港町マイアムシティー
僕達が王都カサンドラを出発してから何もなく、ワノミシティーで一泊して翌日の夕方には港町マイアムシティーに着いた。さすが港町だけのことはある。人がやたらと多い。潮風も心地いい。
「なんか潮の香りが気持ちいいですね。」
「そうだね。ギンもマギーも海は初めてじゃないんだろ?」
「あったり前じゃない!魔族の国は一つの大陸だから、四方が海に囲まれてるんだよ。」
「そうなんだ~。ところで、その大陸ってどこにあるんだ?」
「この大陸の南ね。」
「へ~。」
「シン様。このナルシア王国の北西にアルベル王国がありましたよね。魔大陸はそのアルベル王国の南西にあるんです。」
「そうか~。ギンは魔大陸に行ったことがあるんだよね?」
「はい。」
「なら、東の大陸にはジパン以外に国があるの?」
「私もよくわかりませんが、確か他の国もあったと思いますよ。」
「そうなの?」
「はい。」
なんか僕はワクワクしてきた。そして、街をぶらぶらしながら宿を探すことにした。
「シン!あの宿にしようよ。」
マギーが指さした先には幟が何本も立ててある宿屋があった。その幟には『海鮮料理食べ放題』と書いてあった。僕達が宿屋に入ると宿泊客で満室だった。仕方がないので、冒険者ギルドに行くことにした。
「あらっ、何か用かしら?」
「はい。東の大陸に行きたいんですけど、この街の宿屋を教えてください。」
「いいわよ。その前にカードを見せてくれる?」
僕達は冒険者カードを見せた。
「シン君にギンさんにマギーさんね。多分、この近くの宿屋はどこも満室だから、少し離れるけどいいかしら?」
「ええ、泊まれればいいですから。」
僕達はギルドに紹介された宿屋に向かった。見た目はかなり寂れた宿屋だった。
「ここみたいだね。」
「えっ———!料理、ちゃんと出るのよね~?」
「大丈夫じゃないかな。」
僕達が宿屋に入るとやはり他にお客はいなかった。お金を払っていつものように1部屋に泊まることにした。
「部屋の中はかなり広いですね。シン様。」
「そうだね。それにあそこ。」
部屋の中に浴室があった。中に入ってみると、どうやら魔石でお湯を出す仕組みのようだ。僕達が食堂に行くと、女将さんが料理を運んできてくれた。
「あの~、聞いていいですか?」
「何でしょうか?」
「その髪型って初めて見るんですけど。」
「ああ、この髪型はジパン独特だからね。」
「もしかして、ジパンの方ですか?」
「そうよ。主人と大陸を渡ってきたのよ。」
「すると、この料理もジパンの料理ですか?」
「そうね。ジパンの家庭料理だけど、お口に合えばいいんですけどね。」
料理を見るといろいろな種類の魚が生の切り身になっている。さらに、油でシュリップや魚をあげたものがあり、極めつけはジャガルと肉の煮物が出てきた。
「この生の魚はそのムラサキにつけて食べるのよ。こっちの油で揚げたテンプはこっちのつゆにつけてね。後、主食はこれよ。」
ライが茸と一緒になっていた。その容器からは途轍もなくいい香りがしてくる。僕達3人は料理を口に運んだ。
「美味しい!これ最高よ!」
「そうですね。シン様。どれも美味しいです。以前シン様が作ってくれた料理に味が似ています。」
「うん。なんか僕もものすごく懐かしい感じがするよ。本当に美味しいね。」
「シン!この宿、大正解だったね!」
マギーはかなり気に入ったようだ。そして、食事の後、僕達が部屋に行くとギンが言ってきた。
「お風呂の順番ですが、どうしますか?」
「ああ、ギンが先に入っていいよ。」
「なら、私もギンと一緒に入るわ。そうすれば時間が短縮できるでしょ!」
「別にゆっくり入っていいよ。僕は『クリーン』だけでもいいからさ。」
ギンとマギーが浴室に行った。僕はベッドに寝転んで今までのことを思い出していた。
“僕は気付いたら森の中に一人でいたんだよな~。この本のお陰で誰よりも魔法が使えるようになったけど。でも、僕の魔法は人族の範疇を越えてるよな~。それに、魔力を解放した時のあの感覚は何なんだろう。僕って本当に何者なんだ?”
なんか人と違いすぎることに不安を感じた。『この国を亡ぼすことができる』とか冗談で言った言葉が、今では本当にできてしまいそうで恐怖さえ感じている。それに、フェンリルは神に仕える神獣だ。どうしてギンが僕のもとに来たんだろう。偶然なのか?考えれば考えるほど謎が深まっていく。
「お先です。ありがとうございました。シン様。」
僕の目の前に銀髪で透き通るような白い肌をした美少女のギンがいた。思わず、ドキッとしてしまう。すると、その後ろからマギーがやってきた。
「あ~あ。髪を乾かすのって面倒なのよね~。」
なんかギンを見ているとマギーが子どもっぽく感じてしまう。可愛い妹のようだ。僕も風呂に入って3人でゆっくり寝た。そして、朝食を取りに食堂に行くと魚の焼けるいい匂いがしてきた。
「おはようございます。昨日はゆっくり休めましたか?」
「はい。ありがとうございます。色々旅していますが、部屋にお風呂のある宿は初めてです。」
「そうなのね。ジパンでは普通なんだけどね。朝ごはんが出来てるから座ってね。」
「はい。」
料理が運ばれてきた。珍しいものばかりだ。マギーが女将さんに聞いた。
「この黒いのは何?」
「これはノリよ。海藻を乾かして作るのよ。そのムラサキにつけて食べるのよ。」
「ならこっちの茶色の汁は?」
「ああ、ミソスープよ。昨日食べたライからできてるのよ。ノリもミソスープもジパンの郷土料理ね。」
「シン様。この料理、知ってましたか?」
ギンに言われて思い出してみた。すると、あの夢で見た記憶が蘇ってくる。大人の男性と女性、それに小さな女の子と僕がテーブルに並んだ料理を食べている。そこに、ノリとミソスープがあった。
「なんか僕の夢にも同じものが出てきたよ。」
「なら、やっぱりシン様はジパンにいたのかもしれませんね。」
「へ~。シンってジパン出身だったんだ~。」
「分からないんだ。気付いたら森にいたから。それまでの記憶がないんだよ。」
「そうだったのね。シンもギンも自分のことを何も言わないから知らなかったわよ。」
「マギー、あなたもでしょ!」
僕達は料理をおいしくいただいて港まで行った。