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「うーん、なんか違う。どうして同じものを使っているのに印象が違うんだ??」
一度全ての化粧を落とし、もう一度自分で化粧をしたがなんか印象が違う。なぜ?
「ミーシャ様!」
「あぁ、アリア嬢。水色のドレスお似合いですね。あなたの白い肌を際だたせてます」
「ミーシャ様ありがとうございますわ。それよりお顔どうされましたの?先ほどみた顔より随分薄いですわ」
「薄いから印象が違うのか。でもこれ以上濃くするのはなぁ‥‥」
時々みる化粧のきついおばちゃんを思い出してこわい。普段一切化粧していない弊害である。
「ミーシャ様がご自分でなさりましたの?言ってくだされば私がやりましたのに」
そういうアリアを見ると化粧をしたという顔をしているが、押し付けがましい感じではない。いうなれば品がよくて可愛らしい。
「今からしてもらって構わないかな?」
「喜んでいたしますわ。ミーシャ様にお化粧が出来るなんて光栄ですわ」
「そう?」
アリアは明るくて本当にいい子だな。
「ミーシャ様は、ちょっと日に焼けてますけど肌がお綺麗ですね」
「一応スキンケアは、気にしてたからね。日焼けは訓練をするとどうしてもなっちゃうから仕方ないかな」
「今でも訓練をなさってますの?ミーシャ様は姫なのにどうして戦う必要があるのですか」
その言葉に私は少し考える。
「国という土地を守るのは誰の役目?」
「王族の役目ではないでしょうか?」
「私は兵士‥国民だと思ってます。その国民を守り国の象徴として前にでるのが王族だと思います。私は、国の象徴には…なれない。剣を持って国を治めようとする人物が治めるのは駄目だ。だから妹に任せる。その代わり国民を守るために私は自ら剣を奮って血を被る必要があるのですよ」
今この国は、それで成り立っている。政治面の強化は妹達で軍事面は私。姉妹全員が政治についてしまうと軍事面で王族の代わりに誰が実権をもつやら。
「難しいお話ですわ。ですが私に出来ることがあったら仰ってください」
「ありがとうございますアリア嬢」
そういったらアリア嬢が顔を真っ赤にさせた。妹姫も可愛いがアリア嬢も可愛い。
「いいえ、こんな感じでよいと思います。いかがでしょう」
鏡を見るとちゃんと化粧された自分が映った。自分がしたときよりこっちの方がずっといい。
「すごいね。自分ではこうもいきません」
「うふふ、気に入っていただけたみたいですね」
「アリア嬢も一緒に会場に行きますか」
私はアリア嬢にスッと手を差し出した。その手をきょとんとした顔で見ると微かに笑いながらいう。
「喜んで。でもエスコートはいりませんわ」
「ついつい、クセで‥。そう言えばアリア嬢何か用事があったのではないですか」
「用事は終わりましたから大丈夫ですわ。行きましょう」
「一緒に踊りませんか?」
にっこりと笑顔を浮かべて男が話しかけてくる。
「アリア嬢誘われてるよ」
アリア嬢にそういったら男は焦りだした。うむ、気になる相手を目の前にして緊張してきたのか。
「あの‥」
「私ミーシャ様とお話したいのでまたあとでお願いしますわ」
その言葉を聞いて男は肩を下げ人ごみに紛れてしまった。さっきからこういうことが何回かある。もしかしていつも私がいたからアリアは誘いにくかったとか!?帯刀はしていなかったけどあだ名のせいで人が寄りつかないし。
「アリア嬢私今度からこういう場では男装を止めます」
「どうしてですの?お似合いですのに」
「その‥‥怪物姫が一緒にいるからアリア嬢が殿方と踊れる機会を減らしているのかと」
「そんなことありませんわ。私、男装姿のミーシャ様と踊るのが好きですもの。二人ともクリノリンがあると一緒に踊れませんし」
「確かに」
その言葉にホッとする。だから次の言葉に気がつかなかった。
「ドレスを着て初めて魅力がわかるような男に任せられませんわ」
「アリア嬢怖い顔をしてどうしました?苦手な虫でもいましたか」
「いいえ、普段図書館にいるので人ごみに疲れただけですわ」
にっこり微笑んで返される。
「あの‥Ms.‥アリア。踊って‥ぼっ僕と貰えませんか!?」
茶色の髪の男がアリアに手を差し出す。手と腕がカタカタ動いているのは気のせいではないだろう。私はその光景をただみる。なんか入っていけない気がするんだよね。
「なぜ私を誘うのですの」
男はガバッと頭をあげる。その顔は林檎のように真っ赤だった。
「あの‥図書館で見た時‥綺麗だったからかな?こう‥本を読んでいるときの顔が‥ね」
「‥‥‥名前は?」
「カイザス・トーン‥です」
「カイザス様、もう少しスマートにレディを誘えるようになってから出直してくださいな」
「‥はい」
