12
ずがん、どどん、ばきん、ずずーん。
大体要約するとそんな効果音なんだが、それが大地を振るわせるほどの大轟音ともなればいかんとも形容しがたい。
雲にも届きそうだった塔が、崩れ落ちた。
ばちち、ばちち、と空に何か電気みたいなノイズが走ったように見えた。
塔は経絡、とか言ってたな。
経絡って、人体にあって、マッサージとかで押すやつだよな?
んー、パルパゴス島は人体なのか?
動くのかな。
それはそれでガン●ム。
「塔が崩れたぁ!」
と、第一声を発したのはレイン密漁団の下っ端だった。
「塔が崩れたってことは、ゾーイのやつはどうなったんだ!」
「あそこにいるぞ!」
「負けてる、ゾーイが負けてるぞ!」
「今まで創始者の子孫の娘だからって甘やかされてきやがって……負けて塔を失ったんなら世話ねぇわ!」
創始者の子孫の娘。
まぁ、その辺の立ち位置だろうとは思ってた。
「ぐぬぬ」
「いや、言い返せねぇのかよ」
「うっさいわね! さっさと下ろしなさいよ!」
「立てるなら下りてくれ」
「ちくしょう、ちくしょう……! 一族の恥さらしだったジージの代から、ようやく塔の管理ができるパパのおかげで幹部に返り咲けたっていうのに……!」
そう言って、ゾーイは地団駄を踏む。
祖父のことジージって言うんだ、と思った。
「解散だ、解散!」
「レイン密漁団は、これからも好きに生きるぞ!」
「いけ好かねぇ小娘のお守りは終わりだ! 清々するぜ!」
ところで、レイン密漁団と小競り合いをしていたパル愛護団体も、ちらほら引き上げていく。
とりあえず、目印だった塔が壊れたから報告に戻るって感じだろうな。
レイン密漁団も散っていく。
塔を中心にした生活からおさらばして、これからは好きに生きるんだろうな。
もともとゴロツキの集まりだし。
ふと、解散していく団体と反して、こちらに向かってくる人影があった。
「あ、終わった?」
「シオラ。良かった、生きてたか」
「全然心配してなさそうな口ぶりだね」
「いやぁ、何とかなりそうな空気だったから」
「いやいや。若者の相手は、初老には応える」
シオラは肩をぐるぐる回したり、腰をグイグイ押したりして、いてて、とか言ってる。
銃火器の相手をした後にする運動じゃないのは確かだな。
「で、その子が塔にいた子?」
「そそ」
「ふーん……」
ちょっとシワのよった目で、まじまじと眺めるシオラ。
「似てないなぁ」
「誰に?」
「こっちの話」
「ふーん」
こいつって、意外と自分のこと喋らないよな。お喋りのくせに。
その辺、商売人って感じがする。
伊達に年食ってるわけじゃなさそうだ。
「あ、アタシをどーするつもりよ」
「ちょっと待ってな。ヘイ、パル子。今後の方針」
「さっきから、アンタ独り言が酷いわよ」
「え、あれ聞こえてなかったの?」
「逆に聞くけど、アンタには何が聞こえてんの? うわ、妄想癖、キモッ」
なんでこいつ、敗けたくせにこんな生意気なんだろう。
―――ジジ。
お、パル子きちゃ。
―――『歪んだ手記』。
今後の活動方針を頼む。
『この世界は未だ■と現の狭間の世界。「霧」で閉ざし、不確定要素を足し、「そこに何があるかわからないから何物にも成り得る」という存在の可能性を残すことに成功したが、それでもやはり、霧を抜けてやってくる探検隊や研究者もいる。特に研究者。【現代】端末を所持し、無制限にパルを乱獲し、単身で強大な軍隊を作り上げた「ガロア・ノイマン」という男は、この世界の秩序を著しく乱し、かつてないほどの大きな争いを起こし、文明の衰退を促す結果となった。』
「今後の活動方針に関係ね~!」
「急に何を言ってんの? あんたは?」
「うるせーなー、ヘイ、パル子。こいつどーしたらいい?」
『……』
「パールー子ー、頼むよー」
『……塔をすべて壊しなさい……その中の人と共に』
「塔全てって、何個ー?」
『……』
「パールー子ー」
「話の途中に失礼するけど」
「何だ、シオラ」
「各地を統べている『塔』なら、ここを含めて全部で5つあったよ」
「じゃあ、残り4つか」
とりあえずの目標ってことでいいんだろうか。
んー、まぁ、他にやることもないしな。
ゾーイは仲間になってくれるんだろうか。
「おい、ゾーイ」
「何よ」
「お前も来るか? 塔を壊しに」
「塔を壊してどうすんのよ」
「さぁ。でも、この世界のことについて分かっていくんだ。俺の持ってるパル子……もといに古代端末から、少しずつ、この世界の真相が見えてきている」
「……何それ、救済者気取り?」
「いや、別に、何者気取りでもないけど」
「……アタシは、何にもなくなっちゃった」
ぽた、ぽた、とゾーイの目から涙がこぼれる。
「塔から得ていた力も失って、手下もどっか行っちゃって、住処も壊された。アタシの居場所なんて、所詮はこの力しかなかったんだ……アタシは、アタシは……」
すすきれた、少女の泣き声。
「アタシは、何者でもないんだ」
絞りだしたような自虐の言葉は、自らの胸にナイフのように突き刺さり、ぼたりぼたりと余計に涙が溢れて止まらなくなる。
「そいつが何者かなんて、そいつにはわかんねーだろ」
……あれ?
