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助太刀

はい。ブレてきましたね。いつものふじわらしのぶでございます。

 闇の中、想念の世界で頭に白い鬣と日本の角を生やした大きな蛇が目を覚ました。仮の住まい「氷龍」とういう刀に入ってからちょくちょくと蛇は外界を覗いている。今まで出会った人間の中で特に寒川リョウはお気に入りで彼女が赤ん坊の頃からずっと見守っていたのだ。


 そのリョウが泣いている。…”蛇”もまた悲しい気持ちになっていた。


 (これは仮初の主の怒りと嘆きか…。おお、幼子のように泣いてくれるな。どうすれば泣き止んでくれるのだ?私が代わりに泣いてやればいいのか)


 「氷龍ひりゅう」は己の真の主人として認めたリョウの悲哀と憎悪に感化されて魔物だった頃に戻ろうとしていた。

 もしもこのまま「氷龍」が魔剣に堕ちてしまえばリョウは世界を滅ぼす魔人となっていたことだろう。それはリョウ自身も死んでしまった彼女の家族の望むところではない。

 それは運命の神の気まぐれか。リョウは思わぬところで救い出される事になった。

 

 「大事は無いか?」


 リョウの華奢な背中に向けて振り下ろされた炎の刃をくろがねの剛腕が弾き飛ばす。

 同時に鑑の腹を狙って前蹴りを放った。百戦錬磨の古兵の鑑与四郎といえどこの連撃には驚きを隠せない。打ち払われた太刀の代わりに隠し持っていた小刀を抜いて蹴りを受け止めた。


 「おのれ、蹴り当て身とは…‼合戦の作法も知らんのか、無頼が‼」


 鑑は闖入者に向って叱咤する。

 奇襲を許した事は己の責任だが、実戦で蹴り当て身を使うなど真剣勝負ではあり得ぬ事だった。


 「我こそは冷泉流、鑑与四郎。腕に覚えがあるならば名乗れ」


 小刀を着物の懐に収め、太刀の切っ先を向ける。

 先ほどまでリョウに向けられていた加虐の笑みはなりを潜め、鑑与四郎は厳めしい武人の本性を露わにすした。

 鑑はその者を敵として認めていたのだ。


 「俺は…無法と悪を許さぬ正義の戦士。ブラスターガイトだっ‼」


 戦国時代の武将を思わせる飾り付きの兜を模したフルフェイスのヘルメット。全身を隙間なく覆うプロテクター付きのスーツ。どう見ても日曜日の朝に放送している特撮ヒーローのそれだった。


 「ブラスターガイトだと?…それが貴様の名前か。なるほどな。それで流派は何だ。先ほどの、異のこなしからして無手勝流ではあるまい」


 鑑は突っ込みなしで話を進める。彼はテレビを観ない。携帯電話も使わない。故に突然目の前にニチアサのヒーローが現れても動じることは無かった。


 「実家いえで祖父さんから鹿賀流空手っていう格闘技を習ってるんだけど…知らないよね?」


 鹿賀流は一子相伝を歌って入るが今のところは家族以外に門下生はいないどマイナーな流派だった。


 「鹿賀…。”甲冑割り”の鹿賀鉄人門下か。くくっ…思わぬ大物がかかったな」


 ブラスターガイトは内心で舌打ちをする。彼の祖父”鹿賀鉄人”の数ある異名の知る者であれば手の内が知れている可能性がある。ブラスターガイトが祖父から武器を持った相手と素手で戦う術をある程度は学んでいたが通用するのは格下か、同程度の実力の持ち主くらいだ。


