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水入り

おせち料理、もう作りたくない…。

 闇の中から不気味に輝く槍の穂先が昏倒したリョウに向けられる。

 ブラスターガイトは瞬時にリョウのもとに駆け寄り、槍の持ち主に後ろ蹴りを放った。


 からん。


 あまりの手応えの無さにブラスターガイトは違和感を覚える。それもそのはず彼が蹴ったのは生身の人間ではない、鎧で身を固めた骸骨の武者だった。

 ブラスターガイトが呆気に取られていると森の奥から次々と骸骨武者たちが姿を現す。しかも狙っているのはブラスターガイトではなく鑑与四郎と寒川リョウだった。


 「これは驚いた龍の泉から使者がやってくるとはな。ブラスターガイトとやら、この勝負は一先ずお預けだ。次は日時が揃った時に存分に殺し合おうではないか‼」


 鑑は頭上の蠅を追い払うかのように骸骨武者の姿をした鵺たちを倒している。ブラスターガイトは鏡を追うつもりだったが次から次へと森の奥から現れる骸骨武者の魔の手からリョウを放っておくわけにも行かずその場で戦う羽目になった。


 「お願いします。私の事は構わずにあの男を…鏡を追って下さい」


 地に伏し、涙を流しながらリョウは懇願する。だがブラスターガイトはフルフェイスのヘルメットを横に振りながら答えた。


 「その願いを聞くわけには行かないな。なぜならばブラスターガイトは正義のヒーローなのだから」


 目の前にいる少女の健康状態は決して良いとは言えず、さらに周囲には正体不明の怪物が出現している。”鵺使い”となって日の浅いブラスターガイトだが化け物たちがリョウを狙っている事は理解していた。

 

 (ああ、私の命など、もうどうでもいいのに…。父と兄が殺された時のように私という人間の弱さが辞退を悪くしている。一体、私は何なんだ…)


 ひたり、ひたり。


 地面を這うように進んで来る影の群れがあった。

 

 「スケルトンファイターの次はゾンビかよ…。なかなかバリエーション豊かだな」

 

 さらに骸骨武者だけではない見るからに不健康な青い肌をした半裸の人間までもが森の奥から次々と現れた。正体は地元の人間であるブラスターガイトは見覚えの無い化け物どもの行軍にいささかの違和感を覚えていた。


 (これは…どこか別の場所から持ち込まれた怪異ってヤツだな…。近所迷惑になるからすぐに倒してしまうのがベストだがこちらのお嬢さんが果たして言う事を聞いてくれるかどうか…)ブ


 ラスターガイトはもう地一度だけリョウの姿を振り返って見た。


 「お願いします。あの男、鑑与四郎を殺してください。あの男は私の両親と兄の仇なのです…」


 そう言い終わる前に糸が切れた操り人形のようにリョウは意識を失ってしまった。

 

 二人の緊迫している様子などお構いなしに死者然とした化け物どもの行進は続く。そして、彼らの先頭に立つ鎧姿の武者とブラスターガイトの目が合う 

 それは。殺意、というよりもある種の命令に従って動くだけの木偶。ブラスターガイトの持つ灼熱の正義の前では冷え切った敵意に微塵の恐怖も感じない。


 「生憎だな。鹿賀流空手は多対一にも対応しているんだ」


 ブラスターガイトは仮面の内側で不敵に笑い、武器を構える数十体の怪物どもの前に立った。正義の変身ヒーローになると誓ったあの日から悪から逃げるという選択肢を捨てた。

 前後左右、さらに上下にも気を配り敵の奇襲に備える。その問い、屍鬼たちの行軍が止まった。


 「?」


 ブオンッ‼

 

 上空からの太刀の一振り。ブラスターガイトは一歩、退いてこれをやり過ごしてから中段正拳突きを当てる。人型の怪物は横からひしゃげて塵芥と化した。


 「まずは一つ…」


 その場から半歩下がって動作の為の空間を確保しつつ、残心の構えを取る。祖父”鹿賀鉄人”曰く”不動は盤石の極致なり”だった。

 だが化け物どもが先鋒を失った事に動じるわけはなく再び歩みを進める。


 「気持ち悪い連中だな…。連帯感とか仲間意識とかないのかよ」


 ブラスターガイトが幼い頃より叩き込まれた鹿賀流空手とは一対多数との戦いも想定されて作られている。有象無象の群れなど恐れるに足らない。

 羽虫を追い払うように一つ、また一つと敵を倒していった。


 右の拳で骸骨の顎を砕き、同時に左の足で敵の足を踏み抜く。左右の敵を倒す時にはわざと時間を置いて配置を崩す。

 順列を乱された敵は思うように動けなくなり、お互いが邪魔になって数の有利が逆に仇となっていた。またブラスターガイトは敵の不意を衝いて攻撃を仕掛ける為に骸骨武者たちは反撃する事も敵わない。

 

