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「森で撒けたか」
「助かったわ。さすがに危険な森までは追って来れないみたいね」
森には今まで見たことのないパルが何体もいた。
「何あの蝶々。パピプペポ?」
「パピテフよ。鱗粉を嗅がないようにね」
「嗅いだらどうなるの?」
「トぶわ」
「飛んじゃうの?」
「毒なんだけど、一度吸い出したら、ずっと吸い続ける人もいるくらい病みつきになるらしいわ。成分を摘出した、危険な薬も市場に出回ってるくらい。あなたは吸わないようにね」
「マジックマッシュルームみたいなもんか」
「何それ」
パル自体は危険ではないが、鱗粉の毒成分が人体にたまたまヤバい、って感じか。ままある話だ。
ちなみにマジックマッシュルームはアステカ帝国時代にテオナナカトルと呼ばれていたらしい。うーん、どっかで聞いた古龍。
「あっちの桜色の子は何? ポプリーナだって可愛いね」
「あんた、何にだって可愛いって言うじゃないの……」
「片っ端から捕獲していきたい気持ちだが、今は拠点を作って体勢を整えたほうがいいな」
「そうね。野営の準備を進めましょうか」
俺は古代端末で、パッパと木材を消費し木造建築の建物を生成する。
壁を立てて個室をふたつ作ろう。そのほうが何かと良かろう。
俺が指先ひとつで建築を進めていると、隣でゾーイが口をあんぐりと開けてそれを見ていた。
「はぁー!!?? 何それ!? あんた何、何それ!?」
「こう、端末に建築セットってのがあるから、それを選べばサッとだな……」
「サッと作れるわけないでしょ!!? あんた何やってんの!? 大工に謝りなさい!?」
「これからはパルパゴス島の大工頭とお呼び」
大工の頭って何て言うんだっけ。棟梁だっけ。
なんでもいいや。
「取り合えず即席だし、こんなもんでいいか。キャンプファイヤーはあるから、食料はここで作ろう」
「はぁ……もうなんでもありね、あんた」
「古代端末の叡智だよ」
「ちょうど、水は湖から汲めばいいし、何とかなりそうね」
「え、そのまま飲めんの?」
「逆にどうやって飲むのよ」
消毒された水以外を受け付けない俺のわがままボディ。
古代端末越しで自動補給されてほんとよかった。
「原住民はワイルドだな」
「田舎臭い呼び方止めてもらえるー?」
「その文明レベルでそのファッションセンスって不思議だな。服ってどうやって作ってんの?」
「そんなん手作業に決まってるでしょ」
「ふーん」
夢が集まってパルを成しているから、パルは俺がどこかで見たような形をしている。
それと同じように技術も流通していたら?
ファッションとかが、こんな風に歪な形で流用されていても、まぁおかしな話ではない。
「……ん!」
「どうした」
「ちょっと、お花摘んでくるわ」
「便所な」
「うっさい!」
ゾーイが去った後。
―――ジジ。
いつもの異音が鳴った。
―――『歪んだ手記』。
さぁ今度は、何が分かる?
―――『再現』。
ん? 新しい単語だな。
再現。
これは、最初のほうに見た歪んだ手記の内容が、見れるようになっているみたいだ。
『そこは、人の夢が集まる島になった。人々の夢が雑多に混ざり合い、パッチワークのように繋がったこの世界には、ゆえに「誰かがどこかで見たような」生物が存在することになった。ここの生き物はあらゆる生物学の概念に当てはまらない。夢の生物だ。その性質上、現実には存在しえない器官でも、夢から生まれた以上、あらゆる性能を持ち得る。』
「なるほど。夢の物だと気付けたから見れるようになったのか」
夢の集まる島、か。
じゃあ、これ夢か?
っていうわけでもない。
実際に触った触感があるし、味覚だって機能してる。
何より、俺は現実に生きていると認識している。これ重要。
これは夢ではない。
夢の中ではない。
……多分。
いや、夢を現在進行形で見ているとしたら、夢を夢と認識できなかったりするのか?
なるほどわからん。
「パル子。次の塔を壊したら教えてくれよ。塔を壊す意味と、俺の役目」
『……』
「俺、何のためにここに呼ばれたんだ? それとも、俺は何をしにこの島に来たんだ?」
『……』
「せめてお前の目的くらい、教えてくれよ」
『……』
歪んだ手記が途切れ、視界が戻る。
俺は諦めの嘆息を吐き出す。
ゾーイは、えらくタイミングよく戻ってきた。




