シン、大道芸人に命を狙われる!
僕達はベラミックシティーで魔族の少女マギーと会った。僕達が魔族を倒したことを知っていたらしく、一緒に旅をしたいと言ってきた。何か事情がありそうだったので、ともに旅をすることにした。現在は3人で街を散策している。マギーはどう見ても人族だ。まさかマギーが魔族だとは誰も気が付かない。街を歩いてみても何の問題もなかった。すると、マギーが屋台を指さして言ってきた。
「あそこの肉串は、ホーンラビットじゃなくてレッドボアを使ってるから美味しいわよ。」
僕はマギーに言われた通り屋台に行って肉串を3本買った。
「はい。これ!」
「ありがとう。」
するとギンがマギーに言った。
「マギーはこれが目的だったんでしょ?」
「なんのこと?」
「自分が食べたかったから紹介したんでしょ。」
「やっぱりわかっちゃった?」
マギーは三角帽子を深くかぶって誤魔化した。その後も僕達は街を歩いた。すると、大道芸人が前方の女性に向かってナイフを投げていた。見物人達は冷や冷やしながら見ている。
「あんな子どもだましで喜ぶなんて、人族っておかしいよね。」
「魔族の国にはああいう大道芸人はいないのか?」
「いるわけがないでしょ!私の国は強さが絶対なのよ。あんな事したら、本当の殺し合いになるわよ。」
「そうなのか~。」
「僕は魔族のことをよく知らないんだよ。」
「そうよね。あまり人族には知られてないもんね。一概に魔族って言っても色々いるのよ。」
「教えてくれるかい?」
「いいわよ。最初はエルフと同じように妖精族から進化した連中ね。ダークエルフ族とかトロール族がそうよ。魔物が魔素を大量に取り入れて進化した種族もいるわね。アラクネ族がそうね。それ以外にも、天使族から進化した堕天使族もいるわね。最悪なのは悪魔族よ。あいつらは私達にとっても天敵のような奴らだわ。」
「ところで、マギーの種族は何なんだ?」
「私は堕天使族よ。始祖の天使が罪を犯して天界から追放されたのよ。」
すると、ギンが言ってきた。
「他にもいますよね?バンパイア族とか。」
「そうね。私も全部は知らないわ。とにかく魔族は種類が多いのよ。だからだと思う。強さを求めるのは。自分達こそ最強だって証明したいんでしょ。くだらないわ。」
「ギンの母親が戦った魔族は何族なんだ?」
「悪魔族です。あいつらはずる賢い種族ですから。」
「因みに僕が倒した魔族は何族なの?」
「ああ、ジニートね。あいつは、確か~、悪魔族だと思ったわ。」
「そうなんだ~。なんか大したことなかったけどね。」
「当たり前じゃない。あいつは末端も末端よ。最弱なんだから。」
「そ~なんだ~!」
「でも、私とはいい勝負だったかもね。」
マギーは謙遜しているのか本気なのかよくわからない。僕達は街を散策しながら、いろいろな大道芸人の芸を見て歩いた。口から炎を噴き出す者。鉄の剣を丸ごと飲み込む者。火のついた輪を何個も持ってジャグリングする者。いろんな人達がいた。
「おい、君!あの女性の代わりに頭にアプルを乗せる勇気はあるかい?」
弓矢を持った男が話しかけてきた。周りには観客が集まっている。
「遠慮しておきますよ。」
「怖いのかい?大丈夫さ。僕がミスを犯すことはないからね。」
「どうして僕なんですか?」
「君の顔が素敵だからに決まってるじゃないか!ほら、観客の女性達も君に夢中になってるだろ!」
確かに女性達が僕を見ている。
「わかりました。なら、1回だけですよ。」
僕は頭にアプルを乗せて大きな木の前に立った。そして、男が弓を放つ。周りの女性達からは黄色い声や悲鳴が聞こえてきた。アプルに飛んでいくべき矢が僕の顔めがけて飛んできた。僕は矢に向かって息を吹きかけた。すると、矢は僕の頭の上のアプルに刺さった。観客達からは盛大な拍手が起こった。だが、矢を放った男は慌ててその場から逃げ出した。
「ギン!」
「はい。任せてください。」
観客達が散り散りになった後、ギンが男を捕まえてきた。僕達は男を連れて建物の陰に行った。
「どういうことか説明してもらいましょうか?」
「お、お、俺は何も知らないんだ!ただ、あんたを殺せば金をやるって言われただけなんだ。」
ギンが興奮している。僕の命を狙ったことが許せないのだろう。
「誰に指示されたの?」
「そ、れは」
グハッ
男が何かを言いかけた瞬間に突然血を吐いて死んでしまった。するとマギーがぽつりと言った。
「魔族よ!この手口は魔族のやり方よ!きっと魔族に命令されたんだわ!」
「魔族に?」
「そうよ。こいつは白状しようとしたら死ぬように暗示をかけられていたのよ!悪魔族のやりそうなことだわ。」
「なら、近くに悪魔族がいるかもしれないってことだね。」
「それはないわね。悪魔族は転移魔法が使えるから、もうこの街から離れてると思うわ。恐らく、シンに恐怖心を与えながらジワジワと殺すつもりなのよ。」
なんか隣にいるギンの顔が怖い。僕にとっては、悪魔族より切れたギンの方がよほど怖いと思う。
そんなことがあって、翌朝、僕達は王都カサンドラに向けて出発した。しばらく歩いているとマギーが言ってきた。
「このまま行くと次はサワイシティーね。」
「どんな街なの?」
「温泉の街よ。」
するとギンが思いっきり喜んだ。
「マギー!間違いないんでしょうね?」
「間違いないわよ。だって、ここに来る時に寄ったもん。」
「シン様。しばらくサワイシティーに滞在しませんか?ここしばらく頑張りすぎていますから、少し休まれた方がいいと思います。」
なんかギンが必死だ。よほど温泉に入りたいのだろう。
「いいよ。なら、3日ぐらい滞在しようか。」
「ありがとうございます。シン様。」
すると、マギーが聞いてきた。
「お互いに詮索はしないほうがいいと思うけど、どうして『様』なのよ?」
「別にいいじゃない。私にとってシン様は特別なんだから。」
「まっ、私には関係ないからいいけどね。」




