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「おら、俺お手製の『モコロンの香草焼き』だ。ありがたく食え」

「何でモコロンの肉とベリーで香草焼きになるんだい?」

「古代端末の力だよ」

「ちょっと、あたしの分だけ取り分少なくない?」

「うるせーなー」


 ぎゃーぎゃーと俺の調理鍋で作ったモコロンの香草焼きを取り合う俺、シオラ、ゾーイ。


「それにしても意外だね。ゾーイ君が素直についてくるなんて」

「そりゃ、しょうがないでしょ。密漁団は解散になっちゃったんだから」

「俺が攻め込まなきゃ塔は崩れなかったからな。恨まれて当然だと思うが」

「もう気にしてないわよ」

「さっぱりしてんな」

「もともと、あたしのことを大事にしてくれたわけじゃないし、いっそ清々したわ……それに、その……これからは、あんたがいてくれるって言うし」

「何? 最後のほう聞き取れなかった」

「なんでもないわよ! おかわり!」


 よく食うな。


「塔に思い入れとかなかったの?」

「別にないわよ。何を守ってるのかも、実はよく分かってなかったし」

「あ、そーなの」


 俺も食べよう。

 甘じょっぱいベリーとモコロンの脂が混ざり合った濃厚なソースを肉の上にかけてから一口。

 うむ。美味である。


「他の塔の連中もきっと同じよ。よくわかんないけど、守ってる」

「祀られていた神具や祭事が年代を重ねる内に形骸化していくのは、よくあることだね」

「おー、シオラそれ、頭いい人のそれっぽーい」

「ところで僕は、塔の内部からエネルギー的なものの供給を得ているとばかり思っていたのだけど」

「それもあるわね。塔の中にある、祭壇みたいな場所にいるとソウルがもらえるの」

「ソウルって何?」

「うーん、エネルギーみたいなものかなぁ。それを食べてスマイルも大きくなったの」

「各地にいるデカいやつら。エリートパルとは違うのか?」

「多分、同じようなものだと思う。何らかの形でエネルギーが漏れ出してて、それを取り込んだ一部のパルが肥大化してるのよ」


 各地に点在しているパワースポット。

 経絡、塔。

 うーん、なるほど。

 分かってきたような分からなくなってきたような。


「ところで、あんたの話を聞かせなさいよ」

「俺の?」

「あんた、外の世界から来たの?」


 興味津々にゾーイが身を乗り出す。

 黒と桃色のポニーテールが揺れる。


「あー、多分」

「何よ、多分って」

「覚えてねーんだ。ここに来るまでのことを」


 シオラが自前の魔法瓶からコーヒーを注ぎ、しれっと自分だけ飲みながら口を挟む。


「座礁した船があった。状況から考えて、恐らくその船からノーフェ君はやってきた」

「じゃあ、やっぱり外の世界から来たのね! 何でもいいから、覚えてること話なさいよ。どんな生活をしていたの?」

「え、んー。そーだなぁ。なんとなく、情報は覚えてるんだよな。まず、こんな自然は残ってなかった」

「自然が残らない?」

「そもそも、パルなんていないんだ、外の世界には。だから人間が最強。人間が無限に蔓延ってて、ひとり一拠点クラフトしてるって感じかな。道は人工石で整備されているし、火薬で走る乗り物に乗って効率的に移動し、何にでも交換できる金を稼いで生きていく世界だよ」

「パルが、いないの?」

「いない。少なくとも俺は、ここに来て初めて見た」

「そこの人たちは、どんな生活をしているの?」

「お前らから見たら、意味わかんねー生活してるなって思うぜ。ほぼ完璧に整備された地面、塔のように高い建物がいくつも並び、赤や黄色、人々の目を引く華やかな色合いの広告がそこら中を飛び交っていて、透明なガラスケースの向こうには、数多ものクリエイターが趣向を凝らして作られたファッションが所狭しと並んでいる」

