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あれからまた数日経った。
古代テクノロジーを活用し、タマゴ孵化器も作った。
おかげでフィールドで拾った卵を孵化できるようになった。便利。
それに加え、拠点に採掘場や伐採場もできて、資材は充分に稼げるようになっていた。
近場に金属鉱石が採れる場所もあって、資材も潤沢。
金属インゴットをしこたま作り、装備も三連弓から毒矢のクロスボウに。金属の槍、金属の斧、金属のつるはし。
塔付近まで探索も完了し、何度かの襲撃も耐え、Lvも22まで上がった。
まだまだグランモスを倒せるほどではないが、レイン密漁団のやつらとは結構やり合っていて、そこそこ手ごたえを感じている。
そろそろ塔攻略の頃合い、のような気がする。
塔にいるやつを倒して、どうすんだって話でもあるけど。
それで何かが変わるなら。
俺が何者かになれるなら、やってみようという気になる。
「お、どした。戦地に赴く修羅みたいな顔して」
「どっから湧いてくんだよシオラお前。これから決戦なんだから水差すない」
「ついに行くんだ? 塔に」
「ああ」
「見させてもらおうかな。その戦いを」
「お前に何の得があんの? っていうか、シオラの目的って、何だ?」
「人を探してるんだ」
「人を?」
「大切な人を」
恋人かな。
家族とかかな。
愛を探してるみたいなキザかもしれない。
それが塔に関わってるんだろうか。
「ま、断る理由はないし、いいか」
「ひとりよりもふたりだよ、数の力は身をもって知っているだろう」
確かにたかし。
俺とシオラは拠点を後にした。
グランモスをスルーし、焚火をしている冒険者を後にし、岩の谷間をくぐり、階段を下りて上って冒険は続く。
ところどころにある遺跡の名残みたいな石の建造物を横目に、適当にパルなどを捕まえて先に進んでいく。
塔が間近に見えてきた。
あんなにも遠くに見えていた塔が、目の前に聳え立つ。
首が痛くなるほど、高く高くに構えた塔。
何のために、これは存在してるんだろうな。
―――ジジ。
……ん?
―――『歪んだ手記』
今?
『この世界は■■■べきだ。■を、■のまま続く世界にしよう。しかし、そのためにはいくつか問題が発生した。そのひとつが『塔』だ。塔には人間の■を集めるために、■■と深く繋がっている。塔を壊す必要がある。』
塔を、壊す……?
壊すために俺は冒険をしていたのか?
「へい、パル子。応答しろ」
『……』
「ダメか」
「どうしたの急に。古代端末に話しかけて」
「一回、話してくれたんだ。けっこう博識だったぜ」
「古代端末が……答えた?」
「おかしいのか?」
「……聞いたことがないな」
そう言って、神妙そうな顔で白商人のシオラは俺を見る。
そんな、変人を見るような目で俺を見ないでくれ。
「何だ、侵入者だ!」
「んあ」
急に怒鳴り声が聞こえて、現実に引き戻される。
塔の近くにいたレイン密漁団の団員が、俺たちの存在に気づいたらしい。
近くに来ただけで襲ってくるとか、ヒグマか野生動物かよ。
「オデに任せなぁ」
わらわらと密漁団が集まってくる。
「うわ、何だあいつ。ガトリングガン持ってやがる」
他の人間よりも一回り体格が大きい、『密漁団クラッシャー Lv.22』がいた。
やば、なんだあいつ。
「雑魚は僕が引き受けるよ。君は構わず塔に行ってくれ」
「マぁじ? こいつら全員、相手にしてくれる感じ?」
「任せてよ。僕にはこいつら全員を完封できる策がある」
「頼もし。任したわ」
「ああ、あとできればでいいんだが」
「何だ?」
「塔にいるやつは捕まえてきてくれ。顔が見たい」
「りょ」
俺は塔へ駆けだし、それを見たクラッシャーがガトリングガンをぎゅるんぎゅるんと駆動させる。
しゃらん、とシオラが抜刀し、両刃の剣を振りかぶる。
左右にステップを踏むかのような歩法で銃弾の雨あられを回避し、さらには身を捻ることで回避率を上げ、必要最低限の弾丸を刀身で叩き潰している。
そしてそのまま敵の懐に潜り込み、わーぎゃーと乱戦に持ち込むシオラ。
なるほど。即倒せなくても、かく乱はあれで充分そうだ。
俺は道中にいた人間を三連弓で威嚇射撃しつつ、進む。
『WANTED』
え、ダメなの?
