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三連弓を放ち、地面を何度も転がって、スマイルの雷撃をかいくぐる。
電球のような雷撃が十数発、連続で撃ち放たれる。
バカみたいに雷を連発しやがって。
空間は飽和した電子により励起状態に入り、髪の毛が静電気で逆立つ。
「はぁ、はぁ……! しぶっとい!」
「ぜぇ、はっ……。そりゃ、どうも」
額から流れる汗を拭い、三連弓を構える。
スマイルのHPは。
後2割。
ピピピ、と俺にレーザーポインターのような赤い線で再び狙いをつけられる。
「終わりだよ……!」
バチン、と爆ぜる直進するイナズマが。
視界を埋めつくほど白く広がって。
直後、茶色い壁が俺の前に立ちはだかった。
「そーだよなぁ。終わったと思ったよなぁ。なんつったって、手持ち複数持ちは俺しかいねぇんだもんなぁ」
「6体目!? いや、こいつは……」
ずん、と俺の目の前には、最初に戦ったモグラがドデかい爪をギラリと光らせ構えていた。
「そいつはもう、瀕死だったはず!」
「残念。手持ちで控えさしておくとHPが回復するんだよ」
その事実を、一体しか持たないやつらは知らない。
「ちっ、なら、もう一回倒すまで!」
「それも無理ぃ。お前の技は全部見たわ。ロックオンして放つ直進する雷撃、直線状に落雷を発生させる攻撃、電球を数発連続で打ち出す攻撃、体の周囲に電気を放電する攻撃。全部電気だ。さっきは『こいつはとっておきを持っているかもしれない』という警戒心から早めにモグラを引っ込めたが……今回は戦闘不能になるまで戦わせるぜ」
「全部、見てたっていうの……!?」
「理解の基本は分解と消化。俺は消化酵素が多いほうでね」
デカモグラとスマイルが泥をぶつけ、雷撃を撃ち放ち、互いに取っ組み合い、バチバチに火花を散らす。
それに対し、必死に声をかけるゾーイと、一緒に戦う俺。
「スマイル!」
「勝敗の差は、俺とお前だよ、ゾーイ」
スマイルのHPゲージが0になり、その場に崩れ落ちた。
地面にお尻を打ちつけたゾーイは、半べそをかきながら。
「スマイル……」
と、彼に歩み寄ろうとする。
俺はその前に立ち塞がり、弓矢を引き絞った。
「射れば終わりだ。俺の勝ちだろ?」
「ま、待って……止めてよ……スマイルを、助けなきゃ……」
さて、終わったが、どうすりゃいいんだろうな。
なぁ、パル子。こっから何すればいい?
―――ジジ。
お、来た来た。
―――『歪んだ手記』。
パル子が宙に浮く。
『「塔」は経絡の上に立っている。これを完全に壊すことはすなわち、気の流れを断つこと。供給を断つのと同じである。供給がなくなれば緩やかに死滅するのみである。』
「それ、平気なん?」
『平気よ』
「あ、喋った。久し振り、パル子」
『久シ振リね』
「めっちゃ声かすれてる」
『わルいけど……時間がナイ。塔を破壊すルわ』
「えー、また時間ないのー?」
『逃げテ』
「おけ」
『あト……』
「何?」
『その子を大切にしてあげて』
ぶぶん、とパル子から、複数のコードが書き連ねられ、それがギチギチと蠢き、足元の地面に走っていく。
例えるなら、直角にしか動けない白金の芋虫が、地面の中を奥へ奥へと突き進むかのように、ひとつの本筋と、いくつもの分岐を残して地面から塔の内部へ浸食していく。
ずずん、と塔が大きく揺れた。
みしみし、と何か大きなものが軋む音が鳴り、埃が落ちてきた。
言われた通り逃げるか。
そう思い、端末を持った時、足元で腰を抜かしているゾーイと目が合った。
「……ちっ」
ずずん、とまた大きく揺れる。
足場が傾く。
時は一刻を争う。
出口は、多分また『長押し』で開けられる。
「来い!」
「ま、待……っ!」
ゾーイをお姫様抱っこみたいに持ち上げる。
所持重量上げといてよかった。すんなり持ち上がった。
「スマイル!」
ゾーイはスマイルを手持ちのスフィアに戻すと、それを、ギュッと胸にしまい込んだ。




