7-1
最終章です。
港についたあと私は、バルトとアレン以外のみんなに別れを告げた。ベンは、国に帰り。ルスルとカーターには、火急の文書をエドガーに渡してもらう。私とその三名以外は、大学に戻らず真っ直ぐ城に向かった。
時間を無駄に使うつもりはない。開戦は近い。帝国は、戦争の理由を作ってしまった。
ひとつは、格下であるグロース国の王女が格上のスルファム帝国の王子との婚約を破棄したこと。しかも仲人として出てきたのは皇帝。それを破棄したのは皇帝の顔に泥を塗ったに等しい。
もうひとつは、婚約を破棄した王子の弟と逃げたこと。カルロは、その強さと見た目から国内外で人気だという。そんな人物をはねのけ弟王子と逃げたのだ。カルロを好ましく思っていれば私の存在は好ましくない。
バルトを国に置いて逃げればよかったのかもしれない。でも、あの時バルトを置いていくという選択肢を考えつかなかった。なぜそうしなかったのか。私だってただ長く生きてきたわけではなくわかっていた。しかし、臆病で狡い私がそれを隠してしまう。でも臆病で狡い私でもそれを隠すのに困るほど大きくなっていた。
話がそれてしまったが話を戻すと、戦争になることは避けられない。なら迎え撃つしかないのだ。しかし、グロース国だけでは帝国に負ける。近隣の国の兵を借りてやっと対等かもしれない。近隣の国とは、同盟を結んでいる。しかし自分の国が不利になるなら話は別だ。帝国が寝返る見返りに自治を認めると言ったら、喜んでそちらにつきかねない。
ジュリアが嫁いだ隣国は、たぶんこちらの味方だ。ジュリアの旦那が何を優先させるかによる。国かジュリアかというとあの馬鹿王は、ジュリアを優先させる。
「グロースの城はあれだよね?厳ついなぁ。要塞みたいだ」
「スルファムの城とは違って、景観重視じゃなく機能性重視だからね。何回も攻め込まれているからそのたびに堅固にしてるよ」
城の周りには二重の塀があり。外側の塀の周りには、大人二人分の深さの掘りがある。
「国が違えば城も違うってことですか」
「そうね」
城へ渡る跳ね橋につく。橋を渡ると門番のショーン爺様がいた。
「あぁ、姫様久しぶりですなぁ。隣の御仁は、もしや未来の婿殿ですかな!?」
「いやぁ、そんな‥‥」
「そうよ。だからみんなに無礼をかけないように言うように」
ショーンは、目を見開いて私を見たあと叫びだした。
「うおぉおぉ!!?それはめでたい!城の者皆にふれまわってきますぞ~~~~~~!!」
叫び声が聞こえなくなると少しホッとする。ショーンはこの手の話が好きだから、半日後にはバルトとの仲は周知になるだろう。いくら敵国の王子だろうが"表で"排除しようとする動きはなくなるだろう。
「バルト様大丈夫ですか!?」
いつのまにかバルトが馬の上で顔を伏せている。
「えっ、何かされたの!?弓、毒、射撃、吹き矢?そもそも私が近くにいたのに‥‥」
「いや、あの‥僕攻撃されたんじゃなくてその‥。お婿さんって言われたのが信じられなくて‥」
バルト若干涙目なんですけど。
「散々焦らされて思いが通じたと思ったらいきなり結婚話では驚きますよね」
「いや、それについてはさ。その場しのぎの嘘でーす。なんて‥‥‥」
「ミーちゃん俺に嘘ついたの?まったくいつから君は、そんな悪女になったんだ。俺の気持ちが言葉で伝わらないなら行動で教えるよ」
バルトは、私の頬に手を添えた。外が寒い為かバルトの手が非常に冷たい。
「姐さんそこは、自分の手を添えて頬ずりするべき」
「それは恥ずかし‥‥ってシータ?!」
「久しぶり姐さん。あとはじめましてお義兄様。三女のシータと申します」
妹のシータがにっこり笑って挨拶する。バルトは、嬉しそうに笑みをかえす。何がそんなにうれしいのだろうか。
「馬はお預かるよ。疲れてるだろうけど、父さんが会いたいらしいからそっち先でいい?」
「私も父さんと母さんに話したいことがあるからそうして。あとさ、バルト様を部屋に通してくれない?」