 「俺と戦うのは問題ないがこっちのお嬢さんは見逃してやれ」


 ブラスターガイトは地べたに倒れたままになっている寒川リョウを見る。

 先ほどから起き上がろうと懸命に試みているが体力気力共に尽き果てかけている為に倒れたままになっている。このまま放っておけば死んでもおかしくはないだろう。


 「断る。いや小娘の命など蚊ほどにも気にかけてはいないが…おれが弑逆するといえばお前は黙っていないのだろう?」


 鑑与四郎は底意地の悪そうな笑みを浮かべる。おおよそ武人としての名誉、誇りなどとうに捨てた戦いの愉悦にのみ興味を示す凶剣士の禍々しい貌だった。


 「吐いた唾、飲むんじゃねえぞ。人斬り包丁が…」


 ブラスターガイトは死地に入る覚悟で一歩進んだ。対して鑑は刃を鞘に納めて重心を下げる。


 「このおれが抜刀術に興じるとはな。そのまま間合いに入って来い。珍妙な装束ごと叩き切ってやろう」


 リョウは身を横たえながら固唾を飲んで両者の対峙を見守った。

 リョウと鏡の使う冷泉流に居合という発想はない。冷泉流では刀を鞘に納めた状態とは戦わないという意味であり、そこから繰り出す技も皆無である。


 「我が愛刀「火申かしん」は抜刀術を最も得意とする。小娘の命を救いたければ必殺の一撃を防いでみろ」


 「ハッ、今時居合剣法なんて珍しくもないぜ。負けた時の言いわけでも考えておけよ、爺さん」


 ブラスターガイトはさらに一歩、詰める。挑戦的な口調とは裏腹に心の内では薄氷を踏む思いだった。


 じりっ。


 鑑の猛禽類を思わせる狂猛な瞳が敵を見据える。


 じりりっ…。


 ブラスターガイトがさらに敵の懐に入る。両者の姿を見守る寒川リョウの汗が地面に落ちた…その時だった。


 「しゃああっ‼」


 居竦みの抜刀術から中段の構えに変えた鑑が獣のように叫んで斬りかかる。


 「疾ッ‼」


 疾風の横薙ぎを絶妙なタイミングで必殺の刺突に変化させる大技を皮一枚の差でゔブラスターガイトは奇襲を回避した。

 天祐か軍善の産物か本人にもわからない。だが凶剣士鑑与四郎は予想を超えた事態に満面の笑みを見せる。そしてその気の緩みを見逃すようなブラスターガイトではない、至近距離から刃の軌道に沿って剣を繰り出す。

 鑑与四郎は懐に忍ばせた小刀を閃かせブラスターガイトの喉元を狙う。武器の特性を生かす事が出来ない乱戦を制する交差法と手数の多さが冷泉流の奥義である。故に鑑は先手を取る事や下肢を攻撃する事を極端に嫌っているのだ、


 (約束組み手のような予め想定された状況でしか動けない。だからお前ら古流剣術はお座敷流って揶揄されるんだよ!)


 ブラスターガイトは鏡の利き手を抑え込み、横面に鉤突きをぶちかます。


 だが敵もさるもの、予備動作を必要としない手打ちの攻撃に自分から当りに行く事で家翼を分散させる。その際に頭突きを当て、視界を塞いだ。


 「爆ぜろ、火申ッ‼」


 鑑が命じると同時にブラスターガイトの顔面を爆発が襲う。鑑の使役する鵺「火申」は大掛かりな力を使う事は出来ないが嫌がらせ程度なら精神力を消耗せずとも使える。この応用性の高さを利用して鑑はブラスターガイトの比較的装甲が薄い腹部に向って斬撃を放つ。だがそれよりも早くブラスターガイトの連打が鏡の頭部に襲いかかる。

 鑑は小刀を我武者羅に振って追い返した。


 「小癪な」


 鑑はひねりのない捨て台詞に自己嫌悪を抱く。


 「自分から間合いを詰めてくれてありがとうよ。この距離なら俺の方が早い」


 先ほどの連打は鹿賀流の奥義の一つ、北神ほくしん。常に相手の先手を取る目視不可の打撃、威力は申しわけ程度にすぎないが敵の構えを解除する効用があった。


 「最初から焼き尽くすつもりで攻撃を仕掛けるべきだったか。口惜しや」


 鑑は小刀を懐に戻しながらブラスターガイトの顔を見る。刃がヘルメットを掠った箇所が焼け焦げていた。


 「人生なんてのはいつだって一期一会だ。今後このを追っかけないって約束するなら見逃してやってもいいぜ」


 言わずもがなmのハッタリである。


 「フッ、そういうわけにはいかん。おれと小娘の宿命因縁は誰にもどうしようもないものだ」


 わずか数合の出来事だったが鑑は窮地に追いやられる。鑑の吐く息にわずかな乱れが見られた。


 「俺も正義のヒーローの端くれだからな。手荒な真似はしたくない。だがそれもケースバイケースだ」


 この男の目は瘴気の人間の物ではない。他社を斬る事にのみ愉悦を覚える人斬りの目だ。そしておそらくは少女は復讐の為に剣を取ったのだろう。だからこそ正義のヒーローは無益な復讐の連鎖を止める為に戦わなければならない。例えこの手を血に染める事になっても…。


 「徒手だろうが、剣だろうが殺しの技に違いはない…。このおれを殺してその娘を守って見せろ」

 

 それは剣に憑りつかれた亡者の姿だった。ブラスターガイトもまた決戦の覚悟を決める。


 ぼぉぉぉぉ…。ぼぉぉぉ…。


 吹きすさぶ風の如き轟音がなる。


 「ッ⁉」


 猛獣の咆哮によく似た声。それを聞いた瞬間にかハミは舌打ち、ブラスターガイトは周囲を警戒する。「鵺使い」ならば誰でも知っている「夜明けを告げるトラツグミの声」即ち「鵺」の出現を知らせるものだった

祭器のステータス。


火申かしん】 


 攻撃力 C 防御力 E 素早さ B 魔力 C  総合力 C

    

【祭器の形状】 日本刀。本体は火を纏う猿。

   

   備考 … 鵺としても祭器としても決して高い能力を持っていないが鵺使いとの連携攻撃が本領。鑑与四郎とと共に数多の戦場を駆け抜けた。


氷得幽ひりゅう】 


 攻撃力 A 防御力 S 素早さ B 魔力 S+ 総合力 S

           

【祭器の形状】 … 日本刀。典型的な銀細工の装飾太刀。鞘だけでも強い。


 備考 … 平安時代、東北を席巻していた荒ぶる神。鵺使いの始祖「矢萩伊作」によって封神された。元から人間に使いこなせるような武器ではない。鵺には珍しく自我を有する。


【ブラスターガイト】 


 攻撃力 E 防御力 A 素早さ 無し 魔力 B 総合力 B


 祭器の形状 ???


 備考 正義のヒーロー。真名と性能は次回以降で。

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