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麻婆豆腐が食べたい

「純一、せっかくだしサイクリングにでも行こうぜ!」

 俺の名前は純一、夏季休暇も九月を過ぎたころ、洋平の提案で友人である俺たちはサイクリングに行くことになった。ちょうど暇を持て余していたということもあって、あまり人がいないであろう平日にセッティングされた。

 サイクリングのメンバーは俺、洋平、不動、飯塚、内田の男五人組だ。洋平は小学生の頃からの付き合いだが、他のメンバーは大学で洋平を通して知り合った。

「おはようみんな、じゃ、行こうぜ!」

「そういえば目的地はどこなんだ?教えてくれなかったけど」

「え?ああ、実は決めてない。とりあえず道沿いに真っ直ぐ行こうと思ってる」

洋平は思いつきの行動が多いのでこういったことは日常茶飯事だ。何よりも自分が楽しいことを行動基準としていて、サプライズパーティーやドッキリ、予期せぬ事態といったものが三度の飯より大好きなのである。

「あー、もう駄目だ、疲れた。そこらへんで休もうぜ」

 ただ自転車をこいでいるのに飽きたのか、洋平が自転車を止めた。疲れたというのは体力的な問題ではなく、精神的なものだろうと思う。しかし休むことには同意だったので、俺たちはコンビニを見つけるとそこに自転車を止めた。コンビニでそれぞれトイレや飲み物などを購入すると、内田がまず、目的地を決めようと言ってきた。

「目的地を決めるのだ。行きあたりばっかりだからこうなるのだ、バカめ」

 「先に何があるか分からないという楽しみがあるじゃないか」

 少し不満そうに洋平は言うが、俺達はそれじゃ楽しくないんだ。

 「だが安心するのだ、私が最高のサイクリングになるよう考えてきた、まずは……」

 「洋平、一人ならそれでいいだろうけど、今日は五人で行動するんだ。俺はみんなと楽しめるようなサイクリングがしたい。分かってくれるよな?」

「うーん、そうだったのか。すまないみんな」

 暴走しがちだが、素直に自分の非を認められるのは洋平のいいところだ。

 「よし、じゃあみんなで決めようぜ!楽しいサイクリングにしようっ!」

 「……というようなプランで行こうと思うのだ。どう、どうかな?」

 「あ、ごめん、聞いてなかった」

 「そんなっ!」

 俺達五人での議論の結果、目的地は自然公園に決まった。決まり手は洋平がサッカーボールやフリスビーなどの遊びセットを持ってきていたからだ。

 「自然公園到着ー!よし、遊ぶかっ!」

 「お昼ですし、ご飯にしましょう」

 飯塚は俺達五人分の昼食を作ってきてくれたらしい。両親共働きで兄弟が多い彼は必然的に料理を作ることが多いそうだ。

「うまい!やっぱサイクリングと言ったらおにぎりだよなー」

「それを言うならピクニックじゃないか?まあおにぎりに関しては同感だけど」

彼のつくったおにぎりは、梅干し、こんぶ、鮭、タラコ、かつおと具の中身はバラエティに富んでいた。男が作ったからか、どっしりとした重量感があり、食べごたえがある。

「さて、飯も食い終わったことだし、まずはサッカーだな。不動、やろうぜ」

 「分かった」

 洋平は食事を終えると先に食い終えていた不動を誘い、サッカーをするみたいだ。一方俺は少しおにぎりを食べすぎたため、食休みをしている。

 「今日は難波のシルバーファングと呼ばれた俺の実力を見せてやる!」

 ちなみに洋平は大阪に行ったことがない、そして中学高校と水泳部だった。

 「遅い」

 「な、馬鹿な!いつの間にボールを奪取していたんだ!?」


 適当に遊び、日も暮れてきたので俺達は帰ることにした。帰りのことを考えずに体力を使ったため、くたくたになっていた。

 「はは……見ろよ純一、空があんなに赤くなってやがる」

 「洋平、何をそんな当たり前のことを言っているんだ」

 「あの赤を見ているとさあ……何か、思うことはないか?」

 「思うことって言ってもな……目が痛い」

 「……麻婆豆腐食べたくなるよなっ!」

 「それはたぶんお前だけだ」

 「私はエビチリが食べたくなったのだ」

 「……おっ、あそこに台湾料理屋があるじゃん、寄ろうぜ」

 「スルーしないでほしいのだ……」


 一応外で値段を確認した後、夕食を取ろうと台湾料理屋に入った。イラッシャイマセーと店員のカタコトの挨拶が聞こえる。店内はそれなりに混雑していたが、五人分が座れる座敷のテーブルが空いていた。ふう、と息をつく。店内は台湾の料理屋の装飾なのだろうか、全体的に赤い印象を受けた。音楽もなんだか台湾っぽい。正直台湾と中国と韓国のイメージがごっちゃになっているので、これが中華料理屋と言われたら俺は内装を中国っぽいと感じると思う。だってなんか龍っぽい装飾あるし

 「もち、俺は麻婆豆腐セットだな!悶えるような辛さを俺は求めているーっ!」

 洋平は麻婆豆腐セットらしい。麻婆豆腐、麻婆豆腐と言っている彼を見てると、自分も麻婆豆腐が食べたくなってきた。結果的に俺と洋平は麻婆豆腐セット、不動は五目チャーハン、飯塚は醤油ラーメンで内田はエビチリセットとなった。

