人のことなんて分かるわけない
つまらない。
俺は憤りを感じていた。
毎日が同じことの繰り返し、何をやってもつまらない。イライラする。
朝起きて顔を洗ってご飯を食べながら母の小言を聞き流し、さっさと家を出る。変わり映えのない毎日。
歩いてると石を蹴ってしまったらしく、骨にひびいて痛い。くそ、イライラする。
朝から気分は最悪だ。くそ!何もかもが憎い!今なら憎しみで人が殺せそうだ。
そんなことを考えていたのが悪いのか、俺は前を歩く人に気付かなかった。
ドン!と勢いよくぶつかり、前の人が何かを落としたみたいだ。
「いってーな、ったく……」
ついつい汚い言葉が出てしまう。
「す、すすすいません!」
相手は見るからにオタクだった。まったく、歩くのがおせーんだよ。
「今度からは気をつけろよ、ってアレ?」
歩き出そうと足を踏み出した時、足元でペキッって音が鳴った。
下を見ると足の折れたロボットのプラモデルがあった。イライラが更に増した気がした。
結局何も言わずに学校に向かった。まあいい、あんな気の弱いオタク、何か思うことがあっても言えるはずもない。
席についてからしばらく経つと、俺の前の席にオタクが座った。
オタクは俺のクラスメイトだったらしい。影が薄くて気付かなかった。
程なくしてチャイムが鳴った。
ホームルームとか出席確認とかどうでもいいことの後、授業が始まった。相変わらず数学の教師はブツブツと何を言ってるのか分からない。
退屈なのでオタクを観察することにした。オタクは熱心に授業を受けているらしく、ノートに釘づけだ。
……いや、ノートに釘づけなのはあってるが、教師の言葉を聞いているようには思えない。一体何を書いてるんだ?
気になったので休み時間にこっそりノートを覗いたら、ロボットが書かれていた。あいつどれだけロボットが好きなんだ。
放課後、トイレから戻ると、オタクがロボットをいじくっていた。よくよく考えると、なんであいつロボットを持ってきてるんだ?いや俺も漫画とか持ってきてるけど。
「なあ」
「へ?あ、ああはいっ!な、なんでしゅか!?」
何こいつテンパってんの?きもっ!
「お前の持ってる……その、おもちゃ?そんなのいじくってて何が楽しいの?」
「こ、これはですね!爆裂ロボニトロマンと言ってですね!基本技が自爆技のロボットなのですよ!」
なにそのいまいち人気出なさそうなロボット。聞いたことねー
「ニトロマン達は記憶と感覚を共有するAIなので基本的に物量で敵のワンオフ機を倒す凄いロボットなのですよ!アニメもあるのでよかったら是非!あ、今から家に来て観ますか?では、行きましょう!」
よく分からないうちに俺は家に来ることが決定したらしい。まあ、いいや。予定なんてないし。
オタクの家に行くまで、俺は一方的にオタクの話を聞かされた。マシンガントークだった。いや、正確には早口だけど思考に口が追いついていないため滑舌が悪く、何言ってるのか半分も理解できなかった。
「もう午後十時か……」
「お疲れ様でした!どうでした?感想は?」
「……あー」
アニメの感想は、正直言ってよく分からなかった。視聴者層がロボットアニメ好きなためか、彼らオタクにしか分からないネタばかりだったため、オタクが笑っていても何が面白いのか分からず、退屈だった。
「よく、分からなかった」
ここは多少無理をしようと面白かったと言えばよかったのだろうが、こんな知り合い以下の相手に遠慮するのもバカバカしいと思い、正直な気持ちを言った。
「なるほど、そういえばロボアニメ初心者でしたよね!分かりました、次は初心者でも面白いと思えるロボアニメを鑑賞しましょう!」
「そうか、分かった。……って、え?」
話の流れで勝手に次の鑑賞会を約束させられてしまった。この押しの強さ、こいつ本当に今朝ぶつかったオタクなのか?
