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「おっおはようございます!」
私が返事を返そうとそちらを向くと、挨拶してきた男は青ざめ走って逃げて行った。
「怪物姫さんあれじゃ逃げられますよ」
がたいのいい体をして笑顔を浮かべた茶髪の男……カーターが近寄ってきた。
「なんで」
「眉間にシワが寄ってんですよ。月のものですか?」
「顎を思い切り殴りつけると記憶が飛ぶと聞いたから試すぞ」
そう言いつつ拳を握り姿勢を低くした。
「ジョーダン!ジョーダンですって」
「ジョーダンということにしておいてあげましょう。チームを組む相手がいなくなると困りますし」
「そうだね。この国最強の怪物姫に殴られたらいくら頭空っぽのカーターでも大変だろうし」
私と変わらない背をした銀髪の青年が意地悪な顔をカーターに向け言う。
「そうそうってこらぁ!頭空っぽとはなんだエドガー!」
「そのまんまだよ!後ろから数えた方が早いなんてことが無くなれば訂正するけど」
「くそー!!」
この二人は、本当に騒がしい。年中つまらないことで喧嘩している気がする。
"怪物姫"と呼ばれ他国だけでなく国内の人間でさえ恐れられるようになってしまった私にとってよい拠り所だ。
今年で20歳を数え最上級学校(大学)に通っているがまともに会話が出来る相手がいない。
さらに追い討ちをかけるのは昔の友人や妹の結婚である。普通貴族は16歳前後で結婚するのに20歳になった現在もひとつもそんな話が出ない。
来るのは果たし状や仕事の依頼くらいのものだ。
自分で望みこうなったがこれでも王族。未婚のままでは、非常にまずい。
「はぁ‥」
「課題が終わらなかったのか?」
「それは昨日終わらせた」
「ふーん」
聞いといてその態度はなんなんだ。
「これから講義を始めます」
教授が講義を始めた。始めのうちは、講義を聞いていたがだんだん眠たくなってきた。寝ちゃ駄目だ。この教授の講義は、しっかり聞かないとついていけない。テストで出す問題が口頭で言った内容が多いのだから…
「おい」
うるさいな
「起きろ」
あまりにもうるさいので何かを叩いた。痛がる声が聞こえるが私は眠い。
「起きた方がいいんじゃない?講義終わったよ」
「えっ‥。講義?はっ!」
うっかり寝てしまった。時計を確認するともうお昼。
「最近仕事が忙しいの?」
「うん、ちょっとね」
本当はそこまで忙しくない。最近は、隣国との戦争も一段落して父上の政務の手伝いをしながら体が訛らないように鍛錬するくらいだ。
なのになぜ眠いのか?
理由は、最近夜眠れないことにある。
とりあえず眠るが眠りが浅く疲れがとれないうえに寝起きが悪くなった。
なぜ夜眠れなくなったのかわからない。もしかしたら長年、戦場にいたことが災いしているのだろうか?
「今日はすぐ寝るよ。で、なんでカーター死んでるの?」
「姫様が寝ぼけてカーターを殴ったから気絶したんですよ」
「うーん、なんか悪いな。あとでお菓子でもあげようかな」
「食い気で出来てるような奴だから喜ぶと思うよ」
エドガーがそう言ったのでドーナッツでもあげようと思った。甘くてカサが大きいからぴったりだ。
「姫様少々お話をしたいことがあるのでついてきていただけませんか」
教授からの直接の呼び出しなんて初めてだ。呼ばれてもエドガーかカーター経由なのに‥‥。嫌な予感がする。
「はい」