カイザスは目に見えて落ち込んだ。可哀想だな。叱られた子どもそっくり。
「勇気は認めますよ。一緒に踊りませんが一緒に食事をいたします?」
「喜んで」
うーん、いい雰囲気?これは別の場所に移動した方がいいかも。でもあまり知り合いいないしな~。
「ミーシャ様お暇なのですか」
「そうそう暇…って、アレンいつの間に背後にいるの!?」
「執事はそういうものです。あとお暇ならあちらでチェスをなさっていますから見学なさっては?」
チェスかぁ。しばらくしてないから見るのは面白いかもしれない。
「ありがとうアレン。チェスの観戦をするわ」
「楽しい夜をお楽しみください」
チェスをしている場所には、生け垣のように人がいた。それにより誰と誰がどんな対戦をしているのかわからない。
「失礼しますがこれは誰と誰の試合ですの?」
「えぇ、これは政治学のロンと‥‥怪物姫!?」
その声に驚いたのか私を中心にして人が離れた。そのおかげでギリギリ中心にいる人物が見えた。
一人は、黒髪のプライド高そうな顔の男がロン。そういえば前に経済学が講義している教室を通った時エドガーに突っかかっていたのを見たことがある。
もう一人は‥‥。
「バルト王子楽しんでいるようですね」
「えっ、ミーちゃん」
「「「えぇ!ミーちゃん!?」」」
“ここでミーちゃんと呼ぶな”と怒鳴りたいが今は公式の場。姫らしくしなければ。
「私が観戦しますがおきになさらず」
言ったのに関わらずロンが興奮しながら言う。
「かの有名な怪物姫にチェスの試合を観戦していただけるとは光栄です」
「そう、頑張ってくださいね」
権力に巻かれるタイプか。扱い易いが今よりよい条件があるとそちらに行く傾向がある。
「はい、誠心誠意頑張らせていただきます!」
「うむ‥‥それでこの黒はどちらなのでしょうか」
「はい、僕です!」
自信満々に言っているがこれ負けに片足を突っ込んでるんですけど。
今のままだとクイーン・ルーク・ナイトをなんの損害を出さずにとれる。これに気がついていないというのかしら?そもそもこういう腹黒い手を使うのはジュリアくらいだと思っていた。
「ミーシャ姫どうしましたか?」
「いいえ、続けてください」
今度こそ静かにチェスを始めたようでロンがポーンをとる。今度はバルト王子がルークをとった。結局、勝者はバルト王子。ロンにはキングとポーンしか残っていない。
「‥‥バルト王子強いですね」
「ロン殿が手加減してくれたのでしょう。ありがとうございます。また試合をしましょう」
「あぁ、はい」
「やっぱりロンはチェス強いんだな」
「あぁ、でも加減を間違えてしまったよ」
ロンは悔しそうに唇を歪める。明らかに手加減したわけではなさそうだ。ただここでそうでないといえば自分より相手が強いと認めることになる。ボードの上だけでなく、人間の行動まで読んで行動するなんてそうそうできることじゃない。こんなことできるのは天才くらいだ。
「ミーシャ姫いかがでしたか」
「えぇ、面白いものを見せていただきました」
努めて冷静に姫らしく、それは胸の内を見せない最大の防御。
「勝者に何か褒美をいただけませんか」
「バルト王子が勝ちましたときの歓声が一番の褒美だと思っていましたが違うと仰る?」
「歓声もいいですが麗しいレディと一曲踊る喜びにはかないません」
バルト王子がにっこりいうと周りの男どもが"おぉ!"とざわめく。よくあんな言葉が出てくるものだ。
「Sall we dance?Pretty princess」
バルト王子が私に手を差し出した。
そういう誘い方をするの!?断ったらこの雰囲気丸つぶれじゃない!面倒くさいからいつものバカ王子に戻れ!!
「sure」
仕方ない踊れるか。踏んでしまったら謝って終了にする。私達がホールの真ん中に行くと同時に音楽が流れ出す。私は一度バルト王子から離れて一礼してから一緒に踊り出した。
意外にダンスが得意なのか踏めない、いや踏んでない。
「嫌だ、苦手だと言ってもちゃんと踊れてるよ」
「かなり緊張しながらね。アリア嬢と踊ってるときは楽しいのに」
少し隅で二人でにこにこしながら踊るのは楽しい。だが今は、真ん中にいるため周りの視線が背中に刺さる。
「俺と踊ってる時は?」
「バルトと踊ってる時?うわっ」
ベタだがヒールで躓いた。体が後ろに倒れると思って下に手をついた。
「意外に危ないね」
と、思ったらバルト王子が支えていて転倒は免れた。危ない危ない、とりあえずダンスを続行する。
「うーん」
「どうしたのよ。人を見て。まさかさっき食べたシュークリームの粉砂糖ついてる!?」
「ついてないよ。ただCかな」
「C?センター?」
「カップがCの70かなって。体格がいいから気がつかなかったけど」
こいつぶん殴っていいかな。条約破棄になるかもだけど。喜んで単身でも戦争起こしちゃうよ?
