表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

2話

 まず分かったことは、俺は魔王が支配する世界から人間を解放する勇者でもなければ、この世界を破滅から守る特別な人間でもないということ。

 異世界転生者でもなければ、別に追放されたわけでもないし、もちろんチートスキルもない。

 古代端末をたまたま持っていた、ただのいち漂流者にすぎないということだ。

 だから、魔王を倒すとか世界を救うとか、そういう使命はない。


 ただあるのは―――『生き方』だけ。


「サバイバルガイド……便利な端末だな、これ」


 俺は端末から、必要な情報を取り出した。

 とりあえず、まずは『原始的な作業台』を作る必要があるらしい。

 わざわざ台なんか作らんでも……地面でよくね? と思うのだが、偉大なオーパーツ様がそう言うんだから従おう。

 木材2つを消費し、その辺の木陰に作業台を建築。

 すると不思議なことにレシピも表示された。


「パルスフィアを作るのに必要な材料は……パルジウムの欠片? あと石材と木材がいるのか」


 パルジウムの欠片……。

 その辺に、黒い石に張りついた青い鉱石みたいなのが見える。あれか?

 っていうか、足元にもなんか青いのが落ちてんな。


『パルスフィア×1を入手』


 現物が落ちてたわ。

 丁度いいや。こいつを使うか。


 俺はその辺の生き物に歩み寄る。

 モコモコの毛を纏った生き物だった。

 端末には『モコロン』と表記されている。

 どっかで見たようなモンスターだな、本当に。

 つーか、どういう進化を辿ればこんなまん丸な生き物になるんだろう。

 こいつにスフィアを投げれば捕獲できる……ってどっかで聞いた話だな。

 確かこれを投げる前に弱らせたほうがいいんだよな。俺は知ってるぞ。


 ―――ジジ。

 と、俺の端末にノイズが走る。

 端末がひとりで動き、宙に浮く。

 何だ?


 ―――『歪んだ手記(イレギュラーノート)』。

 バグった?


『―――人の夢……島になった。……夢が……混ざり合い、………………ゆえに「誰かがどこかで見たような」生物が存在する……………。―――――――夢の生物だ。……………夢から生まれた―――――――』


 ……文字化けが多くて、全然読めない。

 叩けば直るかな。

 バンバン。


 ―――『歪んだ手記(イレギュラーノート)』。

 再び。


『自然界には掟がある。狼が羊を狩り、鷹が雀を狩るように、抗えない食物連鎖の序列がある。「XXX」を用いて作られるパルスフィアは、その序列を「絶対化」する。パルスフィアを用いて「勝利条件」を満たされた者は、直ちに「XXX」の掟に則り「服従」する。勝利条件とは、「精神的な敗北を以って」決定される』


 「XXX」ってのだけ分からんな。伏字みたいになっている。でも、今回は何が言いたいのか分かった。

 勝利条件か。新しい単語が出てきたな。色んなゲームをしてきたが、そのほとんどが相手を倒すものばかりだった、と思う。相手のHPをゼロにしたり、アーマーを割ったり、言い換えれば「相手の敗北条件を満たす」ものばかりだった。

 ここも基本はそうだろう。ステータス画面にHPってあるし。

 だが、こっちの「勝利条件」を満たしても勝ちになるのだ。スフィアを投げ、エゴを押しつけて、押し通れば勝者になる。シンプルでいい。


 やるか。あまり気乗りはしないが。


 さぁ、モコモコ。

 戦いの時間だ。


「世は弱肉強食だ。恨んでくれるなよ」


 とはいえ、敵は自分の腰ほどの大きさがあり、胴体は俺よりも太い生き物だ。これを相手に物理で殴り勝つのはそこそこハードルが高いだろう。

 だが、やる。

 相手を打ちのめし、相手に敗北を悟らせ、スフィアを投げればいい。

 それがこっちの勝利条件だ。


「おら、おらぁっ!」


 モコモコした羊の顔面に向かって、拳を振り上げる。

 重い感触が手の甲に伝わる。

 やはり素手でやるもんじゃなかったか。

 体に刻まれた格闘技の記憶とかは、特に無い感じだ。

 これだけの質量の塊を殴り倒すのは、文字通り骨が折れそうだ。

 だが、相手は目に涙を浮かべ、地面を転げまわるばかり。

 弱い。あまりにも弱すぎる。

 自然界から見れば、不自然なほど弱い。


 そろそろいいか。

 ボールを投げ、捕獲する。


 ピロリン♪


 と古代端末から音声が流れ、捕獲に成功した旨が表記される。

 俺は流れる汗を拭いながら、手に残る痛みと胸の高鳴りと罪悪感を抱え、スフィアを見る。

 よくあの生物がこんな小さな球に入ったもんだ。

 一体どういう原理で―――。


 ―――ジジ、『歪んだ手記(イレギュラーノート)』。

 またか。


『上手く捕まえられたようね』


 ……ん?


『でもまだまだよ、まずは……』


 急にフレンドリーになったな?


『最初の夜に備えなさい』


「あ、もしかして喋れる?」


『あら、古代端末に話しかけるだなんて、私の所有者は頭がおかしくなったのかしら』


 これまでは文字だけだったが、普通に声をかけたら声で返してくれた。

 端末は俺の周囲をふよふよと浮きながら、会話する。


「古代端末は、自分のことを古代端末って言わないだろ。誰だ、お前」

『XXXよ』

「聞き取れん。何だって?」

『XXX』

「……そこだけノイズが入ったみたいに聞こえないんだ」

『私をどう呼ぼうがあなたの勝手よ』

「じゃあ、パル子でいいや」

『は、はあぁ~!!?? もうちょっとマシな名前をつけなさいよね!!』


 俺は原始的な作業台とやらの前に立ち、他のレシピを見てみる。

 木材5個で『木の棍棒』が作れるな。

 絶対、素手よりマシだ。作ろう。


 トンテンカンテン。


「へい、パル子。この世界は何?」

『……おほん! ヘイSiriみたいな使い方やめてくれる?』

「よく知ってんな」

『悪いけど、ウチが外からなんて呼ばれてるかなんて知らないわ。家の内からは、玄関の表札が見れないのと同じように』

「引きこもってねーで表札くらい見て来いよ」


 棍棒できた。これはパル子にしまわせず、背負ってたほうがいいな。


『―――ジジ』

「どした?」

『……わルいけど、あまり話せないの。こうして干渉すること自体、イレギュラーだかラ』

「そうなのか」

『私たちの所有者であるだけで、あなた自身の身の回りのステータスを数字化し、敵のHPや勝利条件を満たせる確率も表記できるわ。ああ、あなたからすれば、「捕獲率」のほうが見やすいかしら』

「それは助かる。次はいつ話せるんだ?」

『……まタいつか。あなたが、この世界の真相に近づいたとキに』

「分かった。またな」


 すん、とそれ以降、パル子は口を聞かなくなった。

 そういえば、意識してみれば自分のHPがわかる。

 気づいていなかっただけで、最初から分かっていたのかもしれない。

 VRゴーグルをつけたみたいに、道を歩くパルの名前もHPも分かる。

 便利な世界になったものだ。


 さて、まずは……。


「最初の夜に備えよって言ってたっけ」


 詳しくはサバイバルガイドを読みながら進めていこう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