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対話

 「あ、違った…。倒れたまま動かなくなっただけだぞ?脈も無かったような気がするがまあ武人同士の果たし合いだしのう。そういう事もあるある‼」


 鉄人は笑って誤魔化そうとしたが糟谷の末路を知ったシュザンヌと姫子は顔を青くしていた。


 「鉄男、この話を我々はどう受け止めればいいんだ?」


 シュザンヌは姫子を連れて鉄人から大きく距離を取っている。鉄男と鉄人は血縁関係がある以上、この対応は仕方がないのかもしれないがそれなりに傷ついた。


 「まあウチのジジイが本気を出したからには相手の糟谷さんってのは間違いなく殺人鬼の類だと思いますよ。犯罪歴を調べれば正当防衛も成立するするんじゃないかなと…」


 後半は自信が無いので小声になる。

 鉄男は自分で言っていても心苦しさを覚えていた。例え相手が武器を持ったやる気満々の殺人鬼でも、正当防衛だとしても殺人は許されるべき行為ではない。


 「うむ。言いわけをするわけではないが知り合いの警官の話では糟谷五郎丸には十数件の殺人の容疑がかかっておったな。どこかの与太者どもの用心棒をやっていたらしい。連れもおそらくはその類の人でなしどもだろうよ」


 鉄人はうんうんと頷く。

 鉄人の教え子には警察関係もいるので待ち伏せをしていた郎党の中で唯一名乗ってきた糟谷の氏素性は調べておいたのだ。立ち合いの後に旧縁の道場の知人たちにも声をかけている。

 人格破綻者として知られる鹿賀鉄人も逆恨みで身内を巻き込むのだけは御免被りたかったのだ。


 「話を少し続けるが糟谷が俺に敗れた後、糟谷の連れは殺気を露わにして襲いかかって来ようとしたがそれ以外の者たちは動こうとしなかった。一人が姿を消すと次いでまた一人、また一人と消えて行ったわけだがその中で一人だけ「まだ早い」と嘯いた男がおってな。虎のような獰猛さと狼のような奸智を備えた気配の持ち主だったのだが…どうだ、鉄男よ」


 鉄人の話を聞いた鉄男の脳裏には鵺”火申”を宿した愛刀を腰に差した鑑与四郎の姿が見えていた。

 それが戦う事を宿命づけられた鹿賀の血のなせる業か、強敵の影を前にして自然と口の端が歪んでしまう。


 「間違いない。多分それが正解だよ、祖父ちゃん」


 鑑との再戦を確信した鉄男の瞳に将星の輝きが宿っていた。そして他者を傷つける事を厭わないような凶漢に己の学んできた武辺の者が負けるわけがないという使命感が鉄男の心をさらに熱くする。

