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怪物姫に眠りのキスを  作者: 猫田33
対抗するものは焼き払え
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4-3

「怪物姫さんの姿が見えないな~」


カーターがキョロキョロと周りを見渡す。隣ではエドガーが呆れ顔を浮かべている。


「久々の女装で手間取ってるんじゃないの?」


「うーん、そうかぁ?」


カーターが首を傾げるとどこからか黄色い声があがった。エドガーも気になったのか少し背を伸ばして声の先を見る。


「あー、あれは女子が騒ぐのわかるわ」


「何が見えてるんだ。教えろ」


「バルトがまさに王子様!って、格好で歩いてる。しかも俺達に向ける馬鹿そうな笑顔じゃなくて品?が良さそうな笑顔だしな」


エドガーは、それを聞いて納得したのか背伸びを止めた。


「何を考えてるんだ?今日の主役が何で今でてくる」


「えっ、あいつ主役なの?」


「どう考えても帝国からきた王子を歓迎するパーティーだろこれは」


それをわかっているからバルトの近くの女たちは、物凄く着飾っているのだろう…と、エドガーは推察した。まるで獲物を狙うハイエナしかも見た目が毒々しいときている。


「うちの怪物姫様はどこに行ってるんだかな。いつもは5分前行動だのなんだの言って早いんだぞ」


「だめだよ。カーター君女性の着替えは遅いのも楽しまなくては」


「周りにいた女はどうした」


「“友人が待っているのでいいでしょうか”って笑顔で言って撒いてきた。ここにいるのも結局メスだな」


バルトが溜め息をつく。エドガーから見てもそれは同感でそれに騙される男は、本当に幸せだと思う。


「エドガー様、バルト王子と知り合いなのですか?」


話しかけてきた赤毛の少女の名前は、マリアナ。現在、上級学校(高校)に通っている。今はまだあどけなさがあり子どもだが何年かすれば美人になるだろう。と、噂される程度には整った顔立ちをしている。


「今晩は、マリアナ嬢。今日もお美しいですね。着ているドレスは、サーラシル国の衣服に似ているようですが?」


「はい、気になっていたのでお父様にお願いしてしまいましたわ。先日届いたばかりでしたがちょうど舞踏会があるとは思いませんでした」


「そうですか、よくお似合いです」


「まぁ」


なんて言いながら後ろから聞こえる微かな笑い声に内心顔をしかめていた。


「お友達の方々のほうへお戻りになってはいかがですか?そろそろ予定していた時間になりますよ」


「あら、確かにそうですわ。でも、もう少しこちらにいては駄目でしょうか?いろいろな方々とお話するのもよい勉強だとお父様が仰っていましたわ」


「せっかく素敵な格好をなさっているのですから他の方々にも見ていただいたらどうですか」


笑い声がもう一つ増えた。たぶんバルト王子だと思う。


「マリアナ嬢と言ったかな?これからエドガーと話したいことがあるから席を外してくれると助かるな」


「そうですの?では失礼いたしますわ」


マリアナ嬢は、お辞儀をすると人ごみに消えていった。


「助かりました。ありがとうございます」


「いや、いい。それよりかなり粘ってたな彼女。エドガーが本当に焦っているから笑えた」


「そうなんっすよね。毎回エドガーの所に来て話すというか。付き合ったらどうだ」


「何を考えているかわからないから面倒くさい」


エドガーがいつもの調子に戻り無表情になる。普段がコレなので人の良さそうな笑みは大層疲れる。

そのうちステージから声が聞こえてきた。


「静かになさい」


その声にみな静かになる。ステージに校長が立っていた。


「これよりスファム帝国からいらっしゃったバルト王子を歓迎する舞踏会を始めます。バルト王子どうぞ」


バルト王子に全ての視線が向いた。必然的にエドガーとカーターにも視線が向いていたのだがどこ吹く風と全く動じていない。バルト王子が歩きだそうとすると人がどけてステージまでまっすぐ道が出来た。その道を悠然と歩く。カーターのアホと騒いでいた時は、そんな片鱗がなかったのにこういう場では王族と思う。