「そういえば、サッカー、最終的に不動対他四人になったよな」

「ただボール取り合うだけの遊びなのになんであんなに白熱したんだか」

「一度もボールに触れなかったのだ……」

「そういえば不動さんはサッカー部だったのですか?」

「美術部」

「マジかよ」

そんなことを話してるうちに料理が到着した。オマタセシマシターとカタコトでお盆をテーブルに乗せる。俺達二人分の麻婆豆腐セットだった。

「うひゃー、辛そうだなあ」

洋平はそんなことを言いつつ満面の笑みである。早速一口すくい、ぱくり。

「……おお」

次に麻婆豆腐とご飯を半々にスプーンにすくい、ぱくり。

「……んん」

それから彼は一言もしゃべることなく、麻婆豆腐を食べ始めた。はふはふと熱そうに、けれど食べる手を止めないということはよほどおいしいらしい。ちょっとよだれが出てきた。さっさと自分の分を食べよう。ぱくり

「……これは」


翌日、俺はスーパーに来ていた。理由は明白、昨日食べた麻婆豆腐が忘れられないからだ。あの辛さ、あの香り、あのまろやかさ、そしてなにより癖になるほどの中毒性。家に帰ってからあの麻婆豆腐のことばかり考えていたせいか、夢の中にまで麻婆豆腐が出て来たくらいハマってしまっている。

それなら同じ店で食べればいいじゃないかと思うだろう、しかし、ダメな理由がある。少し遠いが店で食べることはできるだろう、その日は満足するがまた次の日食べたくなってしまう。それを繰り返すとお財布に深刻な打撃を受けることになる。そうならないためには安く、ある程度のうまさで我慢しなければいけない。よって俺はスーパーにて麻婆豆腐の材料を買うことになったのである。

「んー、料理とかよく分からないし、レトルトの麻婆豆腐でいいか。あれ、辛口がないぞ」

そう、辛口がないのである。それっぽい辛さのものもあるがいまいち信用できない。辛さは麻婆豆腐を構成するうえで重要なものだと考えているので、初っ端から問題が発生した。中辛や甘口を避け、商品の説明をよく読み、吟味する。四川とあるのでたぶん辛いのであろう。少し希望的観測であるが、辛そうなレトルトの麻婆豆腐を選択した。

次に豆腐である。俺は昨日の麻婆豆腐を思い出す。そう、あのまろやかさ、ちゅるちゅると喉ごしよく食べられるのだから、台湾料理屋の麻婆豆腐は絹ごし豆腐なのだ。一番安く、料理に合いそうな豆腐を選んだ。残りの材料はレトルトに書かれている説明から選んでいった。一応調味料のコーナーも行ってみたが、覗き込んでいるうちに何がなんだか分からなくなったので何も選ばなかった。レジで会計を済まし、家に帰る。

「……うーん、まあ、こんなものか」

 期待した味とは違うが、レトルトにしてはおいしかった。ただ、満足できなかった。空腹が抑えられただけでもやもやとした気持ちが残る。俺は考えた。さすがに一から作るのは無理だが、多少の創意工夫でなんとかなるんじゃないかと

 「……よし、大丈夫、俺はできる」


 「洋平、麻婆豆腐をおいしく食べるにはどうすればいいんだろうな……うぷ」

 あれから二日もの間創意工夫という名の失敗作を作り続けた俺は洋平に電話で愚痴っていた。気持ち悪くて吐きそうだ。

 「ああ、純一もあれが忘れられないんだな。よし、皆で考えようぜ」

 洋平はそれからサイクリングに行ったメンバーに連絡し、おいしい麻婆豆腐を作るために週末、飯塚の家に集合することになった。

日曜、麻婆豆腐をおいしくしようということで俺達は駅に集まった。俺や洋平はともかく、他の三人はよくこんなことに乗ってくれる気になったものだと思う。飯塚の案内で彼の家に着いた、ラーメン屋だった。

みんなは麻婆豆腐をおいしくするのにいろいろと考えてきたらしい。失敗に次ぐ失敗で俺は完全に思考停止していたので何も用意していない。飯塚は麻婆豆腐を練習したらしい。ラーメンも中華だからノウハウは同じなのだろうか。不動は香辛料の花椒を持ってきた。彼曰く、重要、らしい。内田は実家のおいしい水をペットボトルに入れてきたのだという。地下水だからうまいのだ!とか、この水のおかげで家族全員健康なのだとか言ってるが、正直どうでもいい。洋平が持ってきたのはサッカーボールだった。

「麻婆豆腐のことを考えてたらサッカーで負けたままだったことを思い出した、今日こそは勝ってやるぜ!」

 洋平はやっぱりどこかズレていた。しかしせっかく集まったのだし、麻婆豆腐を作るのは後回しにして俺達は近くの公園でサッカーをした。くたくたになるまで遊んだ後、飯塚指導のもと、みんなで麻婆豆腐を作った。途中、豆板醤や花椒の量を間違えたり、油がはねて火傷したり、小さなハプニングはあったものの無事に完成した。

 「いただきます……ハフハフ、はむ……か、からぁ!」

出来に関しては、香辛料の量が多いせいで辛すぎたり、逆に片栗粉が少なくて水っぽかったりと改善の余地があるものの、とてもおいしい物ができた。不動は無表情だが、満足、と言っているし、内田は顔を真っ赤にして汗や涙を流しながらかきこんでいる。うみゃい、としびれた舌で言うほど感動したらしい。飯塚はひと口ひと口噛みしめている。今後の参考にするつもりだろうか?洋平は満面の笑みで、やっぱみんなで食べる飯は最高だな!とか言ってる。何を当たり前なことをと思ったが、何も言わなかった。

結局、何が麻婆豆腐をおいしくさせたのかは分からなかったが、それは今後の集まりで決めていこうと思う。


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