「怒らないでよ。今日は知らなかったことを色々発見出来たからさ」
「それはあなたの得であって私の得じゃない」
「なら俺のこともっと見て探しなよ」
クスリと控えめに笑ったのが憎らしい。
「見つけてるわよ。馬鹿、仮面王子、ムッツリすけべ、策略家、阿呆、変態!」
「残念、俺オープンなんだ」
「私が残念ですよ。その知らせ!」
なんだかダンスを踊ってる二人がする会話じゃない気がする。でも緊張はなくなったかな。
「ミーちゃん今はどう楽しくない?」
「楽しいどころか怒ってます」
「俺は楽しいな。可愛いミーちゃん独り占め」
「勝手にほざいてなさい」
さんざん悪口言ってるのに笑ってるしなんなの!?
「ミーちゃん足大丈夫?」
「足?そういえば」
なんかかかとアキレス腱の間が痛いような。もしかして靴擦れ?
「痛いかな?」
「手当てするよ」
「同じ愚はおかしません。カーターに看てもらいます」
武術科だから応急救護の講義受けてるでしょ。私もある程度出来るが書物と実戦で得た知識だからこころもとない。
「駄目」
「なんで駄目なのよ。そもそもあなたの了解は必要ないわ」
「ダンスの相手に何も言わず行くの?」
「それもそうね。それじゃ」
バルトの手を離してダンスの輪から出る。だが手首をバルトに掴まれた。
「離して、そもそもさっきのこと許したわけじゃないのになんで私あなたと踊らなきゃいけないの」
「‥‥俺がミーシャと踊りたいから」
「寝言は寝て言え」
私は踊りたくないんだ。巻き込むな。
「それじゃミーシャが好きだからっていうのは駄目?ボケで返すのは不可ね」
「それこそ却下」
「なんで」
「私に惚れる理由は?いつそういう要素があった?私からすればあなたは要注意人物ですよ"バルト王子"」
胡散臭いことが多すぎる。馬鹿で阿呆だと思ったら頭がキレるわ心理戦に勝つわ。ぜったい!裏がある。
「嫌われたものですね」
「嫌いではないですよ。ただフェアな関係ではないですからね」
「わかりました。今日は退きましょう。アレン」
「はい」
バルト王子がパーティーから去った。主賓が会場から去りパーティーはお開きになった。おのおの好きなように散って行く。ミーシャは、隅のテーブルに座り酒を飲みながらその光景を見ていた。
「こんなところにいたのか怪物姫」
「なんだ出番の少ないカーターか」
「てっ、俺だってそのこと気にしてんだよ」
そういうとカーターは、テーブルの反対側に座った。
「カーターでもそーゆうこと気にするんだね」
「あたりめーだ。で、あいつと何かあったんだろ」
「あいつ?」
色々ありすぎて誰のことかわからない。アリア嬢?エドガー?アレン?バルト?誰のことだ。
「バルトだよ。さっきのダンス何かあったのが丸わかりだ」
「カーターには関係ない。白ワインいただくわ」
執事から白ワインを受け取る。だが、カーターにワインをとられた。
「飲みたきゃ自分で頼みなさいよ」
「俺はビールで充分だ。それより関係ないとはなんだ。困ってんなら顎でこき使うくらいの気持ちで頼みやがれ」
「あのねぇ、私そこまで厚かましくないっての」
「ならなんでさっきからそんなに飲んでんだよ」
「飲めば寝れるからよ。ちょっとやそっとじゃ私酔わないし」
酒が強いのも考えものだ。なかなか酔えない。母上は、弱くてワインを一口飲んだだけで顔が赤くなってぐっすり。なのに私は、5、6杯飲んでも顔色が変わらずちょっと気分が良くなるだけ。少なくともアルコール度数が10%あるのだけどな?
「なんで寝れないんだよ。そもそもいままでそんなことなかっただろ」
「原因がわからないけど一昨年くらいからずっとこんな調子。浅く眠れるけどすぐに起きるから昼間眠たくてね」
「戦場にいたせいか?いまいるのは大学で戦場じゃないんだぞ」
「そんなことわかってるけど目が覚めるのおかしいよね」
月明かりだけが届く暗い部屋。まだ一番鶏が鳴くのに早い時間目が覚める。
「とりあえず私のワイン返して」
程よくのめば寝られる。飲みすぎると次の日ちょっとだるいが。
「仕方ねぇかえすか。でも飲んだくれ姫なんて呼ばれないようにほどほどにしろよ」
「はいはい。これ飲んだら部屋に戻るから」
「約束だぞ」
ワインを飲んだあと私は自分の部屋に戻って寝た。