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第2章 FUTAGO strikes!

1.


 明けて月曜日、6月15日。隼人は、人文学部棟の教室に入った。さっそくお目当ての双子を探すが、見当たらない。きょろきょろしていると、

「とおっ!」という掛け声と共に、来た。双子が体当たりをしてきたのだ。1年ほど前に食らったときは階段教室で、派手に転がり落ちてしまい双子が真っ青になった記憶がある。

「おはよう、ミキマキちゃん」

「あれ? けっこう気合入れてぶつかったのに」

 双子が驚いている。

「2回目はさすがに効かないぜ。ていうか、なぜに抱きつく?」

 隼人の胴体にしがみついている2人を引き剥がして、一番後ろの席に真紀、美紀、隼人の順に座った。

「隼人君、痩せた?」と真紀が聞いてきた

「ん、ああ、そうかも。体重計が部屋にないから、よく分かんないけど」

 実際、変身するようになってから、体が引き締まった気がする。

「いやいや、見た目で分かるで。うらやましいわぁうち」

 と言った真紀に美紀がすかさずツッコむ。

「ねーやん、十分痩せてるやん」

「いやいや」「いやいや」とお互いにツッコミ始めた双子に、隼人は微笑んでいった。

「2人とも、痩せててかわいいから、もうそのくらいでやめなよツッコミ合戦は」

「「!」」双子が寸分違わず同じタイミングでびっくりする。

(ほんとに、なんでこんなとこまでユニゾンできるんだ?)

 実はクローンなんじゃないか。隼人は以前からの噂を思い出したが、どうやらそれは都市伝説と結論できそうだ。

「隼人君、あかん、あかんで。うち、男がおんねん。でもそんな真顔で告白されたら、うち、うち……」と真紀。

「隼人君が、うちのことかわいい、って、ふああああああああ」と美紀。

 ユニゾンは決裂していた。周囲の知人たちがニヤニヤし始めたので、止めることにする。

「とりあえず落ち着け。告白なんかしてないし、声を上げられると恥ずかしいし」

「そっか。ほな美紀、このハンカチを咥えて。ええか、痛みはすぐ治まるさかい、フィニッシュはしっかり受け止めたげ」

「う、うん、ふひ、はんはふ」

「何をだよ」

 わかりきったことをあえて隼人がツッコんだところで講師が登壇し、教室のみんなが期待した"まな板ショー"はお流れとなった。



「ああ、そのことやったら、分かってる。誰にも言うてへんし、これからも言わへんよ」

 昼のイッショクは、少し前に突然降りだした雨に祟られた生徒たちでごった返していた。なんとか席を確保しての昼食の時を見計らって、隼人はミキマキに金曜日の夜に見聞きしたことの口止めをしていた。

