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【詩集】手になじむ詩

雨が降っていて

作者: につき

雨が降っていて

その隙間に水は流れ込んでいて

ありふれたい今日と

格別の事もなかった昨日との隙間に


まだ乾かなくて ついに叶わなくて

もし渇くのなら

はたして貫かれた穴から零れていて


甘やかな枇杷の微かな苦味に似ていて

噛みしめた夜の視線の巨眼が見抜いていて



絶え間なく

雨絶え間なく

止むことのなく


朽ちた屋根に降り

草の繁茂の庭に降り

うな垂れる朱蘭に降り


連なり滴る雨粒の行方は

おもてを通りせなかを通り

やがてわたしの中の空洞へと


耳澄まし音を聞いていた子ども

嵐を受け止められずただ砕かれて

透明な亀裂に射す夏の無情の陽差し


その痕にだけ残る戦慄きと郷愁の香り

とりとめないわたしのありふれたい今日

消えゆくことを止めもしない成行きの昨日


覚えたての苦味を弄んでいた若さの傲慢

忘れようと足掻いていた己の薄い背中

ふと気付けば押し流されている零時


雨垂れの音途絶え列車の響いて

闇を飛ぶ列眼のムカデが行く

眠りの中を宙へ連れて行く


どうしても離れないまま

現れ消え影も残さない

「 」カタチのない

……姿を持たない


何の音もなく

仄かなまま

ただ漂う



いつもの道を歩いている

昨日のわたしを見失っている

昨日はどこへ帰る


失われた先から過去になっていく

時の波頭の最先端から少し遅れ行く

気付かないほどに風はまだ新しく


愚かしさを取り戻すように

どうにもならないことを繰り返す姿に

みず鏡に映る濃い緑の森のように

お読み頂いてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 上下対称の形に作られた詩なのですね。 空から降ってきてまた空へ帰る雨や、過去へ飲み込まれていってまたやってくる同じような日々が、かりそめの形をまとって現れたようで面白かったです。 最後の、…
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