「このような場をいただけて光栄に思っています」


カーターが話始めるのを僕は聞いていた。だが横から肘をつつかれたのは非常に不愉快だった。


「カーターなんだ。今くらい静かにしろ」


「なんつーか、怪物姫さんいないまま始まりそうだけど大丈夫なのかな~ってな。あいつこの国の王族だからホクト?とかしなくちゃいけないんじゃないか??」


「ホクトじゃなくてホストじゃないのか?確かに本来ならホストとしてこの場にいるべきだよ。学校行事とはいえね」


子どもにはだいたい親がいる。この学校に通う半分以上は、貴族だから学校で何かあれば噂として流れる。今回の舞踏会に怪物姫が出席しなければ帝国と不仲という噂が流されかねない。そうなれば怪物姫の王族としての資質が問われる。


「と、しめたいと思います」


「ありがとうございます。ではお近くの執事から飲み物を受け取ってください」


みんな飲み物を受け取った。


「では、乾杯───」「遅れて申し訳ありません」


そこにいたのは、紅のドレスを着た黒髪の美女。一度見たら忘れられない印象的な雰囲気をもっている。思わず視線を向けたくなる何かがあった。突然のことに周りがざわつく。


「遅いですよ。姫様」


ステージ上にいる理事長の一言により余計にざわつきが多くなったような。


「私にも飲み物をいただけるかしら」


「どっ、どうぞ」


執事が飲み物を渡す。


「乾杯を続けてください。楽しそうな雰囲気を潰してしまうのは惜しいですから」


「と、いうことで乾杯!」


「「乾杯!」」


こうして舞踏会は、華々しく開始されたのだった。




「化けるもんだね」


乾杯の後にエドガー達の所に行った途端にこんなことを言われた。


「化けるって私は今度狸になったの?」


「綺麗ということですよ。ミーシャ姫」


「あぁ、バルト王子。その格好いいですね。袖に暗器を隠せますし、かかとに小型の刃を仕込めそうです」


私がこういうとエドガーが呆れた顔を見せた。


「着飾っても中身は変わらないか」


「私は事実を言っただけ。それよりこの白ワイン甘くて美味しい」


「白ワインが好きですか?ならアレンに言って持って来させるけど」


バルトの視線の先を見ると忙しく動き回るアレンの姿が見れた。執事科の授業の一環なのだろう。


「なんか悪いからいいわ」


「そう?でも欲しかったら遠慮なく言ってね」


「ありがとう」


気持ちだけはもらっておこう。美味しいからといって調子よく飲むと潰れかねない。でもかなりお酒には、強いほうだからそうそう酔い潰れないが念のためだ。


「どういたしまして。そういえば今日誰と踊るか決まってる?」


「あー、それに関してはちょっと‥‥‥」


言えない。いままで男性パートをしていたから女性の方を踊れないなんて。


「足が痛いからやめておこうかな~なんて」


「痛いなら見せて。アレン、アレン」


「はい、バルト様」


「氷と水を入れた袋と厚手の布がほしい」


「かしこまりました」


アレンがお辞儀をすると同時に体が浮遊した。いわゆるお姫様抱っこ。周囲の目が非常に痛い。


「下ろして!」


「いいから、手当てされてください」


そしてバルコニーに連れていかれ用意された椅子に座らされた。


「それでどの足が痛いんですか」


「あの‥その‥実は、足痛くないのよね」


何か別の理由。別の理由を思いつけ!


「ふーん、なら俺と二人きりになりたかったの?」


「へっ?そんなわけない!ただ女性パートのダンスが踊れないだけ!!」


あっ、理由言っちゃった。恥ずかしすぎる‥‥!


「あははっ、ダンスの心配はしなくていいよ。ダンスのリードも男性の役目だしね」


なんて言いながらもにやにやしていてかなり怪しい。内心ダンスが出来ない私を大笑いしているんじゃないか!?