「隼人君。2つ教えて。あの石は、なんて名前なの? どこで手に入れたの? ボランティア?」

 美紀の真剣なまなざしに、隼人は戸惑いながら答える。

「違うよ。くるみの友達からもらったんだ。あれは、白水晶っていうんだよ」

 と言いながら、隼人は実物を見せてあげた。

「……ほほう」と真紀がニヨニヨし始める。

「高校生までその毒牙に――」

「違うから。高校生以下は対象外だし」

 デジャブを感じながら、隼人は訂正した。

「ふーん。そうなんや……」と美紀が沈む姿を見て、隼人は弁解する。

「香苗ちゃんっていって、くるみと仲のいい入院友達だったんだよ。その子が退院する時に、どうしてか知らないけど俺にくれたんだ」

 真紀は隼人の説明をどう曲解したのか絡んできた。

「ふーん、そうなんや。で、どこまでお世話してあげたん?」

「俺がくるみの見舞いに行ったときに、病室や廊下でちょっと話をしただけだって」

「ほほう。あそこの廊下に、そんな愛を囁きあうスペースがあったなんて、おねーさんびっくりやわぁ」

 囁きあってないからと隼人が真顔で訂正するも、ノリノリの真紀は止まらない。

「ああ、無言で交し合う、愛の誓い! しかし、彼女に退院の時が迫る! 『隼人さんと過ごした証が欲しいの』 彼女の願いを受け止めた隼人の取るべき手段は1つ!」

「真紀ちゃん――」

 隼人は逆襲に転じる。

「そういうセリフで、いつも男に迫ってんの?」

「ア、アホ言わんといて!」

 と真紀が珍しく真っ赤になった。反論を試みるが、二の句が継げないようだ。

 真紀と隼人の掛け合いが続くそばで、美紀は無言で豚しょうが焼き定食を食べ終わると、ハンカチで口を拭き立ち上がった。

「じゃあ、隼人君。また、明日」

「ちょ、ちょっと待って、美紀」

 なんのかんの言い合いをしながら自分の昼食を食べ終わっていた真紀が、慌てて立ち上がり、トレーを返却に行く美紀を追う。隼人はその2人の後姿を見送りながら、優菜と理佐、るい、支部長に『口止めできました』とメールした。



「美紀、なんでうちを置いてくのん!」

 真紀が生協の前でやっと美紀に追いつき苦情を言うと、美紀は傘の下でむすっとした顔で答えた。

「別に、ねーやんはええやん。楽しそうやったし。無理言って午後のバイト代わってもらったんやし、キリキリ探さんといかんのよ、うち」

「まあ、そうカリカリせんと気長に探そうよ。ん? もしかして、うちが隼人君と楽しくしゃべってたのがいかんの? まさか妹に嫉妬されるなんて、うちも罪作りやわぁ。――って、おおーい、美紀ぃ、置いてかんといて! うちを一人にしないでぇ!」

 周囲の学生が一人芝居を見てくすくす笑っているのに気づき赤面した真紀は、姉を置いてスタスタ歩き去ろうとする美紀を必死で追いかけ始めた。


2.


 次の日も、美紀と真紀の白水晶探しは行なわれていた。今日は対象を路上のアクセサリー売りに広げる。片言の日本語で売り込んでくる売り子の相手は真紀に任せ、美紀は品定めに専念した。

 だが、はかばかしくない。そもそもどこで手に入るのか皆目見当がつかないのだから、当たり前ではあるのだが。それでも、と粘った帰り道は、すでに夕焼けで赤く染められていた。人気のない住宅街の歩道を、とぼとぼと歩く。時間切れ。家庭教師に行かねばならない。

 美紀は、深くため息をついた。そのことが、真紀にはやりきれないようだ。

「なあ美紀、提案があるんやけど」

 姉の話しかけに、美紀はゆっくりと振り向く。ここ数日の探索で、ちょっと疲れているという自覚はある。

「いっそのこと、そのボランティア、『あおぞら』やったっけ? そこに突撃してみるってのはどう? それか、隼人君か優菜ちゃんたちに頭を下げて、一緒に探してもらうっていう手も――」

「2番目は却下」

 美紀は即答する。

「借りを、作りとうないねん」

 誰に作りたくないか、双子の姉なら分かるだろう。でも――

「いらっしゃい」

 突然後ろからかけられた声に、美紀と真紀はビクッと身体を震わせた。振り向いてみれば路上に、ジップパーカーのフードを目深に被った人が黒い敷物の上に座っている。声からして女性のようだが、若そうで妙にしわがれているそれからは、年齢が掴めない。

 なにより、通り過ぎる時にはその場にいなかった女性の出現に、美紀と真紀の警戒感は増す。見つめることしばらく、女性はパーカーのポケットから、アクセサリーらしきものを取り出した。

