーゾーンを設定しました。

 高血圧の基準が、上が160以上ということに変更はありません。

 これを受けて、日本もまたこの国際基準を取り入れます。

 しかし、日本の厚生省が監修した冊子だとこう表記されてしまいます。

 上が140未満:『正常血圧』

 上が140以上160未満:『境界域血圧』

 上が160以上:『高血圧』


 つまり、『正常血圧』という言葉を用い、上が140以上の血圧を『異常』としました。

 そのくせ、『境界域血圧』などという言葉を使用するのです。

 国際基準での、『高血圧にならないように、日常生活に一応注意しようね』というグレーゾーンを、『少し頑張れば正常に戻るよ』というレッドゾーン指定したわけです。

 実際、このゾーンの人間を定期的な血圧測定の対象者と定めています。


 そして、2004年には、診療指針の改定により、高齢者に対する降圧目標値を『140~160』から『140未満』へと引き下げました。

 血圧は上が140未満が正常だからね、治療というからには『正常血圧』まで下げないと意味がないよねと言わんばかりのやり方です。

 しかも、この診療指針にはこんな逃げ道が用意されています。


『この目標値が妥当かどうか、現在のところエビデンス(証拠)がない』


 汚い、さすが汚い。(笑)

 根拠のない数字を目標にするのか。

 この結果……高血圧患者が国民の4%から24%に増加したと推定されるそうな。

 いやっほう、約3000万人の高血圧患者が出来上がりました。

 医療費削減が叫ばれている昨今、厚生労働省にはこの数値を訂正する動きはなさそう。

 製薬会社における一番の売れ筋は、『血圧を下げるお薬』、つまり、降圧剤……そりゃそうだろうと思う。

 しかし、このあと、我々はさらなる驚きを知る。


『この目標値が妥当かどうか、現在のところエビデンス(証拠)がない』


 ツッコミどころ満載のこの逃げ道。

 なんと、この逃げ道を斜め下に使用するのである。

 正常血圧の水準を、上129と発表。

 献血のパンフレットの、上130はこの新しい基準を受けての数字だ。

 そうか、根拠がなかったから、条件がさらに厳しくなってもおかしくないよね。

 うーん、さらに患者の数を増やそうとするとは、医者と製薬会社も大変なんだなあ……。

 そう、医療報酬改定が世間を騒がせていた頃だ。(笑)

 人が、愛を取り戻すために戦うように、彼らは金を取り戻すために戦う。


 さて、これにはさすがに色々と突っ込みが入りまくったのか、去年に高血圧の新基準が……といっても、これを定めた団体が別の団体なのでアレなのですが。(笑)

 基準の根拠も、ふんわりとしたものだったり。

 世間に出回っている二つの基準は、二つの別の団体が発表したもの。

 これと、日本が取り入れた世界基準というか、世界保健機構の規定した数値とはまた別で。

 なんでそっちが出てこないのよ?(笑)


 よし、ここで一つ流れをおさらいしてみましょう。

 国が定めた基準とは別に、某団体が基準を定め、それをもとに医者の診療指針まで改訂して……今度はまた別の団体が新たな基準を発表。


 権力闘争?


 製薬会社の利益を守る集団と、一般人に寄り添う姿勢を見せて民意を得たという錯覚を武器に権力を奪い取ろうとする集団の争い。

 素直に、国の基準(世界保健機構)を使えよ……っていうか、話題にもならないほうがよっぽど怪しいわ。

 みんなのツッコミ力がたまってくるのを感じる毎日です。

 もちろん、国際基準と国の基準が違うなんてのは普通のことですが、国際保健機構及び国際高血圧学会が定めた規定を取り入れたのは、日本という国のある分野で。

 でも、今基準を発表しているのは、それとは別の団体。

 引き継ぎとか、後継団体の歴史とか流れが全然登場してこない。


 最近叫ばれる医療費削減によって、医療報酬の変更などが実施される……が、そうやって減らした部分を、どこかで増やすことによって医薬関係の顔を立てている。

 血圧以外でも、最近よく聞くようになった糖尿病患者予備軍など……生活習慣の変化によってなどと説明があるが、基準が変わったことによって膨大な患者を増やしただけかもしれない。

 腎臓機能不全による、透析患者の増加もそうだ。

 保健の適用によって、実費と患者の負担額に大きな開きが出るということは、その分取り分が大きくなる人間が出てくる。

 考えたくはないが、医者は患者を増やすための診断を下すかも知れない。


 近年、医学、薬学に関して何らかの法律的縛りがニュースになるたび、それに遅れて私たちは新しい病気の恐怖にさらされていることを知らされる。

 それが偶然と思えるほど、私は気楽にはなれない。

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