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69000。69000ね。
あー、ヤメだヤメだ。
数字で物事を考えるのは止めよう。
可能な限り効率的に、相手の攻撃を避け続け、そして持てる力を最大限活用してダメージを稼ぎ続ける。それでダメならダメだ。潔く諦めれば済む話だ。
やるだけやってやる。
「よっしゃ、いけ、ヒギツネ! 攻撃はエレパンダか柱に吸わせろ!」
「ちょっと、女の子を盾にするつもりー?」
「スマイルってメスなの?」
「メスよ」
リリクインの放つ高速のリーフカッターが空を切る。
間一髪、ジャンプで避けた。
葉の斬撃に一瞬遅れて風が吹く。
ジャンプのタイミングが遅れて、親指の第一関節が触れてたら、そのまま切れて失くなってしまいそうな威力。
「っぶね……」
そして思い出す。
戦いの緊張感を。
リリィとの会話で感覚がマヒしていたが、戦いは常に生殺与奪だ。
正しいとか悪いとかそういう次元の話じゃない。
命のやり取り。
俺は三連弓を構え、リリィ&リリクインに向けて引き絞る。
女性の形をしたパルに、鋭利な凶器を向けるのには僅かに躊躇したが、俺は構わず射った。
俺の弓矢は、リリィの槍によってバキバキに叩き伏せられた。
なるほどね。乗り手も含めてこのHPか。
躊躇ったら、死ぬのはこっちだ。
やるしかない。
「焼いちまえ、ヒギツネ。技はスプリットファイアー、ファイアーシュート、ファイアーブレスの3つに絞れ」
というか、端末でそう指示を飛ばす。
パルは頭が幼稚園児並みなので、3つの技しか使えない。
しかし今はそれが功を成す。
手下はほどよくバカなほうが、扱いやすい。
ヒギツネの口からファイアーブレスが放たれる。
体内で生成された燃料が発火器官を通して燃え上がり、油特有の焦げた臭いを放ちながら炎が広がる。
ちょっとした火炎放射器だ。
その炎は吐き終えてもリリクインの体に残り、燻る火種は彼女(?)を確実に蝕み続ける。
「おのれ、よくも汚らわしい火をリリクインさまに!」
「うるせーな。しょっぱな葉っぱでちょん切ろうとしてきたくせに」
「許しませんよ」
「こっちのセリフだ」
リリクインはリリィの頭上に、人一人は入れそうなほど大きな水の玉を作りだし、ヒギツネに打ち出した。
ばしゃん、とヒギツネに命中し、その一撃で、ヒギツネのHPはゼロになる。
ヒギツネが光の粒子に変わり、パルスフィアに戻ってくる。
「なん、だ今のはっ!」
「およそ2tの圧縮された水弾です。弱点属性への対策はしていないとでも?」
ちらり、と俺はゾーイを見た。
ゾーイは「ラインサンダー!」とか叫んでる。
はーい、弱点属性への対策をしていない子がここにいますー。
……んなことやってる場合じゃなくて。
俺はアロニウムを出しながら、三連弓を構えて舌を打つ。
ヒギツネのHPが尽きた。これは自然回復しない。回復にはパルボックスに預けなければいけない。
残った戦力で、未だ6万ある相手のHPを削り切れるのか。
いや、できる・できないじゃない。
やるだけやる。
「草属性同士の攻撃は威力半減だが、アロニウムには竜属性が……」
「無駄ですわ」
ひぃぃん、とリリクインの頭部に紫色のオーラが迸る。
息を吸い込んでいるようにも見える。
何だ。竜属性の色とは少し違う。闇属性!
ぶし、とリリクインの正面方向に毒霧が放たれる。
ダメージは大したことは無い。
だが、毒のスリップダメージがアロニウムを襲い続ける。
「ノーフェ!」
ゾーイの援護が入り、アロニウムが行動しやすくなるが、毒は消えない。
HPの比率でダメージを与えるのか。
普通、毒って体が大きい相手には効き辛いはずなんだけどな。
大型ほど毒に弱いって、モンハン形式かよ。
くそ、アロニウムもリリクインのリーフカッターで沈む。
頼りねぇが、ペンタマで応戦するしかないようだな。
「ゾーイ、そっちは!」
「全然余裕!」
全然余裕ですか、そうですか。
こっちはもう手持ち半減でピンチです。
俺がやつのHPを半分削るほど活躍しなきゃいけねぇのに。
このザマはなんだ。
『攻略できるように作られていない』。
山と同じ。
だからこそ。
―――もっと対策を練るべきだったか。