「ぬしらが探しておるのは、これじゃろ?」

 みとめて、美紀と真紀の眼が驚愕に見開かれる。白く、鈍く光る石。それが2つ、女性の手から鎖についてぶら下がっている。

「おばあさん、それ、なんですか?」

 なおも警戒しながらの美紀の問いに、女性は沈黙をもって答えた。

「美紀違う。お姉さん、それ、なんですか?」

 沈黙は続く。

「……お嬢さん?」

「これは白水晶と言ってな」

 女性は待ってましたとばかりに答えた。フードが震えて、笑っているような気がする。

「エンデュミオールに変身するためのアイテムじゃよ」

 どこがお嬢さんやねん、とツッコもうとした真紀の手が止まる。

「エン……すみません、もう一度お願いします」

「エンデュミオール。とある古い言葉で『白い愚者』という意味じゃ」

 女性の答えに美紀の判断は素早かった。

「それ、なんぼですか?」

「1個4,980円じゃが、学生割引で3,980円になるぞよ」

「高いなぁ」

 値引き交渉なら真紀の出番だ。

「2,000円なら今すぐ払えるんやけどなぁ」

「サンキュッパ」

「ニィキュッパなら払う」

「サンゴーパー」

「細かいなおば……じゃなかったお嬢さん」

「サンキュッパ」

「わぁ! なんで戻るねん! しゃあないなぁ、2人で6,000円ポッキリ。どやろか? きれいなお嬢さん」

「2人で7,000円、と言いたいところじゃが、まあいいじゃろ」

 きれいな、が付いたことのほうに満足したらしく、女性はまたフードを震わせた。

 6,000円を女性に支払い、美紀と真紀は念願のものらしきアイテムを手に入れた。

「では、説明するぞえ」

 お金を懐にしまった女性が話し始めた。

「まず、エンデュミオールへの変身じゃが、今すぐにはできん」

「「え? そうなんですか?」」

「うむ。日の入りから日の出まで、すなわち夜の間しか変身できんのじゃよ」

 意外に条件が厳しいことに衝撃を受けた美紀と真紀は、じっと手元の白水晶を見つめた。

「本物かどうか今すぐ試したいじゃろうが、こればっかりはわしでもどうにもならん。このきれいなお嬢さんを信じてくりゃれ」

 分かりました、という双子の素直な返事に満足した様子で、女性は説明を再開した。

「かけ声はただ1つ、『変身』じゃ。変身をコールした時に手を置いた場所に、白水晶は固着する。大抵は額にしておるが、別にどこでも良い。変身を解除する時は、白水晶を強く引っ張れば取れて、解除される。変身したまま寝てしまっても、同じく解除されるぞえ」

「「そういえば、隼人君は胸に着けてたね」」

 ミキマキがお互いを見てうなずく。

「次に注意事項じゃ」

 女性の声が改まる。

「先ほど言ったように、夜の間しか変身できん。すなわち、日中はただの人じゃ。白水晶の力で多少は身体能力が強化されるが、多勢に無勢であることに代わりはない」

 女性の声が低くなり、緊迫感が増す。

「したがって、ぬしらがエンデュミオールであることは、なるべく他人に漏らしてはならん。漏らす場合には、十分に人を選べ。ぬしらだけではない、多くの変身者の安全がかかっておる。年に1,2件じゃが、日中に1人でいるところを襲われる事案が発生しておるのじゃ。ぬしらとて、意に染まぬ相手に組み敷かれ、蹂躙されたくはあるまい?」