「うん、うん……!」

「そんな町を冒険できるってなったら、フツー心躍るはずなのに、だーれも楽しそうにしてないの。みんな、人形みたいな顔で町を歩いてる。お前らみたいに活き活きしてねーよ。殺伐としてた。物に溢れてるのに、心がついてきてないんだわ」

「……そうなの」

「興味深い話だね」


 シオラは俺たちの分のコーヒーも淹れて、勧めてくれた。


「じゃあ、今度は僕の番」

「コーヒーあざっす」

「この前、少しだけ聞いたけど、その『歪んだ手記イレギュラーノート』から、今度はどんな情報を得たんだい?」

「塔を全部壊せって。あと、塔の中にいる人を全員保護しろとも言ってたな」

「ふむ。塔とその管理者は選ばれた者にしかできない。それを保護しろ、という指示か」

「その歪んだ手記って、もしかしてノーフェの独り言の相手?」

「いや、歪んだ手記は表記されるだけで、それとは別に古代端末が声をかけると返してくれんだよ。俺はパル子って呼んでるけど」

「いやネーミングセンス……」

「その古代端末、もといパル子ちゃんが言うには、パルは夢から生まれた生き物だという話だったね」

「夢? 誰の?」

「そこまでは分かっていないんだ」


 分からないことだらけだ。

 俺はふと、冒険の最初を思い出す。

 

「そういや、シオラ、最初に古代端末にこう表記されてたんだ。『塔が鍵になっている。木が真実を握っている』って」

「塔が鍵で、木が真実?」

「木、木って言ったら、アレしかないよなぁ」


 俺は遥か遠くに聳えている巨大な巨大な大樹へ目をやる。

 海の中に生えた、宇宙にも届きそうな超巨大な大樹。


「あれがどうかしたの?」

「いや、どうかしたの、じゃねーよ。普通、木はあんな大きくならないし、そもそも海水じゃ育たねーだろ」

「……確かに、今更ながら考えてみると、不可思議だね」


 ここで生きているやつらにとっちゃ当たり前のことかもしれないが、とんでもないことだからな。


「木が夢を見てるってこと?」

「まさか。いや、分からん」


 ゾーイの無邪気な問いかけに、一瞬有り得ないと言ってしまったが、言い直す。

 一理あるかもしれない。


「面白そうね。あたしは乗った。この世界の真実を探す旅、同行するわよ」

「情報は最大の商材というからね。僕もたまに手を貸すよ」

「俺は―――そうだな。記憶がねーからよくわかんねーが、もっとこの世界のことを知って、あわよくば、この世界から現実に帰ることが目標かな」


 三人の利害が一致し、コーヒーで乾杯の合図を交わす。

 ゾーイの悩みを聞いた手前、言い辛かったが、俺の本当の目標は『自分が何者か』ハッキリさせることだ。


「最終的に、外の世界に出るの?」

「ああ、出れたらな」

「じゃあ、全部終わったら連れて行ってよ! あたしも見てみたい。あんたの生まれ故郷!」

「鉄の船でもクラフトできたら、行くか」

「電力なら任しといてよ!」


 鉄の船が電力で動くのかはわかんねーが。

 頼もしい味方が、ふたりもできたな。


「ところで、ベッドってこんな貧相なものしかないの? もっと上質なものにしてもらえる?」

「上がり込んできといてなんでこいつ、こんな図々しいの?」

「確かに、君の古代端末なら、上質なベッドを作れるはずじゃない?」

「何でお前は古代端末のテクノロジー内容知ってんの?」


 情報通にもほどがあるだろ。

 そんなこんななてんてこ舞いで、俺たちは最初の夜を迎えた。


「……これがゆっくりできる、最後の日かもね。レイン密漁団の衰退。これは、新しい勢力争いの狼煙になる」


 シオラが最後に、そんな物騒なことを呟いたような気がした。

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