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棍棒で石の塊を殴り、気合で石材を入手。
絶対ピッケルあったほうが楽だわこれ。
ということで次に石のつるはしを作り、効率よく石材を叩いて調達し、次に石の斧を作った。そして斧で木を伐採して、ありったけの木材を入手する。
棍棒は戦闘に使えて、つるはしは石材の採掘に、斧は木材の伐採に役に立つ。覚えておこう。
また、木材をしこたま入手して気づいたんだが、アイテムは質量保存の法則を無視して端末に入れることができるが、入れた分の重量を自分が引き受けなければいけないらしい。体が重い。十種影法術かよ。
パルジウムの欠片も入手し、パルスフィアを3個作った。
とりあえず目についたニワトリみたいな鳥「タマコッコ」と、ピンク色の二足歩行するやつ、ジバ●ャンじゃなくて「ツッパニャン」を捕獲した。
この地に根付いたルールは絶対のようで、スフィアに入れたパルは俺に歯向かわないどころか、指示もしてないのに勝手に一緒に戦うようになった。
勝利条件。この地に根差している絶対のルール。
「なんか採掘とかクラフトとかゲットとかしてたらレベル上がったな。ほーん、そういうシステムか。レベル4。レベルって段階って意味だけど、何段階まであるんだろ。RPG方式だとレベル100まであるけど」
自分のステータスを見てみる。
Name:NoFace
ネーム、ノーフェイス? これ、俺の名前か?
んあ、名前も思い出せないな。
……はは、顔無しか。名無しの権兵衛にはぴったりの名前かもしれない。
ノーフェイス。俺は何者でもない。
しかしながら、それ以外のステータスは可視化できるようだ。俺はこんなに自分のことがわからないのに、数字にされただけで何か分かったような気になれた。
HP500
スタミナ100
攻撃100
防御100
作業速度100
所持重量300
割り振れるステータスポイント:4
げ、ステータスポイント1で攻撃力+2しかされないの? じゃあ+100されるHPとか、+50される重量とかのほうがいいな。将来性を考えるなら所持重量は絶対上げといたほうが良い気がする。
にしても作業速度が上がるって不気味だな。何? ここの数字を増やすと俺、器用になるの? え、なんか怖い……。俺が俺でなくなる。
取り合えずHPにも振ろう。死んだら終わりだしな。
HP700
スタミナ100
攻撃100
防御100
作業速度100
所持重量400
HPと所持重量を上げて、旅は続く。
『パルボックスを作成しましょう 0/1』
ふと、ミッションみたいなのがあることに気づく。
サバイバルガイドによると、パルボックスを作るとそこが拠点になるらしい。
まぁ別にどこでもいいだろ。
あー、でも水辺の近くにするか。せっかくなら。
生き物系Youtuberから生水を飲んではいけないと聞き及んではいるが。本能的にな。
……ん?
作れないな。
作成の項目がない。
あー、先に「テクノロジー」欄からクラフトする物を解放しないといけないらしい。
テクノロジーポイントは……湯水のようにあるな。片っ端から解放していこう。
なんてことをしていたら日が暮れそうだ。
今日はここで野宿か……。
いや、クラフトの中に木の床とかあったな。
崖の下にでも作ってみるか。
ぺっ、ぺっ、と先ほど解放したクラフトの中から木の床を選択、すると一瞬で建築できた。
古代端末すげぇ。パル子やるやん。
『キャンプファイア』を中心に、床を8面ならべ、壁を設置し、天井を広げる。
完璧だ。家じゃん。秒でできたわ。
リフォームとか楽勝ですわ。
しかしここで問題が。
ベッドがない。
ベッドを作るには「布」が必要で、布には「羊毛」が必要らしい。
そして羊毛はモコロンがドロップする。
「今から狩りに行くか?」
しかし外はもう暗くなってる。
割と寒い。
焚火から離れると、視界の端が凍てつき、体が震える。
寒いと満腹度が早く減るようになるらしい。
まぁでも、腹減るくらいならいいか。
死にはしないし、寝ないほうが健康に悪いだろ。
気合で羊をしばきに行こう。
\いけー、ツッパニャン/
ドカボコ。
棍棒を握っていた手がかじかんで、寒くてHPが徐々に減り始めてたけど、まぁHPは700あるんでね。
ま、楽勝ですわ。
敵を倒すとドロップ品というのも落として、それを拾うと勝手にパル子に肉や素材が格納されていった。
よかった。モン●ンみたいな剥ぎ取りなんてやりたくなかったからな。
にしても、不思議と喉は乾かないが腹は減るな。
腹ごしらえしないと……腹ごしらえってどうやるんだ?
「ヘイ、パル子。腹ごしらえ」
―――ジジ。
お?
―――『歪んだ手記』。
答えてくれんの?
『水は古代端末を所持している限り、空気中の水分を自然に吸収し、体内へ循環させる』
「あー、それも結構すごい情報だけど、そうじゃないな。パル子。ご飯。ご飯」
『……』
「ダメか。まぁ、喉乾かないのは便利で良いな」
アイテム名「キャンプファイア」で身体を暖めながら、端末であれやこれや探す。
「キャンプファイアじゃなくてキャンプファイヤーな。一般的には」
アイテム名に向かって、そんなどうでもいいツッコミをしながら、火のほうを見ると、レシピと書かれている項目に気づいた。
何だろう。
展開してみると、調理というのができるらしい。
なるほど、焚火のほうで調理ができるのか。
なんか食材あるかな……。
その辺で拾った「ベリー」で「焼きベリー」。
タマコッコから取れた卵で「目玉焼き」、肉で「タマコッコの焼き鳥」、それかモコロンの「モコロンのラムケバブ」。
いやラムケバブ一択だろ。響きがうまそう。
ラムケバブいただきます。
俺はパル子に格納させていたフライパンの上にモコロンだったものを乗せ、パル子の指示通りに焼く。
「うぉぉぉおお」
じゅわっぁぁ、じゅわっわぁぁ。
容赦なく猛る炎にあぶられ、熱せられたフライパンの上で肉が踊る。肉はその身から脂を振り絞り、ありったけの音を「風立ちの丘」中に響かせて爆ぜる。
古代のテクノロジーか未来の利器か。何と自動で鼻腔をくすぐる香ばしいスパイスで味付けしてくれるという奇跡。
未だ肉汁を滴らせ、焼き上がりこんがりのラムケバブを、お上品に切り分けて……なんて逆に不作法な。このままかじりつくことこそ礼儀でしょうよ。
大自然の旨味を、そのまま。
「うンま~~~~ィ」
一口噛みしめるごとに肉が爆発し、口の中いっぱいに幸せが満ち溢れる。
狩った生き物をその場で焼いてその場で食う。これ以上の料理はあるまいよ。
この旨さには格付けチェックにミシュランシェフがいても騙せるわ。
一気に満腹値が満タンになった。ラムケバブうめぇ。
パル子の中に入れておけばしばらくもつらしいので、もう2、3個ほど作り置きしておこう。
「……」
肉をパル子に入れながら、ふと顔を上げると、ちかり、と光が網膜を突いた。
日の出だ。
「……徹夜しちまった」
せっかく作ったベッドに腰かけながら、たははと苦笑した。
「……なんか、元気出るな」
これが大自然の力なのだろうか。
マイナスイオンって、すげー。
「よし、行くか、ジッバニャン」
パルスフィアの中にいるパルにそう声をかけ、腰を上げる。
冒険が、幕を開けた気がした。