 双子は黙ってうなずく。

「では、これで終わりじゃ。健闘を祈る」と結んで、女性はそれきり黙った。

「ほな、行こか。きれいなお嬢さん、ありがとうございました」

 美紀が真紀を促し帰路に着いたが、ふと思い出したかのように振り向いて尋ねる。

「そういえば、きれいなお嬢さんって、何者で――」

 夕闇迫る路上には、誰もいなかった。



 17時。隼人は、西東京支部でサポートの面々と向かい合っていた。

「というわけで、隼人君がフロントに転向しました。よろしくね」

 支部長の短かすぎる紹介に隼人は面食らったが、金曜日の夜の時点ですでにばれていることを思い出し、改めてみんなのほうを向いた。

「今まで隠してて、すみませんでした。これからも頑張りますんで、よろしくお願いします」

 頭を下げることしばし、結構盛大な拍手が降ってきた。頭を上げてみると、長谷川まで拍手してくれている。表情は微妙だが。

「隼人君、ちょっといいかな?」

 永田が微笑みながら聞いてきた。

「キミ、先月、明美ちゃんを探して支部に来たよね?」

 その言葉に、隼人の心臓が跳ねる。

「そのときはもう、ひょっとして白水晶を持ってたんじゃないの?」

「――はい」

 隼人の返答に、長谷川の表情がますます微妙なものになる。

「どうして、渡さなかったの?」

 笑い顔ながらも追求をやめない永田を横田が止めようとしたが、支部長が遮った。

「自分で、やりたかったからです。自分で、あの子たちと一緒に戦って、あの子たちを守りたいと思ったからです」

 気恥ずかしかったが、嘘偽りのない本心を、隼人は顔を上げたまま伝えた。

「ぷっ」

「永田さん!」

 しばしの沈黙ののち、吹きだした永田を、横田がにらみつける。

「ごめんね隼人君。そっかそっか、やっぱり男の子だねぇ。おねいさんはうれしいよ」

 長谷川が隼人のほうに寄ってきた。

「どこで手に入れたの?」

「妹の友達からもらったんです」

 隼人の言葉に、やっぱりというべきか、みんなが反応する。

「妹の友達、ねぇ」

 と支部長がジト目で隼人を見やる。永田はオオゴトにしたいらしく、口がさらに滑らかになった。

「わたし、るいちゃんから聞きましたよ。高校生がどうとか」

「隼人君、それはちょっと犯罪じゃないかな?」

「横田さんまで……」

 これでデジャブは2度目かと隼人は泣きたくなる。なぜ、俺が四方八方に手を出してることになるんだ?

「ま、それじゃしようがないな」

 長谷川は充血した眼をしばたかせながら、隼人に言った。

「あの子たちを、守ってあげてね」

「! ありがとうございます!」

「で、で、具体的には誰を守っていきたいの? 重点的に、誰を守っていきたいの?」

 永田が早速絡んでくる。隼人が逃げを打つ。転向の挨拶は、比較的和やかに終わった。

 挨拶が済んで通常の業務にみんなが散っていったあと、隼人は支部長と横田に、美紀の件を話した。

「いいんじゃない? というか、その子って――」

「ええ、金曜の夜に一部始終を見ていた子の一人です」

 隼人が補足説明をすると、なら話は早いわと支部長が笑顔で言ってくれた。

「口止めの意味も兼ねて、ぜひお願いしたいわ。できれば、お姉さんのほうも」

 横田も支部長の横で相槌を打っている。

「分かりました。ちょっとメールしてみます」

 隼人は早速メールを打ったが返事はなかったため、このまま返事がなければ明日大学で直接確認することとなった。


3.


 21時。真紀、美紀共に家庭教師のバイトを済ませ、部屋に戻って身支度をしたのち、お待ちかねの時間がやってきた。

「さあ、美紀! 変身や!」

「……やっぱ、うちから?」

 美紀はためらいながらも、白水晶を手に取る。また躊躇ったのち、それを額に当てて、

「変……身? こうやろか――」

 2人の部屋が光で満たされて、そして――

「あっはははははははははあはははは!! キ、キ、き、黄色!! 美紀、まっ黄っ黄やで!!」

 真紀が爆笑していた。美紀は慌てて姿見へと駆け寄り、一言。

「なんやのん、これぇぇぇぇぇ!」

 髪の毛も、眉も睫毛も、瞳まで黄色。白を基調とし、直線的な黄色い模様が跳ね回っている上着に、黄色一色のミニスカート。膝丈までのロングブーツは黒地に黄色い稲妻模様が入っている。

「けったいな格好になってまった……髪の毛も、うわ! 生え際から黄色いやんか……」

 美紀が白い手袋のはまった手で髪ををかき上げ、ぼやく。そして、盛大に痙攣している姉に向かってどなった。

「ねーやん! 笑ってる場合かいな! あんたもこーなるんやで!」

「あー、おもろかった。さ、そろそろパジャマに――」

「ねーやん? シメるで」

 美紀が黄色い瞳に怒りをこめると、真紀はしぶしぶ白水晶を手に取り、身構えた。

「しゃーないな。ほな、変身、と」

 3秒後。今度は室内に美紀の爆笑が充満した。

「み、み、みみみみみみみぃどりぃ!! 緑て、あはははははは!!」

 髪、眉、睫毛、瞳、ミニスカートすべて真緑。美紀と違う点は、上着の模様がどちらかというと曲線的なことと、ブーツが緑単色なこと。真紀も呆然と姿見を見つめている。

「うわー、我ながらいただけん格好やわぁ」

「高槻の叔母ハンが昔そんな色に染めてたで。あはははは! く、苦しい~~」

 身をよじり、足をバタバタさせて笑い転げる妹を見た姉が、冷ややかな声で言った。

「美紀。いいこと教えたろか」

「ん? なに?」

「パンツ、丸見えやで」

 その言葉にハッとなった美紀が慌ててスカートのすそを押さえる。

「まあ、ええんちゃう? 隼人君をノウサツしてやりぃな、パンモロで」

「アホ言わんといて」

 そういいながら、美紀はパソコンを起動し2人で先の動画を確認してみたが、画像が暗すぎてスカートの中がどうなっているのかよく分からない。

「それ以前にやね」と真紀が難しい顔になった。

「なに?」

「この魔法みたいの、どうやって出すん?」



 30分後、美紀と真紀は、『あおぞら』西東京支部の入るビルの玄関前にいた。公式サイトに支部の住所と地図が載っていることには驚いたが、ホームページ上は『あおぞら』は高齢者介護を目的とするボランティア団体だ。