急に目の前に赤いアラートが表示される。
やべ、撃っちゃいけない人を撃っちゃったぽい。
自警団はどこからともなく湧いてくるぞ。
さっさと塔に入っちまおう。
塔の入り口に立つ。
扉のようなものがあった。
しかし、開く様子はない。
「バカめ! その中には選ばれ者にしか入れん!」
などと言う密漁団下っ端がいた。
お、なんか『長押しで入る』って書いてある。
扉を長押しする。しゅるん、と足元に穴が開いたかのように、俺は扉の中に吸い込まれていった。
「ほえ!?」
そんな下っ端の最後の声。
ほんの短い滞空時間の後に、地面に降り立つ。
電子回路みたいな、あるいは血管のような模様のあるブロックの上だった。
「アンタ誰ぇ?」
甲高い少女の声がして、顔を上げる。
向こう側から、女の子が歩いてきた。
黒と桃色の左右非対称な髪色。黒い革ジャンに、フリルのついたスカートを履いている。
「誰はこっちの台詞なんだが」
「アタシはレイン密漁団の幹部。ゾーイ・レインっつーんだけど」
「自分から密漁団って名乗る密漁団はじめて見たわ」
「うっさいわねー」
「それに、幹部なの? レインって姓もらってるのに? リーダーじゃないんだ?」
「いちいちカンに触るやつね……! ってゆーか! アンタ、どーやってここに入って来たのよ」
「扉開けて入って来たに決まってんだろ」
「あれ、普通は開かないはずなんですけど!?」
「いや、長押ししたら開いたよ」
「開け方の問題じゃないわ! って、まさか、アンタ、古代端末を持ってるの!?」
「俺じゃなくて端末のほうが有名で草」
「ちっ、この塔のソウルを奪いに来たってわけね……そうはさせないんだから!」
「は? ソウル?」
「行くよ、『スマイル』!」
パルスフィアからパルを出し、彼女はそいつにライドした。
黄色いでっかいパル。
『ゾーイ&エレパンダ HP30,550』
HP30550!!??
はぁ!?
どんなレベリングしたらそんな尖ったステータスになるんだよ!?
「ちょ、おま、そのパル!? どーなってんだ!?」
「あっは! さすが古代端末。アタシのステが見えてるっぽいね。でも関係ないわ。この塔から溢れたソウルを食って、アタシのスマイルは強くなってんだから!」
塔のソウル、エネルギーか?
とんでもねぇな。
なるほど。シオラってやつが「敵わない」って言ってたのは、これか。
HP3万越えの化物に、通常では侵入さえできない領域。
確かに、こいつは俺にしか倒せないかもしれない。
ゾーイという生意気そうな少女は、古代端末を持ってない。
どんなに強いパルでも、手持ちは一体しかいないはずだ。
「多勢に無勢で失礼するぜ」
俺はモグラを出す。
ついこの前手に入れたウチのエース。
電気の苦手な土属性だ。
土の爆弾を食らうと何が痛いのかよくわからんが、ダメージにはなるらしいからな。
「クソ生意気」
「こっちのセリフだ」
「あハん。ぶっ潰してあげるわ」
黄色い電気パンダに乗ったパンクガールは、足元の俺をせせら笑うかのように見下ろした。