 相手が隙間を作ろうとしている間にもブラスターガイトは彼らの眼下を潜って掬い突きを決めた。


 (敵は一定以上のダメージを受けると消滅する。間違いない、こいつらは野生の鵺だ)


 ブラスターガイトはつい先日に先達から教わった”鵺”に関する知識を思い出す。

 彼ら”鵺”と呼ばれる異界からの来訪者はこちら側の条理を正しく理解してはおらず、姿形を模倣しているだけである、と。その証拠とばかりに地面に転がる彼らの残骸は刀剣、鎧は生き物と静物の中間のような物ばかりだった。


 ぐしゃっ‼


 剣の柄と握り手が一体化した彼らの残骸をブラスターガイトは踏んで砕いた。


 「こちとら年がら年中、稽古ばっかしてるんだ。体力切れを待っているならお門違いもいいとろだぜ?」


 ブラスターガイトは息も乱さずに骸骨武者たちの奥に潜む者を睨みつける。兵をかき分けて現れたのは軍馬を駆る武者だった。否、骨だけになった馬に跨る鎧兜を身に着けた骸骨武者。

 他の骸骨武者とは違い、兜の奥に青白い光を煌々と輝かせる。右には二本、左には一本の腕がついている。さらに二本ある右腕で大槍を、左には太刀を持っていた。


 「槍と剣の二刀流ってか…。面白い、勝負してやる」


 ブラスターガイトは手を子招いて異形の騎馬武者を挑発した。


 ぶしゅるるるる…。


 骨だけになった軍馬が主の代わりに戦意を露わにしエ嘶くいた。


 カッ、カッ、カッ。


 軍馬は徐々に速度を上げてブラスターガイトに接近する。骸骨武者は馬上で大槍を頭上に掲げ、太刀を水平に構える。太刀を躱せば槍の餌食に、槍を防げば太刀で同を薙ぐ必殺の戦法だった。

 対してブラスターガイトは全神経を前方の敵の動向に集中する。


 カッ、カッ、カッ。


 かくして両者の距離は零となり最初にして最後の攻防が始まる。

 武者は大槍を振り回し、攻撃の機を気取らせないようにする。さらに太刀を低く構えて逆袈裟斬りを狙っていた。


 「ッ‼」


 まず軍馬が前足を上げて襲いかかってきた。


 ブラスターガイトはわずかに後退する。同時に武者の逆袈裟斬りが放たれる。


 「応ッッ‼‼」


 ブラスターガイトは左腕でこの一撃を受け止めた。意識を集中することにより硬度を増したブラスターガイトの手甲は太刀を武者の左腕ごとかき消した。鹿賀流の防御は時として武器よりも強靭な刃と為る。

 しかし武者は怯むどころか残った日本の右腕でさらに激しく大槍を振り回し、ブラスターガイトの胴を両断せんとした。

 ブラスターガイトは大きく息を吸って大槍の斬撃に備える。


 武者は躊躇いなく青嵐の如き一撃を放った。一方、ブラスターガイトは前面で両腕を交叉させて真っ向からこれを受けろめようとしていた。


 ガギィッ‼結


 果、ブラスターガイトの横を駆け抜けた武者の右腕は消失した。「


 流石に無傷というわけにはいかないか」攻


 撃を受けたブラスターガイトの両腕に亀裂が入っていた。


 カッ‼カッ‼カッ‼カッ‼


 骸骨武者は馬首を返して突進する。


 ブラスターガイトは腰に巻いてあるベルトのバックル部分に両手を添えた。


 「ライフストリーム・エンジン、起動…」


 渦巻きを模したベルトのバックルに青い光が灯る。光は静かに右足に移動した。

 ブラスターガイトは低い位置に構え、敵の到着を待つ格好となった、


 そして軍馬が間近に迫ったその時にブラスターガイトは上段廻し蹴りを放った。


 「ブラスターサイクロンキック…ってな」


 正しく竜巻の如き一撃が軍馬と武者を同時にかき消した。

 ブラスターガイトは地面要踵を打ちつけて足の具合を確かめる。打った時の衝撃の余波で僅かに足首が痛んだ。


 (この必殺技にはまだまだ改良の余地があるな…)


 必殺技の余韻に浸りながらブラスターガイトは笑った。首魁格の騎馬武者を失っても骸骨武者たちは消える様子はなく、ブラスターガイトの背後には名も知らぬ少女が倒れている。

 

 「やっぱ現実は甘くねえな…。もう一仕事しますか」


 そう言ってブラスターガイトは骨武者の群れの前に躍り出る。


 そして約一時間後、大地に立っていたのはブラスターガイトだった。


登場した化粧(モンスター的な物)


野伏のぶせり


古の戦場で朽ちた兵士の躯に”鵺”を憑依させた化生。一定のダメージを受けると消滅する。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一話目はシリアスで、柴田錬三郎の小説みたいな和製ハードボイルド路線なのかなあと思いきや。 二話目でなんだかいつものバトルものっぽくなってきた予感……からの、まえがきの「おせち料理、もう作り…
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