「あ、そうだ。次はプラモデルを作りましょう!実際に作れば愛着が湧くと思いますし、あなたの分も買っておきますね!」
「いやそんなこと別に必要な「ではまた明日!」
「第二回!一般人にロボットの魅力に触れてもらおうの会!開催します!ドンドンパフパフー」
「口で言うな口で」
結局、俺はまたオタクの家に来てしまった。約束を破っても別にかまわなかったが、破ってまでやりたいこともないことに気付いたので、仕方なくここに来てしまったのだ。
「と、いうわけで……じゃじゃーん!これが今回作るプラモデルでーす!」
そう言って取り出したのは、普通のロボットっぽいプラモデルだった。
「鬼神降臨サージェント……?」
「そうです!これは初心者でも作りやすいですし、可動範囲も広いので完成させれば楽しく遊べますよ!」
「いや、この歳になってお人形遊びは……」
「では早速作りましょう!大丈夫、一日で作れなんて言いません!僕が教えますので猿でも作れますよ!」
ああ、調子が狂う……
こうして始まったプラモデル作り。正直最初はやる気もないしつまらなかったが、パーツをくみ上げて腕や足を形にしていくうちに、少しずつこのロボットを完成させたくなってきた。
休憩時間には鬼神降臨サージェントの上映会、今動いているロボットが俺の作っているロボットか、結構かっこいいな。
後は、オタクが個人的に作ってるプラモデルを使ったコマ撮りの動画を見せてもらった。なるほど、プラモデルにもいろいろな活用方法があるんだな……
以前はなんとも思わなかったけど、ロボットってのも面白いかも知れない。なんだかオタクの策略にハマっている気がするが、まあいいか。
オタクの言ってた通り、一日でプラモデルは完成しなかった。俺はオタクが何も言わずとも毎日通うようになり、二週間かけてプラモデルを完成させた。
「や、やっと出来た……」
「やりましたね!お疲れ様です!」
ふ、ふふふ……苦労して作った甲斐があったぜ。自分で作っただけあって、愛着がやばい。早速アニメで見たポーズをとらせて眺める。おお、かっこいい。かっこいいぞ!
なんかもうかっこよすぎてアレだな、家に持って帰って飾りたい。いやもう大切に保管したい。誰にも触らせたくないし、壊されたりしたらなんて考えると、考えると……
「あっ……」
そうだ。俺はオタクのロボットを壊したのだ。それが故意かどうかなんて関係ない。不可抗力だろうと、俺は謝らなかったし、それどころかオタクに対してひどい暴言を吐いた。
俺は、最低な人間だ。他人のことを分かってやれない、クズだ。
「どうしましたか?あ!もしかして、あまりの嬉しさに言葉を失いましたか?」
「あ、あの、俺……本当にすまなかった!」
「え、な、何がですか?ちょ、ちょっとよく分からないんですけど」
俺がした突然の土下座にオタクは困惑したが、一から説明すると、実にあっさり許してくれた。
「ああ、別に平気ですよ。あれ、布教用なので」
「布教用?」
「はい。一般人にもロボットの良さを分からせるために、いつでもプラモデルを持ってるんだ。だから、罪悪感を感じる必要はないです。それに、壊れたプラモデルはこうやって」
オタクはそう言うと携帯の写真を見せてきた。
「ダメージを負って窮地に陥る緊迫のシーンに活用したし」
すごい、絵になってる。そういえば、俺が観たアニメにもああいったシーンがあった。
「許して、くれるのか?」
「許すも何も、友達が謝っているんです。許すに決まってるでしょう?」
「ありがとう……」
「あ、でもどうしても何かがしたいって言うなら……」
オタクはいたずらっぽい笑みを浮かべ、こう言った。
「今度、ロボットアニメのイベントがあるから、一緒に行くってのは、どう?」




