16話:ぼーなす
時期に合わせた話題ですからぁ。
にっこり。(黒い笑み)
ボーナス。
心躍る響きのある言葉である。
まあ、自営業やらフリーターの人間にとっては無縁のモノでもあるのだが。
近江商人の成り立ちというか歴史について調べたことがあり、日本企業におけるボーナスの原型というか、変化及び成立に至るまでの底の浅い知識を持っているのはおいといて。
毎年、ボーナスの時期になると今年のボーナスは平均何ヶ月分やら、ニュースで語られるたびに私は顔をしかめてしまうのです。
企業経理という立場から見ると、ボーナスってひどいよなあ……と。
もちろん、企業によってボーナスの経理処理ってのは少しずつ異なっているんですけどね。
まあ、わざわざマスコミでそういうニュースを流すあたり、日本社会における情報隠蔽手段がえげつないってのが正解かもしれませんが。
さて、ちょっとボーナスについて考えてみましょう。
不況のせいで今年のボーナスはなかった。
今年のボーナスは何ヶ月分で思ったより多かった。
などなど。
ごくごく当たり前の会話というかやりとりなのですが、そもそもボーナスってどうやってひねり出されるものかを考えたことはありますか。
ぶっちゃけ人件費というか、給与支払以外の何モノでもありません。
おそらく、大多数の人間は『今季の利益(業績)にあわせて、労働者への特別還元』みたいな認識なんじゃないのかなあと思います。
夏の6月、冬の12月、会社にあるお金からお小遣いよろしくぱあーっと振舞う……。
自転車操業か。
企業の経理は、そんな行き当たりばったりで回ってません。
特に、マスコミがボーナスの見込みをニュースとして流すような上場してる株式会社なんかは、各部門の買い付けやら設備投資やら、この月の何日にいくらの金額が口座に必要、この日にいくらの金額が入ってくる……みたいなシビアな計算が大前提にあります。
というか、入ってきたお金は口座に入れて、必要な額を口座から引き出す……みたいな、家庭の家計簿みたいなことをやってると、株主から突き上げを喰らいます。
企業にとって、お金は回すものであり寝かすものではありません。
仮に、この日に1億円必要で、口座には3億円ある……みたいな状況(笑)だとすれば、その日に口座に残るお金を1億と500万ぐらいに調節し、1億9500万を投資なりなんなり、別の部分へと回して利益を追求しなければいけないのです。
詳しく説明すると、かなり嫌な話になるのでやりませんが……つまり、社員に対する給与支払にあわせて、企業の口座には資金が残されます。
もちろんこれは、ボーナスに関しても同じこと。
社員へのボーナス支払総額がいくら。
この日に口座に必要とされる額。
それ以外にも、取引やら何やら……企業口座の残額の推移は、1ヶ月以上前からきちんと計画され運用されます。
それとは別に、社員へのボーナスがどのように経理処理されるかというと……。
えっと、企業によって色々違う点はあるんですが(予防線)、毎月の給与からの天引きです。
毎月毎月、あなたに支払われるはずのお給料からボーナス貯金という名目で天引きされ、積み立てる形で処理されています。
会社勤めを始めた人は最初の夏のボーナスはもらえません。
夏は6月、冬は12月。
つまり、夏のボーナスは12~5月の積み立て分、冬のボーナスは6~11月の積み立て分(あくまでも簡略化モデル)。
4月から働き始めた新人は、積み立て分が足りません。
新人には『寸志』という形で、少額ですが夏のボーナスっぽい何かを、会社によっては恩着せがましく支払わされるのですが……うん、これって、4~5月の積み立て分だよな。
だからたいてい、3分の1ぐらいの金額になって……。
……あくまでも、経理処理上のやりとりです。
会社の業績が悪かったから、今年のボーナスはなしになったよ。
え、それって毎月積み立てられてるはずの金額はどこにいったんだろう……。
などという、怖いことを考えてはいけません。(笑)
ボーナスは、企業から社員への特別なお小遣いなのです。
そう思っていてくれている方が、企業にとっては有利かもしれませんね。
うん、日本のマスコミは良い仕事をしているよ。
まあ、大企業と違って小さな事務所とか、店舗の場合は本気で自転車操業だったりするので、全然違った経理処理になります。
こちらの場合は、素直に感謝したほうが良いと思います……いろんな意味で精神衛生的に。
ある意味、呪いのおはなし。