「了解姐さん♪」
ニコっと無邪気に笑う妹に思わず口角が上がる。だけどこれから話す内容は、妹も巻き込んでしまう。
「シータ姫よろしくお願いします」
「あっ、はい。よろしくお願いします!えっと、こっちにどうぞ」
シータが人見知りなの忘れてた。まぁ、しばらくこの城で一緒に過ごすんだから慣れてもらわないとね。
「さて、父さんと母さんの所に行かないと」
たぶん、この時間なら王の間にいるはずだ。自分の親だけどものすごく緊張する。とくに母さんは、礼儀作法にうるさいから気をつけないとお仕置きされる‥‥。
王の間の扉につく。扉にいた兵は一度深く私に頭を下げたあと大きな扉を開けた。中には赤いカーペットが玉座まで敷かれている。玉座には、私の父である王と母の女王。さらにめずらしく退位した前王の祖父と祖母までいた。
私は、玉座の近くまで行き膝を折る。
「ただいま、コーセル・フォン=ミーシャ到着いたしました」
「お帰りミーシャ。ミーシャは、私の娘なんだからそんなにかしこまらなくていいんだよ」
「姫はもう20歳。貴族の令嬢ならばとっくに嫁いでいる歳です。甘やかすのもほどほどにしてください」
母に怒られちょっと父がしょんぼりとした。
「あら、アマリスさん。嫁いでも娘は娘。可愛がるのはおかしくないと思いますわよ。それにまだ嫁に行っていないのですから当たり前の反応だと思いますが違うのかしら?」
「‥‥‥はい、お義母さまの言うとおりですわ」
「あの、報告したいことがあるのでいいですか!」
気がついたら大声で言ってしまった。前にも似たようなことをしてお仕置きされた背中に冷や汗が流れる。
「なんだい。ミーシャ」
父さんが笑みを浮かべて尋ねる。
「はい、悪い報告と良い報告があります」
「悪いことから聞こうか」
「スルファム帝国と戦争になります。たぶん半年もしないうちにこちらに攻めてくるはずです」
私が言った言葉に母さんと祖母が青ざめた。
「なんのためにスルファム帝国の建国パーティーに行ってきたのですか!そういうことを回避するために行かせたのに‥‥!!」
「アマリス、スルファム帝国との戦争はもともと避けられるものじゃなかった。ミーシャが各方面に働きかけていたからこそ引き伸ばすことができたんだよ」
父さんがそう言うと、今まで沈黙を守っていた祖父が勢いよく立ち上がった。
「そうだ、アマリス!悪いことばかりではない。スルファムの若造どもの鼻をへし折り!天下にグロース国あり!と宣言するのじゃ。なに儂とダニエルとミーシャが出ればすぐに終わるはずっ」
「あなたお医者さまに激しい運動は足に負担をかけないようにと言われていたはずですよ」
「そんなこと言っていられるか。儂はやるぞ!!」
あぁ、だから私はこの戦争をさけてきたのだ。祖父は、一度決めると意見を曲げない。
「そうとなったら家宝の甲冑をだすぞ」
「あなた待って」
祖父は勢いよく飛び出し、祖母は杖をつきながらついていく。
「父上は、行ってしまったか‥‥。そういえばミーシャ良い報告を聞いていなかったね。なんなんだい」
「はい、私は婚約しました。事後報告で申し訳ないと思っております。ですがいまを逃しては婚約の機会を逃してしまう恐れがありましたので‥」
本当ならば両家の両親を引き合わせ。許しがでれば婚約するものだ。本人が決めただけでは口約束でしかない。
「ミーシャよかったなぁ。お前は、ずいぶんそういうことを気にしているようだったしな。それで婚約者は、どこの誰なんだい」
少し涙ぐみながら父さんが言った。今からいうことも歓迎してくれないだろうな‥‥。
「相手は、スルファム帝国第五王子のバルト様です」
「スルファム帝国ですって!!今から戦争を行う国の王子と婚約したいなど狂気の沙汰ですわ」
「確かに‥‥そうだ。まさか、婚約者としてだすとは。騙されているのではないか」
やっぱりなぁ。でも、ここで頑張らないと。
「父上、母上!私は‥」
