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敵がどれほど強大かは知らないが、これはチャンスだ。と俺は気づいた。
もし捕獲できれば、一気に戦力アップだ。
手持ちはジッバニャンにモコモコ、ペンタマ、ナエモチ、キツネビの5匹。
5匹が持ち歩ける最大数だ。
これ以上は神様が許してくれないらしい。
崖の上から駆けて迫りくるパルを見る。
ガウルフ×2。ダリザード×2。どちらもレベルは6だ。
俺のレベルは8。チームも同じくらいレベルアップしている。
勝てない相手じゃなさそうだ。
見た目、まんまオオカミのガウルフがまず駆けつけてきた。
「取り合えず行け、ジッバニャン!」
これまでの信頼から、桃色の着ぐるみことジッバニャンをパルスフィアから呼び出し、俺は棍棒を構える。
後方から二足歩行のダリザードも来る。黒いパーカーを着て、フードを被ったトカゲみたいな格好だ。
ごん、と俺の棍棒が敵のウルフにぶち当たり、HPを削る。ジッバニャンのツッパリパンチも炸裂する。ふと、拠点にいる他のジッバニャンや、あの役立たずだったタマコッコも、この襲撃に対して攻勢を見せていた。
すごいぞ、総力戦じゃないか。
ガウルフのHPが見る見るうちに削れていく。
いけね、モンスターボールモンスターボール……。じゃなかったパルスフィア。
弱ったウルフの後頭部にぽいっと投げる。捕獲率70%。余裕っしょ。
こっちはオーケー。
他の状況は……。
「ってもう賊壊滅してるー!!」
地面に転がるガウルフとダリザードの死体。
ニワトリに小突かれて死んでんだけど何こいつら。
思ったより弱ぇぇ~。
人食いに来たんじゃないの?
慌てて生き残りのダリザードにパルスフィアを投げる。
「いいか、おい、お前。もう瀕死なんだからな!? そのスフィアから出たら死ぬんだからな!? わかったらじっとしとけ? な?」
俺の必死の説得が効いたのか、それとも俺の背後で臨戦態勢に入っている5匹のパルの威圧に負けたのか、ダリザードは何とか捕獲されてくれた。
次、どこで会えるかもわからないパルだ。
捕獲できてラッキーだったな。
「にしても、けっこう強くなってきたんじゃないか。どれ、もっと強いやつと戦闘しても……」
なんて調子に乗ろうとしたそのとき、川の向こう側に大きな緑色の竜みたいなパルが見えた。
『アロアリュー Lv.12』
頭の上に桜色の花が咲いている、恐竜のぬいぐるみみたいな見た目のパル。
「……消化不良と思ってたとこだ」
レベル12だろ? こっちは合計レベル6*5の30だぜ。
総力戦だ。
あいつを捕まえれば、俺はもっと強くなれる。
「いっけー、ジッバニャン!」
よし、先制攻撃はジッバニャンに任せ、俺は背面に回り込んで棍棒で攻撃を……。
そのとき。
ツッパリパンチをブチかましたジッバニャンが、一瞬で、爆ぜた。
……は?
一瞬、アロアリューが息を吸い込むようなアクションをした後、その周囲に紫色のオーラのようなものが迸り、ジッバニャンを一撃で弾き飛ばしたのだ。
ジッバニャンが青い光に包まれ、手元のパルスフィアに戻ってくる。
瀕死の重傷を負っている。
……おい、待てよ。
俺は反射的に、一番勝てそうな炎属性のキツネビを出す。
アロアリューが背中を向けた。退くのか?
いや、そんな都合よくなかった。
背を向けたアロアリューは尻尾を叩きつけると、その衝撃波が数メートル広がり、地面が抉れた。
衝撃はキツネビを貫通し、俺をも巻き込む。
俺は木に叩きつけられ、ごぽり、と口から血が溢れ出た。
HPが、560削れた。
おい、ふざけんな。
アロアリューはぷりぷりと怒りながら俺のほうに走ってくる。
来るな。
来るな来るな来るな!!
「ペンギン!」
一瞬で吹き飛ばされ。
「……モコモコ!」
盾にしたモコモコで攻撃を受け、モコモコが瀕死になった。
手持ちが全滅。
嫌だ。
負けたら死ぬ。
死んだら終わりだ。
食われて終わる。
俺は冒険の最初を思い返す。
目が覚める前に、ジッバニャンとタマコッコとモコモコが、相談し合うかのように俺を見下ろしていた。
あれは「こいつ、食えそうかな?」と算段を立てていたんだ。
この世界は弱肉強食。負ければ死ぬ。
唐突に訪れた死の恐怖に、俺は背を向けて逃げた。
背後でアロアリューが暴れている音がする。
振り返られない。
崖を滑り降りて、川に入り、地面を転がり、土まみれになりながら、走った。
走って走って。
遠くに逃げた。
「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……っ?」
出鱈目に駆けてきたが、周囲には砂浜が広がり、見たこともない巨大な生物の骨が見える海が広がっていた。
アロアリューの姿は見えない。
「はぁ……」
俺は大きく嘆息し、砂浜に座り込んだ。
実質、一回死んだわ。
もう二度と自分よりレベルの高い相手に挑まない。
***
「おい、これ見ろよ」
「戦闘の跡だな。だがやり合ったって感じじゃねぇ。一方的に逃げた感じだな」
「逃亡者は……海に向かったか」
「根城に戻るついでに、偵察しておくか」
「だな」
鉄のヘルメットを目深にかぶり、革の服を着て、猟銃を持ったふたりの男たちは塔へと歩いていく。
「にしても、なんだって俺たちがこんな末端の警備をしなくちゃいけないんだ」
「しょうがないだろ。ボス直々の命令だ」
「ちっ。落ちこぼれ幹部の娘の言う事なんざ、放っておきゃいいのに」
「この場所じゃ力がすべてだ。ボスは強い、それで充分だ」
「……ところで、あの塔にこもって、ボスはなにしてんだ?」
「さぁなぁ。お気に入りのエレパンダと一緒に、ナニしてんだかなぁ」