虎耳族のベンガル
ミーアと別れた後、僕達はアニム王国の王都ライオネルに向かった、途中、犬耳族の街と馬耳族の街を通過したが、さすがにこの辺りまで来ると人族の姿は見られない。だが、どの街にもいろんな種族の獣人族が住んでいる。ギルドで聞いたのだが、昔はそれぞれの村に他の種族はいなかったようだ。だが、先代の国王が改革を行ってからは、どの街にもいろんな種族の獣人達が混在するようになったようだ。
「なんか人が多くなってきたわね。」
「多分、王都が近いんだと思いますよ。」
「シン様。結構、武装している者達もいるようですが。」
「そうだね。もしかしたら、王都で何かあるのかもしれないよ。」
僕達が王都に入ると人で溢れていた。屋台も出てお祭りのような状態だ。
「この分だと宿屋は空いてないかもしれないな~。」
「いいじゃない。また、魔物の森の家に戻れば。」
「最悪そうするしかないかな。」
「そうですね。」
4人で街を散策していると、身体の大きな牛耳族が声をかけてきた。
「おい!そこのお前達!お前達は人族のようだが、王都に何の用で来たんだ?」
「観光ですけど。」
「ふざけるな!そんなことを信じるわけがないだろう!もしかして、武術大会に参加するつもりなのか?だとしたらやめておけ!下手をすればお前達など殺されてしまうからな。ハッハッハッ」
「いきましょ。シン君。」
「そうだね。」
すると、無視されたと思ったのか、牛耳族の男が僕の肩を掴んできた。条件反射なのか、僕は男の手を掴んで地面に投げ飛ばしてしまった。
グハッ
「あっ、すみません。つい条件反射で。」
立ち上がった男は、真っ赤な顔をして剣を抜いた。辺りには見物人が集まり、男を煽っている。
「やっちまえ!」
「やれー!やれー!」
こうなるともう男は引っ込みがつかない。
「どうしますか?シン様。私が相手をしましょうか?」
「いいや。僕の責任だからね。」
牛耳族の男が僕に斬りかかってきた。僕はそれを両手で受け止めた。所謂、真剣白刃取りだ。牛耳族の男は何とか剣を動かそうと必死だが剣はビクともしない。そして、相手から剣を奪い取り、その剣を牛耳族の男の顔の前に突きつけた。
パチパチパチ・・・
すると、見物人の中から拍手をしながら虎耳族の男が前に出た。
「見事だ!勝負あったな。」
「おい!あれってベンガルじゃないのか?」
「間違いないぜ!あれはベンガルだ!」
どうやら、喧嘩を止めた虎耳族の男はベンガルという名前のようだ。見物人達の様子から彼が有名なのはわかった。
「俺はベンガルだ。どうだ?そこでいっぱい奢るよ。ついてきてくれ。」
「僕達、まだ未成年なんですよ。」
「そうだったか。だが、果実水もあるから大丈夫だ。」
僕達は牛耳族の男性を残してベンガルの後について行った。大通りから少し入ったところに、あまり目立たない店があった。
「店主。彼らに果実水を出してくれ!俺はいつもの奴を頼む。」
「はいよ。」
店主は狼耳族の男性だった。
「お前達の名前を教えてくれるか?」
僕達はそれぞれ自己紹介をした。
「ところでシン達はどこからきたんだ?中央大陸からか?それとも西大陸からか?」
「中央多陸からですが。どうしてですか?」
「そうか。西大陸からでなければいい。あそこの国はどこも人族以外の権利を認めていないからな。」
「そうなんですか?」
「なんだ。シンは人族でありながらそんなことも知らないのか?」
「ええ、まあ。」
「おかしな奴だな。ところで、お主の先ほどの技はどこで習ったんだ?」
どこで習ったか聞かれても困ってしまう。別に僕は剣も刀も誰かに習ったことがないのだから。僕が困っていると隣に座っていたギンが言った。
「あなたに答える必要はないですよね。」
「まあ、そうだな。だが、あの技は俺が東大陸に行ったときに見たからな。もしかしたら東大陸の状況を知っているかと思ってな。」
「どんなことですか?」
「ああ、俺がいた時はジパン王国も平和だったんだがな。何やら最近内乱状態になっていると聞いてな。知り合いが無事かどうか心配だったもんでな。」
「知り合いって誰ですか?」
「ああ、タカモリという男なんだがな。俺は彼とともに刀を学んだんだ。」
ベンガルは背中から刀を抜いて見せてきた。かなり立派な刀だ。
「ベンガルさん。タカモリさんは元気ですよ。シズヒサ様もね。」
「それは本当か?」
「ええ。つい数か月前に内戦は終結しましたよ。どうやら、魔族が原因のようでしたけどね。」
「魔族が?」
「僕もよく知りませんが、数か月前にタカモリさんからそんな話を聞きましたよ。」
「そうか。なら、魔族は討伐されたんだな。」
「そうみたいですね。」
ベンガルは怪しんだ顔で話を聞いていた。何かを疑っている様子だ。
「良かった。タカモリが無事で。彼には返しきれないほどの恩があるからな。」
「もしかして、ベンガルさんは刀の修行で世界中を旅していたんですか?」
「いいや。世界中ではないさ。さすがに西大陸と魔大陸には行ってないからな。」
「先ほど牛耳族の男性が武術大会とか言っていましたが、ベンガルさんも出るんですよね?」
「まあな。シンは出ないのか?」
「先ほどの人にも言ったんですけど、僕達は観光に来ただけですから。」
「そうか。無理にはすすめないさ。この国の武術大会は、最悪死人が出るからな。」
すると、メアリーが聞いた。
「死人が出るって、誰も止めないんですか?」
「そうさ。戦闘不能になるか、場外に出されるか、もしくは負けを認めない限り死ぬまで続けるのさ。獣人族は誇り高い種族だからな。誰も負けを認めないんだ。」
「ばっかみたい!」
「こら!マギー!」
「だって、そうでしょ!今回は負けても、生きていれば次回に勝てるチャンスがあるのよ。死んだら負けたままお終いじゃないの!おかしいわよ!」
「お嬢ちゃんの言う通りだ。俺もそう思うよ。」
その後しばらく話をして、僕達は分かれた。