 この戦いは心身ともに傷ついた寒川リョウの為の戦いであり、同時に鉄男自身が掲げる正義の為の戦いともう一度魂に刻み込んだ。


 「お前への心配など杞憂にすぎんという事は十分にわかっておる。骨は拾ってやるから存分にぶちのめしてこい、馬鹿孫」


 鉄人は野性味のある笑みを浮かべながら鉄男の両肩を叩く。

 武道にけ決して向いているとは言えない資質しか持ち得ない鉄男に空手を教えたのは彼の持つ不動の心ゆえだった。そして鉄人はこうも告げる。


 「とりあえず遺言状も書いておけ。もしも鉄男が死んだ場合にはブラスターガイトの変身スーツはじっちゃんに譲ります、と」


 ブチッ‼


 祖父の空気を読まない言動&図々しい物言いに鉄男は0,1秒でぶち切れて即殴りかかった。

 その後、シュザンヌと姫子が止めに入るまで祖父と孫の殴り合いは続いたという…。


 「はあはあ‥。ところでこれからどうするつもりだ、鉄男。敵の居場所がわかっているなら乗り込んだ方が良いのではないか?」


 鉄人は炬燵に入りながら鉄男に問う。

 顔の各所には殴られた痕があったが特に気にする様子は無い。


 「まあ、それが出来たら一番いんだけど鏡の居場所はわからないんだ。頼みの綱は寒川さんか田丸さんなんだけどな」


 天戒衆の一員である田丸香津美を頼れば最悪リョウの氷龍を譲渡しなければならない。かと言ってリョウに直接聞けば自分も連れて行けと言ってきかないだろう。

 リョウが鑑と対峙した際に冷静でいてくれれば問題はないのだが保証は出来ない。


 「今は動きがあるまで待つしかないんだよな…」


 鉄男は妙案はないものかと首を捻る。だが学校では並以下の成績しか取れない鉄男の頭ではいくら考えても良い案は浮かばなかった。


 「やはりこういう時は現場百回…お前が鑑とやらと最初に戦った場所に行くしかないのではないか?」


 鉄人はどこから出したのかスルメの足を部屋の隅にある石油ストーブで炙りながら喋る。


 「…。…」


 もう空腹になってしまったのかどうかは定かではないが姫子とシュザンヌは何と無しに鉄人を見ていた。


 「イカゲソだけど食べる?」


 

 鉄人がそう聞くと姫子と珠算右派すぐに炙ったスルメの脚にかぶりついた。鉄人の分はもうない。


 「そうだ、こういうのはどうだ?せっかくタイプの違う綺麗ま女子が三人もいるのだからツイスターゲームなどに興じてみては。実はいつか母さん(鉄男の祖母の事)と一緒に遊ぼうと通販で買っておいたのだ」


 鉄人は炬燵から這出て丸められたツイスターゲームのセットを広げようとする。用意周到にもさいしぃから持ち込んでいたのだ。


 「ジジイッッ‼‼テメエェッッ‼‼」


 鉄男は祖父の相変わらずぶっ飛んだ発想を聞いて直ギレしてしまう。しかし実はやってみたいような気がしたのは終生の秘密だ。


 「鉄男…。エロスは悪ではない…。お前もな、あまり想像はしたくないが鉄也(鉄男の父、鉄人の息子)と朱美さん(鉄男の母親)がエロい事をしたからこうしてここにいるのだ。この機を逃せば死ぬまで女子とツイスターゲームをする好機など訪れんぞ?」


 鉄人は目を輝かせながら大マジで語っていた。


 「えーと…スーちゃん。ツイスターゲームって何?」


 姫子は唇に人差し指を当て真剣に考えている。

 鉄男の口からマットの上で男女がくんずほぐれつするいかがわしい遊びなどと当然言えない。


 「私が知るわけなかろう。おそらくは都会の遊びではないか?」


 姫子とシュザンヌはツイスターゲームが何であるか知らず悩んでいる。


 (鉄男、やっぱやめておくか…)


 (そうだね。お祖父ちゃん)


 あくまで真剣に悩む二人の姿を見た鉄男と鉄人は良心が痛んだ。


 「これを使うのはまたの機会はという事にして二人は今晩どうするつもりなのだ?」


 鉄人はマットをくるくると巻いている。鉄男は祖母に密告して焼却処分してもらおうと心に誓っていた。


 「どうするって旅館まで送って行くつもりだけど…」


 姫子たちが使っている宿泊先は天戒衆とも浅からぬ繋がりがあるので家にこのまま引き留めておくわけにもいかない。特に姫子は天戒衆において権力を持つ御三家の「森川家」の令嬢なのだ。

 仮に連絡が滞れば天戒衆から直接疑われる可能性もある。


 「私は…鉄男君の家で晩御飯をごちそうになりたいいなあ…」


 姫子はダイレクトに注文を付けてきた。シュザンヌも首を縦に振っている。


 「確かに…あのクソ不味いメシしか出て来ない宿に帰るのは御免だな。今後の士気も下がる一方だろう。それに寒川さんの警護を鉄男一人に任せるわけにも行くまい。何せ相手は年頃の娘さんだからな」


 二人はここ数日続いた旅館の食事に相当不満があったらしく梃子でも動かないといった様子である。


 「その…お二人の気持ちは嬉しいんですが天戒衆への定期連絡はいいんですか?」


 鉄男は念には念を入れて再確認の意味合いで尋ねる。

 彼女らの選択によってはリョウの持つ”氷龍”の文字通り逆鱗に触れかねない。先ほどのリョウとの会話の時も姫子たちと意見が食い違った際には氷龍が出張って気はしないかと内心、心配していたのである。


 「何だ、そんな事を心配していたのか。問題はない。我々の所在は旅館の従業員を通じて田丸さんに伝わっているハズだ。さあ、今日は寒川さんの為に頑張って警護をするぞ。なあ、ヒメ?」


 姫子は力強く首を縦に振る。

 あまりにも現金な先輩たちの姿を見た鉄男の不安は二割増しになった。


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