シズヒサの館で対策会議
僕達は港町サカイを出た後、シズヒサの館にやってきた。そこで、シズヒサにかけられている魔法を解除したのだが、シズヒサ自身は何も覚えていなかった。そして、オダナガが攻め込んできていることを伝えると、対策会議を開くためにシズヒサの館の会議室に行くことになった。そこに、甲冑を着た兵士が慌てた様子でやってきた。
「オダナガ様の軍勢が引き返していきました。」
「何があったのだ?」
「ハッ。どうやらタケノブ様の軍勢がオダナガ様の領地に侵入したようでございます。」
「そうか。わかった。」
「シズヒサ様。どうなされますか?」
「タカモリ。そなたはどうしたらよいと思う?」
どうやら、僕の前に立ちはだかったガタイのいい兵士はタカモリという名前のようだ。
「ハッ。まずは王城に行って、国王陛下にすべての争いをやめるように命令していただきましょう。」
ギルマスのハンゾウが言った通り、フジナガという人物が宰相になってから戦が始まったのなら、フジナガという人物が魔族の可能性がある。だが、それ以外にも魔族が入り込んでいる可能性も否定できない。そうなると、シズヒサが王城に行くのはリスクが大きすぎる。
「シズヒサ様。ちょっといいですか?」
「シン殿、何かな?」
「国王陛下とフジナガという人物について教えていただけませんか?」
「よかろう。説明しよう。この国の国王は女王のヒメミヤ様だ。昨年、先代の国王陛下が急にお亡くなりになって即位なされたのだが、年齢がまだ12歳と幼いのだ。そこで、先代の国王陛下の側近だったフジナガが宰相になったのだ。」
「他に大領主達がいたのに、だれも反対しなかったのですか?」
「ああ、そうだ。フジナガは我々と違って領地を持っておらん。本来、宰相は大領主から選ばれるのが普通なのだが、先代の国王陛下の遺言書があったからな。誰も反論できなかったのだ。」
「そのフジナガという人物が魔族の可能性が高いですね。」
「魔族?」
「ええ、アルベル王国でもナルシア王国でも同じように政情が不安定だったんですが、どちらも魔族が関係していましたから。」
「そうだったのか。」
「フジナガが魔族であることはほぼ確定でしょうが、それだけではない気がします。」
「というと?」
「アルベル王国やナルシア王国の時よりも内乱の規模が大きいんですよ。」
「だとしたら、一体だれが?」
すると、タカモリが発言した。
「シズヒサ様。もしや、オダナガ様のところのサルとタケノブ様のところのヤマカンが怪しいのではないですか?」
「確かにな~。それならば、イマモト殿やトクヤス殿を滅ぼしたというのも納得できるな。」
すると、タカモリが僕に聞いてきた。
「シン殿。このジパンを魔族の手から解放する手段はないのですか?」
「あるさ。この国に害をもたらしているすべての魔族を討伐すれば済む話だよ。」
「そんなことが可能なんですか?魔族は最弱のものでも災害クラスですぞ!兵士達が束になってかかっても討伐できるかどうかわかりませんよ。」
ここでギンがタカモリに言った。
「シン様は1人で100人隊長を討伐しましたから、安心してください。」
「な、なんと!たった1人で魔族の100人隊長を討伐なさったのですか?」
すると、マギーも小さな胸を前に出して言った。
「シンは最強なのよ!」
ここで、何やら考え込んでいたシズヒサが聞いてきた。
「シン殿。魔族はなぜ内乱のような面倒なことをさせたのでしょうか?この国を亡ぼすなら、そんな面倒なことをせずとも彼らの力ならできるでしょうに。」
「最終的にはこの国を滅ぼそうとしているんだろうけど、彼らは力を望んでいるんですよ。」
「力ですか?」
「そうさ。戦争を起こさせれば、大勢の人々の心に悲しみや憎しみ、怒りの感情を生み出すことができるでしょ。彼らはその負のエネルギーを取り込んで力を蓄えているんだと思う。」
「そ、そんな!そんなことのためにこの国で戦争を起こさせていると。許せない!」
ギンとマギーの顔も怒っている。
「とりあえず、僕達がオダナガ様とタケノブ様の目を覚まさせるから、そしたらシズヒサ様は王城へ行くようにしてください。」
「わかった。よろしく頼む。」
すると、ギンが聞いてきた。
「モリナリ様はどうするんですか?」
「ああ、そうだったね。先にモリナリ様のところに行こうか。また、この領地に攻め込まれても困るもんね。」
「お願いします。シン殿。ギン殿。マギー殿。」
「任してよ!このマギーが何とかするからさ!」
ボコッ
「痛ッ!」
「あなただけでどうにかできないでしょ!」
「テヘ。そうだったね。」
僕達はモリナリの領地まで急いだ。シズヒサの計らいでシズヒサの領地はタカモリが同行してくれた。そのおかげで、兵士達がすんなり通してくれた。そして、モリナリの領地に入ると、いきなり警備が厳重になっていた。
「シン様。ここからモリナリの館までどうやって行くんですか?この警備を搔い潜って進むのはかなり厳しいですよ。」
「そうだよね~。」
するとマギーが言った。
「飛んでいけばいいじゃない。」
確かに魔族のマギーも僕も飛べる。ただ、ギンはフェンリルの姿の時は飛べるがどうなんだろうか?
「シン様。大丈夫です。私も進化していますから。飛べますよ。」
「そうなの?」
「はい。」
「いつからなの?」
「マギーと一緒に魔族に殺されて、生き返った時からです。」
「そうだったんだ~。」
「ええ、あの指輪は私の力を大幅に上昇させる効果があったようです。」
「なら、マギーもだよね?」
「う~ん。どうかな~?あまり実感がないんだけど。」
僕達は上空に舞い上がって、暗闇に紛れてモリナリの館まで飛翔して行くことにした。
「シン様。あそこのようです。」