「……うぐ、ひぐ……うっさいわね。アンタには、分かんないわよ」
「家の中からじゃ、外からどう見えてるのかわかんねーのと同じだよ。家の中からじゃ、自分の表札も見えやしない」
……俺、なんで。
「……何が言いたいのよっ」
「お前が何者かは、他の誰かが決めることで、そうやって自分と向き合い続けても、見つかるわけねーって言ってんだ」
なんで、この子を救おうとしてるんだろう。
「でも、アタシは、みんなから、パパの娘だからって、ただそれだけで……」
「クソ生意気な口調で人を小馬鹿にする小娘」
「なっ?」
「だけど最後まで戦いを諦めず、最後の最後の瞬間まで、自分ではなくパルに愛情を注げるような、性根は優しくてたくましい生意気な小娘」
ああ、そうか。
この子も、自分と同じ悩みを抱えていたからだろうか。
「……何よ、それ」
「初対面のお前のかんそー。それが良いか悪いかは置いといて、俺から見たお前の『自分は何者か』に対する答えだよ」
「ば、バカにしないでよ。そういう意味じゃないわよ!」
「そういう意味だろ。誰かと一緒にいて、それから初めて自分が何者かハッキリすんだよ。お前が手下から上司の娘ていどにしか思われてなかったら、そいつらとはそのていどの付き合いだったってだけの話だ」
「でも……でも、アタシは……アタシだって、認められたかった」
「認められてるから、塔の管理任されてたし、今まで黙ってついて来てたんだろ。なーのーに! お前がそうやって突っぱねてるから、いつまで経っても距離が埋まんなかったんだろ、多分」
偉そうなことを言っているが、実は特大ブーメランが俺に刺さっている。
ブーン、グサッ。
そうか、俺が何者か、俺はずっとずっと迷っていたのに、こんな近くに答えがあったんだな。
なんか、笑えるな。
「じゃ、じゃあ、どうすれば良かったのよ」
「これまでの話をするのは非建設的だな。これからの話をしようぜ、ゾーイ。取り合えず俺の拠点に行こう。人ふたり泊められるくらいのスペースはある」
「あ、僕もいいんだ」
「当たり前だろ、シオラお前。男と女がふたり屋根の下はまずいだろ」
「デリケートだね」
「お年頃なんだよ」
そう言って、俺はゾーイに手を差し伸べる。
ゾーイは涙でぐちゃぐちゃになった顔をぐいと拭いて、しかし手は取らない。
「……まえは」
「何?
「名前は!? あんたの、名前! いつまで経ってもあんたじゃ、面倒くさいんですけど?」
「俺か? 俺はノーフェ……」
あー、ノーフェイスって名乗って、変な名前ってツッコミ入るくだりはやったな。
どうしよ。
「ノーフェね」
「あ、いや、ちが」
「ノーフェ君だね。うん、そのほうが呼びやすい」
「シオラてめー。まぁいいか」
ぽりぽり。
後頭部をかく。
「ノーフェだ。よろしくな、ゾーイ」
「……ん」
というやり取りがあり、ようやくゾーイは俺の手を取った。
本当に、手間のかかりそうな子だ。
P.S
一章終わり…みたいな感じでしょうかね
何とありがたいことに、ふたりにひとりはユニークアクセスしていただいております
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