人攫い討伐!
僕達は港町ヤオズで人攫いの仲間を捕まえ、ナダル伯爵に預けてきた。そして、その日は宿屋で泊まり、翌朝朝食を食べた後、全員で岬まで行った。周りに人がいないことを確認して、ギンが久しぶりにフェンリルの姿に戻った。以前体の大きさを調整できると言っていたが、非常に便利だ。2人が背中に乗っても十分な大きさだった。
「そういえば、ギンさんてフェンリル様だったんだよね。すごく奇麗だわ。」
「獣人族にとってはギンは神様のような存在にゃ!」
「やめてください。2人とも。私はギンですから。普通にしてくださいね。」
「わかったにゃ。」
そして、マギーは本来の姿に戻ろうと背中に翼を出した。本来は漆黒の翼のはずなのだが、色がくすんでいる。というよりも白くなりかけている。
「えっ?!マギーちゃんって人族じゃなかったの?」
メアリーもミーアも驚いた。どうやら説明する必要がありそうだ。
「マギーは魔族だよ。でも、心配しないで。マギーは堕天使族なんだ。不思議なんだけど、マギーが善行を施すと体が光って、魔族の魔力が薄くなっていくんだよ。」
「もしかしたら、マギーちゃんが天使族に変わるってこと?」
「その可能性は大きいと思うよ。」
すると、マギーが平らな胸を前に出して自慢げに言った。
「私、頑張るもん!絶対に天使族に戻るんだから!」
すると、メアリーがぼそっと気になることを言った。それにはみんなが反応する。
「そうなのね。そうなると、人族は私とシン君だけね。」
「どういう意味にゃ!メアリー!恋に種族は関係ないにゃ!」
「そうよ。ミーアの言うとおり!そうよね?シン!」
「まあまあ。そろそろ行くよ。」
僕は全員に透明化の魔法をかけた。
『トランスペアレント』
魔法を発動すると全員の姿が透明になった。僕達同士ではお互いが見えるが、周りからは見えない。
「不思議な魔法ね。」
「シンって意外にエッチだったりして。」
「どうしてだよ?マギー!」
「だってこんな魔法が使えるなら、私達のお風呂だって覗けるじゃない!」
「そんなことしないから!」
僕がみんなの顔を見ると何故かみんな赤くなっている。僕は無事みんなの誤解を解いて、小島に向かった。しばらく飛翔していると木々で覆われた小島が見えてきた。中心に少し開けた場所があり、建物がいくつも見える。
「どこに降りますか?シン様。」
「森の中がいいかな。」
「わかりました。」
僕達は浜辺に近い森の中に降りた。上空から見た時に大きな船が2隻見えたがそれとは逆の方向だ。
「やはりこちら側には見張りがいないようですね。」
「シン君。最初に攫われた子達の救出をしないと。」
「そうだね。でも、どこにいるのかな~。」
すると、ミーアが少し考え込んでいたが何やら思い出したようだ。
「建物の外は目隠しされていたからわからないにゃ!でも、匂いがしたにゃ!甘い果実の匂いだったにゃ!」
「なら、建物の周りを調べるしかないわね。ギンと私で調べるわ!」
「頼むよ。マギー。」
「任しといてよ!行こ!ギン!」
マギーとギンは子ども達がいる建物を調べに行った。残ったメアリーとミーアと僕は今後の作戦を考えた。最初に、人攫いに逃げられないように僕が周囲に結界を張る。それから、二手に分かれて片方が人攫いを討伐する。騒ぎになったところで、もう片方が子ども達を救出することにした。人攫いは捕まえるのでなく、殺すことも考えなくてはならない。すべてが終わったら、停泊している船に乗って子ども達と北大陸に戻る予定だ。
「シン!見つけたわよ。やっぱりギンの鼻は凄いわね。あっという間に探し当てるんだもん。」
「当然です!マギー!それより、あなたピンキーをいくつ食べたの?」
「だって美味しかったんだもん!」
なんか2人の行動が目に浮かんだ。ギンは匂いに敏感だ。恐らくピンキーの匂いをすぐにかぎつけ、そこでマギーが木に登ってピンキーを食べまくったのだろう。
僕達はギンとマギーに先ほどの作戦を話した。そして、いよいよ作戦を決行する時が来た。子ども達の救出にはメアリーとギンが向かう。
「行こうか?」
「はい。」
僕とミーアとマギーはギンとメアリーとは反対方向に歩き始めた。僕達が騒ぎを起こして、人攫い達の注意を引き付けている間に、ギンとメアリーが子ども達を救い出す段取りだ。
「多分、あの一番大きな建物に首領のイアールがいるはずだよ。他に4人幹部がいるみたいだから注意してね。行くよ!」
「うん。」