ふわっとかぎなれた香りがした。横を向くことがなくとも誰がきたのかわかる。
いつからだろうかこの香りが不思議と落ち着くようになったのは。
「私の大事な姫を責めないでください」
「バルト」
「ずいぶん遅いから来ちゃったよ。私がきたから大丈夫」
"私がきたから大丈夫"ってこの現状の元凶が言わないで欲しいな。
「そなたがバルト王子か」
「はい、大学のパーティーでミーシャ姫に会い一目惚れしました。私の祖国とグロース国が戦争することは、まことに遺憾なことです。しかし私は、祖国を捨てミーシャ姫と共にグロース国を守るつもりでいま参じました」
バルトは、私と同じように膝を折った。
「バルトまでこんなことしなくていいよ‥!」
「俺の立場ならいまの行動で足りないくらいだと思うけど?ミーちゃんの苦労を俺にも分けて」
優しい声でそんなこと言わないで欲しい。いまの私は、いっぱいいっぱいなんだから‥‥。
「ミーシャ」
「はっ、はい!母上」
「バルト王子が嘘をついていないことはわかりました。バルト王子と一緒に部屋からでなさい。‥‥あまりのショックに頭がついていっていないようですから」
母さんの目線の先には、まったく動かない父さんの姿があった。
「はい、そうさせていただきます。バルト行くよ」
「あぁ」
そういえば父さんジュリアが嫁いだ時もあんな風になってたな。
「はー‥‥、疲れた」
自分の部屋に入るとどっと疲れがでた。ここまで疲れたらベットで寝れそうだがゆっくり寝ていられないだろうな。
「ミーちゃんお疲れ」
「えっ、なんでバルトまでいるの?部屋別にあるでしょ」
「さっき通された部屋ここだったよ。へー、やっぱりここミーちゃんの部屋なんだ」
シータ‥‥なんで私の部屋に連れて行ったのよ。もしかして婚約者だから一緒にしたわけ!?
「あの馬鹿‥普通初夜までは、一緒の部屋に過ごさないの知ってるはずでしょうが‥‥」
「へー、そうなんだ」
「なに感心してるのよ。ちょっと別の部屋空けてもらうから動かないで」
ノブに手を伸ばすとバルトに腕を掴まれた。私は、腕を振って手を離させる。バルトの腕を掴み後ろに押し付けた。
「イタタタっ!ミーちゃんこの扱いは酷くない!?」
「じゃあ、なんで止めるのよ。下心でもあるんでしょ」
「そりゃ下心あるけど。好きな女目の前でなんとも思わないわけないだろ。キスとかそれ以上のことしたいし。でも一緒にいれないのがもっと俺は辛い。‥‥もし、俺のことをいい奴だと思うなら他の連中みたいに引き剥がしてくれよ。あきらめはつかない‥けど冷静にはなれる」
中途半端に扱わないで欲しいってことなのか?優しいけど狡い人。そういう聞き方をすれば私の答えは、一つしかないじゃない。
「なんとも思ってない異性を部屋に入れたら間違いなく袋叩きにしてベランダから私は落とすわよ?自分の生活空間に入れたくないもの」
一番狡くて酷いのは私かな。バルトの腕を離してこっちを向かせる。
「‥‥好きです‥バルト」
まばたきより短い時間バルトにキスした。それだけなのに水が沸騰しそうなくらい顔が熱くなる。だが、それ以上にバルトがぎゅっと私を抱きしめたことに驚いた。
「ずっとずっとその答えを待ってたよ。まぁ、俺より待ってた奴もいるけど」
「?」
なんのことやらまったくわからない。たまに意味不明なことをいうのはいまに始まった話じゃないけど。
「でも、ミーちゃんからキスしてくれるのは嬉しいね。短かったからもう一回してくれる?」
「調子にのるな馬鹿バルト。これから部屋を空けさせるから離して」
「恋人は、一緒の部屋でもいいんじゃない?何にもしないから」
バルトの問題じゃなく私の問題だったりする。
「私が挙動不審で技をかけかねないの!本当に感情を持て余して困る」
「クスクス、それが恋だよ。でもまぁ、仕方ないから離してあげる。俺もアレンが近くにいないと困るしね」
バルトは私の手を離した。なんとなく手が寂しい。
「それじゃ、いってきます」




