うちを飛び出し、彼の元へ向かう
「遅い」
うちに帰ると、父親が待っていた。
私はまずいと思いつつ、理由を一生懸命、探す。
「ちょっと勉強を教わっていたから、遅くなって…」
「ほう。何の勉強だ?」
「え、えっと…」
しどろもどろになる私。
父親は小さい頃、一緒に遊んでくれたり、ドライブに連れて行ってくれたり、好きだったのだが、今は会話すらあまりしていなかった。
「私、疲れたから、その、休むね」
「ちょっと待て」
父親が私の腕を掴み、ゆっくり言ってくる。
「どうしてこんなに時間がかかったのか言え」
「それは…別にいいでしょ!!」
手を強く払うと、私は外へ飛び出したのだった。
「こら…!!」
父親の怒鳴り声が聞こえたが、無視してスマホを取り出す。
彼に真っ先に聞いて欲しかった。
「もしもし?」
「あの!! 私!!」
「どうしたんだ?」
落ち着く柔らかな声。
私は泣きそうになりながら、一気に喋る。
「お父さんがうちにいて、何してたんだって怒ったのよ!! 私、無視しようとしたんだけど、しつこくて。飛び出して来ちゃった」
「お前、今、どこにいるんだ?」
「えっと…スーパーの近く」
私は明かりにつられる虫みたいに、スーパーに近づいていく。
「そこにいろ。俺が迎えに行くから。なるべく明るいところにいろ。分かったな?」
「うん」
スマホを切ると、私は入り口付近を選び、立つ。
ここなら彼も分かりやすいだろうと、思ってのことだった。
私は悪くない。お父さんが厳しすぎるんだ。
門限が決まっていて、ちゃんと守ったのに、怒るほうがどうかしている。
私は1人で怒り、足を鳴らす。
しばらくして彼がやって来た。
「あの…!!」
「良かった。無事だな?」
彼の心配そうな声に、自然とうなずく。
どうやら全力で走ってくれたようで、息が荒かった。
「俺が送って行くから、うちに帰るぞ」
「え…。それは!!」
「お前の気持ちは分かる。分かるけど、俺も心配だし、親だって心配していると思うぞ」
彼は私を説得しようとしているらしかった。
私も馬鹿ではないので、彼の言いたいことはよく分かった。
2人の間を、風が流れていく。
彼は息を落ち着かせると、私に優しく言ってくる。
「帰ろう? お前がふらふらしていると、俺も気が気でないし」
「…その、あの」
その時、スマホが鳴った。相手は母親だった。
「もしもし?」
「あなた、今、どこにいるの!?」
母親の心配そうな声に、私は反省し、告げる。
「スーパーにいるの。…え? お母さんが迎えに来てくれるの? うん、うん」
彼をちらりと見ると、安心したようにうなずく。
私は離れがたかったが、母親に答える。
「分かった。待っているから、迎えに来てくれる?」
それでスマホを切ると、彼が言ってくる。
「俺、お母さんが来るまで一緒いてやる」
「ありがとう」
彼は周りを見回し、私を見せないように、立ち位置を変えたのだった。
「心配してもらえるだけ、ありがたいと思わないと」
「うん。ごめんね」
素直に詫びると、腕をぽんと叩かれる。
私は彼に頭を下げ、道路を眺める。
「あ、来たかも」
黒い軽自動車を運転しているのは、母親だった。
私が明るい声を出すと、彼が動き出す。
「俺とのことは内緒な。じゃあ、また明日」
「私、自分のことばかりで、ごめんね」
「馬鹿。お互い様だ」
彼は笑みを浮かべると、車に軽く頭を下げ、行ってしまう。
私は腕を伸ばしかけたが、我慢し、車に向かって行くのだった。