「顔が赤くなって可愛い。恥ずかしいの?」


「なっなんのことかな」


こうなったらとぼけてやる。かなり不自然な感じになっちゃったけど。


「恥ずかしいことじゃない。出来ないことを出来ないと言えるミーちゃんは素敵で可愛い」


なんでそうポンポンと賛美のような言葉が出てくるんだ。


「頬が林檎みたいだね。食べたら美味しそう」


「えっ、頭大丈夫!?食べたらお腹壊すよ」


我ながら可愛くないことをいうもんだなぁ。


「お腹壊したら困るなぁ。でもお腹壊したらミーちゃん看病してくれるかも」


「そういう理由で看病なんかしませんよ。へっくしゅ!」


「面白いくしゃみクスクス。中に入りますかお姫様?」


「ムー」


中に入りたくない。ダンスを踊ることが嫌というのも理由だが中に入れば私は怪物姫に戻る。


「もう少し涼む」


「なら、上着を貸してあげるよ」


「あぁ、ありがと‥‥!」


上着が肩にかかると同時にキスされた。あまりに自然な動きだったので気がつかなかった。


「お礼はこれで♪‥ってなんで泣くの!?そんなに嫌だった??」


「泣いてなんか‥」


そもそもこの10年泣いたことがない。でも目から溢れるのは紛れもなく涙で次々と溢れてくる。


「ごめん」


「謝るなら離れてよ‥。上着も返す」


「‥‥‥ごめん。でも上着は貸しとく」


下を向いて泣いていたため足音が離れた音がした。一度手を目元から離すと見事に化粧が白い手袋についている。


「今の私そっくり‥‥」


なんて言っている間も涙が流れて止まらない。だからまたバルコニーが開いたのも気がつかなかった。


「どうしたんだ。その顔!」


「エドガー?」


「珍しく綺麗な格好してるのに台無しじゃないか‥‥。怪物姫!?」


「今だけ貸して‥‥」


エドガーに抱きついて気持ちを落ち着かせる。最初は、なんだかバタバタ動いていたが静かになって頭を撫で始めた。


「こんなになるなんてそうとう嫌なことがあったの?」


「‥‥‥」


嫌だったのかな?わからない。

ただ涙が溢れてぐちゃぐちゃで何がなんだか。


「何されたの」


「キスされた」


そう言った途端に手が一瞬止まるがまた撫で始めた。なんなんだろうか?


「あのバカ王子外交問題起こすつもりか?」


「バカ王子って言っちゃだめだよ。でも外交問題かぁ。確かになりかねないかも」


迫ってきたのはあっちだが証言する人物がいないから私が誘惑したとか言われるだろう。帝国がこの国の王族と繋がりを持って得することがほとんどない。

真っ先に私のせいにされるに違いない。


「私がみんながほおっておけないような美姫なら私が誘惑したなんて言われないのに」


「姫様は、そこら辺にいる見た目だけを飾ったやつよりよっぽど綺麗だ」


「相変わらず優しい嘘が得意だね」


「嘘なんか言ってない。それに僕は‥‥」


エドガーと目が合う。いつもの笑顔ではなく辛そうな寂しそうな。


「エドガー?」


「僕は寒いから中に入りたいけど駄目?」


「えっ!?寒いってまずいじゃない早く中に入って風邪引いて肺炎になったら‥‥!」


エドガーの手を引っぱるがエドガーは動かない。


「僕のこと心配?」


「心配に決まってるでしょ。大事な友達なんだから!」


「そっか。僕、用事思い出したから先に会場戻ってて」


「わかった」


私は会場に戻ろうとしたが化粧が落ちたことを思い出した。とりあえず化粧室に直行せねば。




「‥‥‥はぁ」


さっきの状況を思いだしてため息が出る。僕は何を考えて何を言おうしているんだ。


「眠り姫に王子様のキスをだなんて‥‥。僕らしくもない」


ただ思い出しただけならば問題ない。それと同時にあのバカ王子のキスがそういう意味を持っていたらと考えてしまう。


姫様の眠っている部分は恋心。

もしバカ王子がキスをして恋心が覚めたらと思う。あの姫様にいたってそんなことないと思うが。


とりあえずいまいち掴みどころがないバカ王子に姫様は任せられない。


「仕方ない裏を調べるか」


怪物姫と呼ばれても、この国を守ろうとする姫を守れる力が欲しい。切実にそう思う。

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