「ボランティアを隠れ蓑にした秘密組織、ちゅうことやね。ほな、行ってみよか」

 真紀の一声で、今ここにいるというわけだ。

「真っ暗やね。中」

 と美紀が1階をのぞいて言った。真紀を見ると携帯をいじっている。美紀が覗き込むと、隼人から4時間ほど前に来たメールの文面を確認していたようだ。

「――ああ、なんや、外の階段から2階に上がれ、って書いてあるがな」

 ビルの外側に回りこんで、階段を上がる。

「すみませーん」

 上がり端にあったドアを開けて、真紀が中に呼びかけてくれた。

 はーい、と奥の部屋から出てきたスタッフと思しき女性が、双子を見てびっくりしている。

「「あの、うちら、隼人君のゼミの者ですけど」」

「! ああ、ボランティア希望の、ね」女性スタッフは腑に落ちた様子で近づいてきた。

「「いや、その、隼人君にお願いしてたこととはちょっと違うんですけど」」

 と言い、ごそごそし始めた双子を見て、そのスタッフは怪訝な顔をした。

「ん? じゃあ、もしかして、『隼人君はわたしのものよ』的な?」

「いや、それはこの子の担当で」

「ねーやん! いらんこと言わんでええの!」

 などと言い合っているうちに、2人はポケットの中に見つけたものを、揃って女性スタッフに見せる。

「「これ、手に入れたんですけど」」

 眼の前に突き出された2つの白水晶を見て、女性スタッフの顔が奇妙に歪んだ。その表情の意味は、美紀と真紀にはわからないものだった。



 そのころ、隼人と優菜、るいは大学の裏山にいた。全員変身し、隼人――ブラックがスキルを披露し終わった。

「今のところ、戦力になってるスキルはこれで全部だな。まだ候補はあるけど、実戦経験を積んだほうがいいと思って、練習はしてないんだ」

「なるほど。それにしても、強力だな」

 ルージュが、破壊された樹や岩を見てうなる。

「でも、なんとなくだけど、体力の消耗が激しい気がするね」

 アクアがコメントすると、ブラックは我が意を得たりとアクアを見やった。

「鋭いねアクア。そうなんだよ、威力上げすぎかな」

 そのまま考え込み始めたブラックに、ルージュからアドバイスがもらえた。

「まあ、そこらへんは長くやってけば、加減の仕方とか身に付くから。嫌でもな」

「そうそう、体力切れはつらいもんね」とアクアもうなずいている。

 しばらくスキル談義をしていた3人だったが、近づいてくる足音に気づき隠れた。足音の主が迷わず練習場までやって来たのは数分後。

「理佐ちゃん……」

 隼人たちは隠れ場所から出てきて、理佐の周りを囲む。

「あの、みんな、ごめんね。やっと、出てくる気になったから」

 その美貌はまだ沈痛な表情に彩られながらも、思っていた以上にしっかりした理佐の言葉に一同ほっとした表情を浮かべる。

「あの、隼人君」

「ん?」

「あの……ありがと、ね。気を遣ってくれたのに、あんなことになっちゃって」

「ああ、うん。気にしないで。よく考えたらさ、尾行されてるって気付けよな俺」

 お互いにうつむき加減ながら、見つめあう2人。

(ここでルージュねーさんが一言)

(なんであたしなんだよ、アクアちゃんの空気読まない一言だろそこは)

 傍観者を気取る2人が突付きあう中、この甘酸っぱい空気を終わらせたのは、全員へのメールだった。

出動か、と急いで携帯を取り出したが、『スグカエレ』のみの文面に、みんな戸惑いを隠せない。

「とりあえず、行きましょうか。急がなきゃいけないみたいだし」

 と理佐が白水晶を取り出した。


4.


