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南天の実と恋心

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/02/01


ある冬の夕暮れ。

はくのマンションの部屋に女性が立っていた。


「今日はなにがいい?」


「ハンバーグかな、食材は買ってあるよ。」


「分かったわ。」


瑠璃の声は静かで心地良い。

 

小さなキッチンで包丁を動かす音、鍋の蓋がコトコト鳴る音、湯気の向こうで揺れる細い背中。

白はソファに座ったまま、ただその音を聞いているのが好きだった。


瑠璃が作るのはいつも質素で温かいものだった。

豚汁、卵とじの親子丼、塩鮭のホイル焼き、根菜の煮物。

派手さはないけれど、どれも「誰かのために」作られたことが指先から伝わってくるような味だった。


「私ね、幽霊なんだ」


最初、彼女から聞いた時は何かの冗談かと思っていた。

けれど、瑠璃の目は真っ直ぐで、俺にはとても嘘をついているようには見えなかった。


「でも、私はまだ生きてる。

ずっと病院にいるけど・・・夢を諦めなくていいのかなってここに来て思えるようになった。」


「君の夢って何?」

 

「好きな人のために、毎日ご飯を作ること」。


「それ、凄く素敵だよ」


「本当?」


「うん」


白は瑠璃に尋ねた。


「瑠璃はどこの病院にいるの?」


瑠璃は一瞬、目をまん丸くした。


「会いに来てくれるの?」


「うん」


「でも、私顔色悪いよ?肌も髪もボロボロだよ?」


「うん」


「それでも来てくれる?」


「もちろん」


「ありがとう」


彼女がふわっと笑った。

生まれて初めての感情が芽生えた。

この感情は・・・一体なんなんだろう。


瑠璃は、病院の名前と一階の病室の窓の位置を教えてくれた。


次の雪の降る日。

白は公園の南天の木を見つけて、赤い実をいくつか摘んだ。指先が冷たい。


病室の窓の下に着くと、確かに雪が積もっていた。

その雪の上に、南天の実が並んでいる。


そういえば、ジョウビタキという鳥が毎日一粒赤い実を雪の上に置いていくと瑠璃が上機嫌で言っていたっけ。


白はそれを思い出しながら、ぎこちなく雪を丸め始めた。雪うさぎは、耳が少し曲がって、顔が歪んで、お世辞にも上手とは言えなかった。


でも一生懸命に赤い南天の実を二つ、目に見立てて付けた。


完成した雪うさぎを窓の下に置いた瞬間、病室の窓が少し開いて、看護師さんが顔を出した。

黒髪をきゅっと後ろで束ねた凛とした女性だった。

歳は俺と瑠璃が23だから5〜6歳歳上ぐらいだろうか。


「そんなところで何してるんですか?」


「すみません、どうしても彼女に雪うさぎを見せたくて・・・」


「ひょっとして瑠璃さん?」


「はい」


「もう、手袋もしないで雪を触るなんて・・・手かじかんでるじゃないですか。風邪引きますよ。」


白は再び謝ると凍えた指をこすった。

看護師さんは呆れたようにため息をつき、それでも雪うさぎを見て小さく笑った。


「自分の手の傷に気付かないくらい夢中になっていたのね。」

 

白は頷いた。

そんな様子を見て看護師さんが苦笑する。


瑠璃が起きたらしく、カーテンをそっと開けた。

白が手を振る。

雪うさぎに気付いたようだ。

白はすぐに病室に入り、先程、雪うさぎを作っていたら看護師さんに怒られた話をした。

すると、瑠璃がクスクスと笑った。


どこからともなく飛んできたジョウビタキがクチバシから南天の実を一粒、雪うさぎの隣に置いた。


南天の実のようにまだ小さな恋心を抱き始めた二人。


「また、ご飯作りに行っていい?」


「うん」

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