僕は背中のマサムネを抜いた。ミーアも腰の剣を抜いている。マギーは魔法を放つ準備をしていた。僕達3人は小さな屋敷から攻め込んだ。中には数十人が寛いでいたが、僕達が急襲したことで慌てて外に飛び出した。
「敵襲だ————!」
すると、それぞれの建物からぞくぞくと人攫いのメンバーが出てくる。一番大きな屋敷から魔力が少し高い人物や杖を持った女、ガタイの大きな男、頬に傷のある男性、そして闘気があふれ出している男性が出てきた。
「ミーア!マギー!こいつらは手加減いらないよ!」
「わかったわ。」
「了解にゃ!」
人数も多いが、結構強そうな者達もいる。下手に手加減してこちらに怪我人を出すわけにもいかない。僕はマサムネを片手に人攫い達に斬りかかった。数人を斬り倒したところで、僕の目の前にガタイの大きな男が立ち塞がった。
「少しはやるようだな。このセプト様が相手をしてやるよ。」
セプトは大きなガタイをしているくせに動きが速い。しかも手に何かをつけている。恐らく魔法道具だろう。セプトがパンチを繰り出してきた。僕が避けると後ろの壁に穴が開いた。
ドッドーン
「なかなかやるな。」
ここでマギーが魔法を放った。恐らく『シャドウアロー』だろう。僕達の周りのメンバー達が次々と倒れていく。ミーアもほほに傷のある男と剣を交えている。
「しょうがないな。少しだけ本気を出すよ。」
僕は魔力を開放した。銀髪が逆立ち青い瞳は黄金色へと変化していく。そして、全身から眩しい光が放たれた。
「き、貴様!何者だ?!」
「答える必要はないだろ!」
僕は瞬間移動でセプトの前に行った。セプトは僕が一瞬で間合いを詰めたことに驚いている。だが、もう遅い。僕はマサムネを一振りすると、セプトの身体が2つに分かれた。周りで見ていた幹部以外のメンバー達が逃げ出そうとしているが、逃げられない。僕の結界が邪魔しているからだ。
「マギー!やっちゃって!」
「了解!」
『シャドウサンダー』
上空に真っ黒な雲が立ち込める。その雲から真っ黒な稲妻が男達に襲い掛かる。
「ギャー」
「助け ギャー」
ミーアを見るとどうやら頬に傷のある男を打ち取ったようだ。残すは魔法使いの男と女、それに首領のイアールだけだ。
「そっちの魔法使いはミーアとマギーに任せたよ!」
「わかったわ!」
僕はイアールの前に出た。すると、イアールはいきなり僕に土下座してきた。
「俺が悪かった。お前達は役人か何かなんだろ?許してくれ!俺は逆らわないから!何もしないから!お願いだ!許してくれ!」
イアールは地面に頭をつけた。だが、彼の闘気は消えていない。僕の目からは明らかだ。すると、地面の中から手が出てきた。そして、僕の足を拘束した。
「馬鹿な奴だ!俺様がお前らごときに負けるわけがないだろうが!殺してやるわ!」
イアールは背中の大剣を抜いて僕に斬りかかってきた。僕はさらに魔力を開放する。すると、僕の足を掴んでいた手は散り散りになって消えた。そしてマサムネを上段から振り下ろした。目の前のイアールは体が左右2つに分かれてその場に倒れた。マギーとミーアを見てみると、すでに2人とも魔法使いを討伐して僕の戦いを見ていた様だ。
「2人とも早かったね。」
するとそこに子ども達を連れてギンとメアリーがやってきた。子ども達は僕の姿を見て何やら感動している様子だった。
「か、神様だ~!」
「神様が助けに来てくれたんだ~!」
「違うから。僕は普通に人族だから。」
するとメアリーがうっとりした目で言った。
「ダメよ。シン君。その神々しい姿を見ればみんな神様だと誤解するわよ。本当にきれいなんだもん。」
僕は慌てて魔力を戻して普段の姿になった。
「ギン。子ども達の中に怪我人や病人はいなかったかい?」
「はい。シン様。大丈夫でした。ですが、少し栄養が足りてないようです。」
「なら、船に行こうか。そこで、みんなの料理を作るよ。」
「やったー!シンの料理が食べられるー!」
「マギー!シン様はあなたのために作るわけじゃないからね!」
「いいじゃない。どうせ、シンのことだから私達の分も用意してくれるんだから。」
「そうね。シン君は優しいからね。」
ここでミーアが何やら考え込んでいた。
「どうしたんだ?ミーア。」
「私が攫われた時も、シン達がいてくれたらよかったにゃ!」
「ミーア。でも、あなたが攫われたからシン君と出会えたのよ。ある意味、運命だったんじゃないかな~。」
「そうにゃ!メアリーの言う通りにゃ!きっとシンとの出会いは運命にゃ!」
ミーアが僕に抱き着いてきた。その目には涙が溢れていた。ギンもマギーもメアリーも何も文句を言わない。