 先ほどの女性スタッフがへたりこんでしまったので、美紀と真紀は別の女性に支部長室に案内してもらった。応接セットに座るよう勧められ、そのまま待つこと数分。

「ごめんなさい、待たせてしまって」

 40代と思しきスーツ姿の女性が慌てて戻ってきて2人の対面に座り、ブレザーの内側から名刺を取出して渡してきた。

「支部長の佐藤加奈です。よろしく」

 支部長が女性であることにいささか戸惑っていると、支部長のほうから切り出してきた。

「えーと、お名前を聞かせてもらえるかしら?」

「あ、すみません。唐沢真紀といいます」「妹の美紀です」

「なるほど。それは、どこで手に入れたのかしら?」

「えっとですね、大学の近所の歩道で、『きれいなお嬢さん』と名乗る女性から売ってもらいました」

 そう真紀が答えた時、支部長室のドアがなにか音を立てたようだった。支部長がふとドアを見やったが、たいしたことではなかったのか、かまわず質問を続けてきた。

「それで、もう変身してみた?」

 支部長のダイレクトな問いは想定通りだったので、2人して「はい」と答える。

「お二人は何色だったかしら?」

「うちは緑です」と真紀が答え、「うちは黄色です」と美紀が答えた。

「なるほど。……うまく色分けできましたね」

「あのー、支部長さん? どこ見てしゃべってはるんですか?」

 真紀が、なぜか窓の方を向いて独り言をつぶやいた支部長に問いかけるも、支部長は顔をこちらに戻してうふふふと笑うのみ。

 今度は美紀が支部長に尋ねる。

「支部長さん、1つ聞いてもよろしいですか? 色って、なにか違いがあるんですか?」

 支部長はまた笑って、今度は説明を始めた。

「黄色は電撃系、緑は質量操作系なのよ」

「「え!? 能力が決まってるんですか?」」

 ユニゾンでのリアクションに、支部長が驚く。

「そ、そうなのよ。だから、これからそれに応じたスキルを――」

 その時、「しつれいしまーす」の声とともに、支部長室のドアが開き、隼人たちが入ってきた。

「「あ、隼人君」」

 ミキマキは振り向いて、隼人に手を振った。

 1分後。

「ええええええ?! エンデュミオールになった?!」

「「そ。ほら」」

 支部長の簡単な状況説明を受けて呆然と眼を見開いて見つめる隼人に、それを補足すべく白水晶を見せる双子。そこから少し離れたところで、3人娘が内輪でひそひそ話を始めた。というか、丸聞こえで内緒話になっていないのだが。

(おいおいおいおい、双子が攻めてきちゃったぞ!? どーすんだ理佐)

(なんでわたしがどうにかしなきゃいけないのよ!)

(これは嵐のヨカーン!!)

(あなたこそ、どうするつもりなのよ優菜)

(な、なんであたしが関係あるんだよ!)

(盛り上がってまいりました!)

(あなた、隼人君が倒れたとき泣きわめいてたじゃない)

(お前こそ、さっきのあの雰囲気はなんなんだよ)

(ワクワクテカテカ)

「るい黙れ」

 なぜかテカるほっぺたを左右から抓まれ、

「いひゃいいひゃい!」とるいが涙目になった。

 そのままドタバタに流れるかと思った矢先、美紀と真紀は、すっと椅子から立ち上がって優菜たちのほうを向き、ぺこりとお辞儀をした。

「「優菜ちゃん、理佐ちゃん、るいちゃん。それから、隼人君。そういうわけで、ここでボランティアをすることになりました。わからへんことだらけやさかい、いろいろ教えて下さい。よろしくお願いします」」

