謎の男キッド
僕達は再び歩き始めた。どれくらい歩いただろうか。夕方には次の街ボルトンシティーに着いた。王都カサンドラの手前の街ということもあり、かなり賑やかだった。街には温泉の街ワサイシティーにこれから向かう者、逆にワサイシティーから王都に帰るものが集まっているようだ。
「シン様。どうしますか?」
「そうだね。まずは宿を確保しようか?」
「空いてないんじゃないの?そしたら野宿ね。私は慣れてるから大丈夫よ。」
ギンはマギーを無視して僕に提案してきた。
「シン様。冒険者ギルドに行って聞いてみましょう。」
「そうしようか。」
「なら、私が冒険者ギルドまで案内するわ。」
「頼むよ。」
僕達が冒険者ギルドに向かうと、ギルドの前に人だかりができていた。
「なんだろうね?」
「私が見てくる。」
マギーがつかつかと見に行った。そして、すぐに帰ってきた。
「喧嘩みたい。なんか冒険者同士で殴り合ってるよ。」
「どうしますか?シン様。」
「ちょっと見てみようか?」
僕達が喧嘩を見に行くと、喧嘩がエスカレートしたらしく片方の男が剣を抜いた。このままだと殺し合いになってしまう。僕が止めに入ろうとした時に、一人の男性が止めに入った。
「おい!喧嘩はやめろ!ここは大通りなんだぞ!」
「こいつが先に喧嘩を売ってきたんだ!」
「お前が愚図だからだろ!」
「俺のどこが愚図なんだ?」
「お前のせいで大物のキングベアを逃がしちまったんじゃねぇか!」
「ふざけるな!あのままだったら全員殺されていただろうが。」
なんか同じパーティーメンバーの内輪もめのようだ。すると、仲裁に入った男が2人に言った。
「キングベアが欲しかったのか?なら、これをやるからギルドにもって行け!」
男は魔法袋からキングベアの亡骸を出した。すると、喧嘩をしていた男達だけでなく周りの見物人達も声をあげて驚いた。
「キングベアだぞ!あいつが一人で討伐したのか?」
「そうだろうな。多分、あの袋は魔法袋なんだろ?相当な実力者だと思うぜ!」
「ああ、間違いねぇな。でも、どこの冒険者だ?この街じゃ見たことないぜ!」
「ああ、そうだな。」
どうやら、キングベアを倒した冒険者はこの街の人間ではなさそうだ。だが、それなりの実力があるのだろう。僕達は喧嘩がおさまったのを確認して、ギルドに入って行った。
「すみません。聞きたいことがあるんですけど。」
「何かしら?」
「この街の宿屋で空いていそうなところを紹介して欲しいんですけど。」
「そうね~。空いていそうな宿屋ね~。」
すると、後ろから先ほどの冒険者が声をかけてきた。
「君達、宿屋を探してるのかい?なら、俺が泊まっている宿屋がいいぜ。まだ、部屋が空いてるみたいだったから。」
「本当ですか?」
「ああ、本当さ。ついておいでよ。」
「はい。」
僕達は冒険者の男について行くことにした。お互いに歩きながら自己紹介をした。冒険者の男性はキッドと名乗った。Sランクの冒険者のようだ。僕達は全員がDランクということにしてある。
「それにしても羨ましいな~。」
「何がですか?」
「だって、こんなかわいい女の子達と一緒に旅してるんだろ?」
すると、マギーが言った。
「あなた見る目あるわね。でも、あなたも中々のものよ。」
「お褒めいただいてありがとう。でも、僕は女の子にもてないからね。ハッハッハッ」
その後、キッドに紹介された宿に到着し、部屋に行った僕達は部屋の中で話をしていた。
「あのキッドという男、なんか怪しいんですが。」
「そうだね。キッドって名前も偽名だしね。」
「そうなの?」
「ああ、間違いないよ。」
「そうか~。シンは魔眼が使えるんだものね。でも、一体何者なのよ。」
「彼からは邪悪なものは感じないよ。」
「そうですね。私もシン様と同じ意見です。」
「どういうことなの?」
「私達を狙っている魔族じゃないってことよ。」
「ああ、そういうことね。」
僕達は1階の食堂に行った。すると、そこにキッドがいた。
「この宿はボア定食がおすすめだよ。」
「そうなんですか?なら、僕達はそのボア定食にします。」
「そうかい。なら、女将さん。ボア定食を4つね。」
「はいよ。」
食事が運ばれてくる間に、キッドが話を始めた。
「君達はどこまで行くんだい?」
「僕は王都カサンドラに行くんだけど。」
すると、マギーが答えた。
「私達もだよ。」
「そうかい。なら、一緒に行かないかい。旅は道連れっていうしね。」
「別にいいですけど。」
「良かったよ。一人旅は寂しくてね。ハッハッハッ」
部屋に戻った後で再びキッドについて話をした。
「もしかしたらキッドはどこかの貴族かもしれないね。」
「どうしてですか?」
「彼の剣の持ち手の部分にドラゴンと剣の紋章が刻まれていたからね。」
すると、マギーが首を捻って考え込んでいる。
「ドラゴンと剣?どこかで見たことがあるようなないような。ん~。思いだせないな~。」
そして、僕達は寝ることにした。ギンもマギーも疲れていたのか、横になった瞬間に寝息が聞こえてきた。僕はなかなか寝付けなかった。
“サワイシティーのあの老婆って何者なんだろう?なんか懐かしい匂いがしたんだよな~。”
知らないうちに僕も寝てしまったようだ。朝方、息苦しさで目を覚ますとギンが僕に抱き着いている。しかも、マギーの足が僕の腹にのっていたのだ。
 




