サワイシティに到着
その後、僕達はのんびりとワサイシティーに向かった。道端を流れる川から湯気があがっている。どうやら、温泉が近いようだ。川を覗き込むとまるで熱帯魚のようなカラフルな魚が沢山いた。
「シン様。おいしそうな魚が沢山泳いでいますよ。」
すると、マギーが教えてくれた。
「その魚は毒があるから食べちゃだめよ!」
「そうなの?」
「私みたいに美しいものには毒があるのよ。」
僕はマギーを頭のてっぺんから足の先をじっくりと見た。
「なによ!シン!あなた、なんか言いたいことでもあるの?」
「別にないけど、確かにマギーはかわいいと思うけどまだ子どもだよね。」
マギーは真っ赤な顔をして胸を隠した。
「馬鹿言ってんじゃないわよ!今はまだ成長中なんだから!」
「そういうことにしておこうか。ハッハッハッ」
マギーがプンプンしながらどんどんと先を歩いていく。すると、ギンが僕の手を握ってきた。今まではマギーがいたせいで遠慮していた様だ。
「あっ!ずる~い!ギン!あなた何をいちゃついてるのよ!」
「別にいちゃついてないわよ。私は昔からシン様とこうして歩いていたんだから。」
するとマギーがギンと反対側に走ってきた。そして僕の手を握った。
「私もシンと手をつなぐわよ!一人だけ仲間外れは嫌だからね!」
なんか子どもっぽく感じるマギーが可愛く思えた。そんなことをしていると街に到着したようだ。街の中では側溝からも湯気があがっている。そして、何やら卵が腐ったようなにおいが立ち込めていた。
「シン様。この臭い、鼻につきますね?」
「なれるしかないよ。」
僕達が街をぶらぶらとお歩いているといろんな人が話しかけてくる。宿の呼び込みのようだ。
「兄さん。どうだい?うちの宿は料理がうまいよ。」
「うちの方が安くて料理も多いよ。うちにおいでよ。」
結構うるさい。そんな風に感じているとギンが男達に言った。
「宿は自分達で決めますから。」
男達が立ち去った後、そのまま街をぶらぶらと歩き始めた。
「マギーは以前に来た時にはどこの宿に泊まったんだ?」
「私は宿になんか泊らないもん。」
「マギー。違うでしょ!お金がなくて泊まれなかったんでしょ!」
「そ、そうよ!悪い!」
街の中を流れる川のほとりを歩いていると少し古いが宿屋があった。看板に『旅人の宿』と書かれていた。あまり賑わってはいないようだが、なぜか心惹かれるものがあった。
「ここに泊まろうか?」
「えっ?!ここに?」
「どうしたの?マギー。」
「だって、他にお客がいそうもないじゃない。料理とか美味しいのかな~?何か心配なんだけど。」
「マギーは食欲旺盛ですね。私はシン様と一緒ならどこでも構いませんよ。」
「いいわよ!ここでいいわよ!」
僕達が宿屋に入るとやはり静かだ。他のお客はいないようだ。中から細身の女性が出てきた。
「いらっしゃいませ。3名様ですね。お部屋はどうなさいますか?」
「2部屋でお願いします。」
僕が答えるとすぐにマギーが言い返した。
「一部屋で結構です。」
「マギー!あなたの部屋はどうするのよ!」
「3人で泊まればいいじゃない!」
ギンが僕を見た。
「いいよ。ギン。3人で泊まろうか。」
「はい。シン様がよろしいのであれば。」
僕は3泊分のお金を払った。そして、案内された部屋に行ってみるとすごく広かった。ただ、気になるのはベッドが一つしかなかったのだ。
“シン様。良かったんですか?”
“前も言ったけど、マギーは何かを怖がっているんだ。もしかしたら、僕達のように命を狙われているのかもしれないね。”
“なるほど、それなら納得できます。ですが、ベッドが一つでは困りませんか?”
“大丈夫だよ。僕が一番端に寝て、隣にギンが寝てくれればいいんだから。”
“は、はい!喜んで!”
なんかギンが喜んでいる。
「宿もとったことだし、夕食の時間まで街でも散策しようか?」
「はい。」
僕達は街の中心に向かった。大道芸人はいないが、お土産の露店や屋台が沢山出ている。そして、魔道具屋の露店まであった。かなり高齢の老婆がやっているようだった。気になったので声をかけてみた。
「すみません。見せてもらってもいいですか?」
「いいよ。自由に見ておくれ。」
指輪、ブレスレット、ネックレスが中心だ。どれも魔力を感じる。恐らく魔法が付与してあるのだろう。その中に、気になるものがあった。十字の形をしたものがデザインされた指輪だ。しかも、偶然なのか3つがセットになっていた。
「あの~。これって?」
「お兄さん。お目が高いね。これはミスリル製の指輪さね。特別な魔法が付与してあるんだよ。どうだい?買わないかい?そっちのお嬢さん達にもプレゼントしたらどうだい?」
「特別な魔法って何ですか?」
すると、老婆がニコッとしながら言った。
「その時が来ればわかるさね。」
何か老婆からとてつもなく神聖なものが感じられた。僕は迷わず購入した。
「なら、これはギンね。こっちはマギーに。」
「シン!指輪をプレゼントするときははめて渡すのが常識よ!」
「マギー!いいじゃない!素直に受け取りなさいよ!」
仕方がないので僕は2人の指に指輪をはめてあげた。そして、自分の指輪もはめて再び歩き始めた。ふと後ろを振り向くと、さっきまでそこにあった老婆の店がない。
「えっ?!」
「どうしたんですか?シン様。」
「ないんだけど。たった今指輪を買った露店が。」
「本当ですね。」
3人は呆気に取られてその場でしばらく茫然としていた。