「うん。こちらこそ、よろしく」

 隼人も律儀にぺこりとしてきたのでそのまま3人で笑いあっていたが、隼人が周囲の異変に気付いた。

「どうしたのみんな?」

 3人娘も支部長も、呆然としている。双子はえっへんと薄い胸を張った。

「「ははーん、さてはうちらの挨拶に感動したんやね」」

「いやまあ、ある意味感動したというか……」腕組みをした優菜からやっと声が出た。

「お前ら、そんな長い挨拶も揃ってできるんだな、って」

「「そっちかい!」」

「どっちがどっちだか、さっぱり分からない……」 

 支部長は頭を抱え始めた。



「「――というわけです。よろしくお願いします」」

 第1会議室に場所を移してのサポートスタッフとの顔合わせでも、真紀と美紀はやっぱりミキマキだった。

「うう、どっちがお姉さんか、もう分からない」

「「もちろん、色っぽいほうがお姉さんです!」」

 支部長と同じく頭を抱えるサポートスタッフたちに、双子はユニゾンで追い討ちをかける。そんななか、

「はい、真紀ちゃん、お茶。美紀ちゃんは、コーヒーだっけ?」

 隼人はいたって平静に、真紀にお茶の入った湯飲みを渡してきた。

「隼人君――」

 困惑極まった表情の支部長が隼人に救援を要請。

「2人の前でこんなこと言うのもなんだけど、見分け方を教えてもらえないかしら?」

「いいですよ。あとでこっそり教えますね」

 とコーヒーを注ぎながらの隼人の返事に、なぜか一同がざわめく。

「支部長にだけこっそり……」

 永田がニヤニヤし始める。

「やっぱり年上もイケるクチなんだね」

 横田がなぜか遠い目をする。

「お前って、ほんとミサカイってもんがないよな」

 優菜は呆れ顔だ。

「いやそうじゃなくて――」

 なぜか『またかよ』という顔で隼人が補足説明をする。

「本人たちの前で見分け方を話すと、修整されちゃうんだよ」

「「ふっふっふっふっ」」

「お前ら、ほんとタチ悪いな……」

 優菜が、今度は双子に呆れてぼやく。

「ほんとに同じ動きが自然にできるんだね。どういう訓練するとそうなれるの?」

 と永田がややあきれながら尋ねると、双子ではなく隼人が答えた。

「解説しましょう」

 というなり、双子の髪から突き出た毛をつまんで、

「このアホ毛で交信してるんです。あと、大阪にいる弟が3交代で遠隔操作もしているそうです」

「え、ミキマキちゃん、弟がいるの?」

「理佐ちゃん、ツッコむポイントはそこじゃないよ。ていうか、3交代?」

 そういう横田もポイントがずれている。

「「うん。男の三つ子で、ムキ、メキ、モキっていう名前ですねん」」

「……マミムメモ?」

 しばしの沈黙ののち、横田が気付いた。それを聞いたるいまで呆れはじめる。

「なにその姉弟セットでDQNネーム」

「で、隼人君、真偽のほどは?」

 と支部長がひどく疲れた様子で隼人に尋ねると、彼は楽しそうに答えた。

「三つ子の弟がいるのは本当みたいですよ。写真見せてもらったことありますし」

 顔がミキマキちゃんにそっくりでした。隼人の結びを聞かされても、ミキマキが見たところ、もはや恐慌をきたす力すら一同には残っていないようだった。

「この顔が、さらに3つ……」と理佐。

「夢に出そうだね」と永田が目頭を押さえる。

「なんかこんな宇宙人、エストレシリーズにいたような」

 横田のつぶやきに、隼人が答える。

「ああ、ビバガッツ星人ですよね。写真見たときそう思いました」

「さ、そういうわけで、一気にフロントが3人増えました」

 支部長が強引に場を締めてきた。

「またすぐに新たな敵がやってくると思いますが、みんなで力を合わせて、対処していきましょう」

「はい!」

 一同そろって声を上げ、この場はお開きとなった。

「……あれ?」

「どした、真紀ちゃん?」

 首をかしげる真紀に、隼人が尋ねる。

「そういえば、最初に応対してくれた人、どないしてん?」

「ああ、長谷川さんか……」

 帰り支度をしながら、隼人は双子に事情の説明を始めた。



 長谷川は、盗み聞きして知った大学近辺の住宅街を疾駆していた。

 いない。

 あの双子に白水晶を売ったという、女。

 会長だ。会長に違いない。

 なぜ、私に売ってくれないの。なぜ。なぜ。どこに隠れているの。なぜ、姿を現さないの。

 出て来い。出て来い。出て来い。出て来い。

 会長の姿を求めて駆けずり回る長谷川の行動は、住民の通報により警官に保護されるまで続いた。

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