新たな旅へ
いよいよ学年別対抗戦の決勝戦という時に、ワイバーンを引き連れた魔族が襲ってきた。僕とギンは、王都に被害を出さないように10匹いるワイバーンの討伐に向かった。すると、僕とギンがいなくなったことを確認して、魔族は闘技場に舞い降りた。闘技場の人々を人質にするつもりのようだ。だが、魔族に抵抗しようと各学年の代表者達が前に出た。ただ、前に出たのは3大公爵家の子息とケント、メアリー、ミーアだけだ。他の生徒達は腰が抜けて動けない。中には失禁しているものもいた。ここでジャックが魔族に言った。
「誰が人質になんかなるもんか!お前なんか俺達だけで十分だ!」
「フン!ゴミ虫はゴミ虫なりに静かにしておけ!」
魔族が手を振ると目に見えない刃がジャックの右足を切断した。
「ギャー」
「馬鹿め!これは遊びじゃないんだよ!どうした?お前達は相手をしてくれないのか?」
魔族がステラやランボ、メアリー、ミーア、ケントを睨みつけた。すると、ステラが前に出て言った。
「あなた達魔族にこの国を好きなようにはさせないわ!」
ステラが魔族に魔法で攻撃を仕掛ける。それに続いて、他の生徒達も魔法で攻撃を仕掛けた。ステラとミーアは風魔法を放ち、ランボとメアリーが火魔法を放った。4人の魔法が合わさってかなりの威力だ。
「フン!こんな子供だましの魔法が効くわけがないだろう!」
魔族は背中の翼で体を覆った。すると、魔法は翼にはじかれ消えてしまった。
「そ、そんな~。」
すると、魔族の後ろに回っていたケントが剣で攻撃を仕掛け、前からはランボは得意の槍で攻撃した。だが、魔族の手から伸びた長い爪でことごとくはじかれた。
「お遊びはおしまいか?なら、こっちから行くぞ!」
魔族が翼をはためかせると、黒い靄が現れて蝙蝠へと変化した。蝙蝠達がその場にいた生徒達に襲い掛かる。
「気を付けて!みんな!この蝙蝠はただの蝙蝠じゃないわ!翼が刃物になってるわよ!」
ミーアもメアリーも剣で蝙蝠を叩き落していくが、徐々に全員の身体から血が流れ始めた。そして、ランボもステラも立っているのがやっとの状態になっている。
「このままじゃまずいわ!ミーア!」
「わかってるにゃ!でも、どうにもできないにゃ!」
「なら、俺が剣で攻撃するから、ミーアとメアリーは魔法で援護してくれ!」
「ダメよ!ケント!あなただけじゃ無理よ!」
ケントはメアリーの言葉を無視して、魔族に斬りかかった。メアリーとミーアが魔法を発動する。メアリーが青白い炎のファイアアローを発動し、ミーアはトルネードカッターで攻撃した。
「ズバズバズバーン」
だが、魔族は無傷だ。
「お前達の攻撃はその程度か?つまらん。もっと俺を楽しませろ!」
魔族の両手には長く鋭い爪がある。魔族の姿が消えたと思った瞬間、生徒達の悲鳴が響き渡った。
「ギャー」
「グァー」
ステラは右手を切断され、ケントもランボもミーアもメアリーも体の一部を切り落とされていた。
「つまらん!他にはいないのか!なら、これだけ人質がいるんだ!こいつらは見せしめに殺してやろう。」
メアリーもミーアもケントも、公爵家の3人もすでに戦う気力はない。観客席にいる誰もが、魔族に嬲り殺しにされるだろうと思った。すると、観客席の最上階にいたエドモント国王が魔族に大声で叫んだ。
「待てー!待ってくれ!私はこの国の国王エドモントだ。待ってくれ!」
「そうか。この場に国王がいたか。それは都合がいい。それで、どうするんだ?降伏してわれら魔族に従うのか?それとも、目の前でこいつらがなぶり殺しにされるのを見たいか?」
その頃、僕とギンはワイバーンの最後の一体にとどめを刺していた。
「ギン。転移するぞ!」
「はい!」
僕とギンが闘技場に転移すると、闘技場では体の一部を失い、血だらけで倒れている生徒達がいた。そして、右手を失い倒れているメアリー、左足を失って倒れているミーアの姿が目に入った。
「お前の仕業か?」
「意外と早かったな!ワイバーンどもはどうしたんだ?」
「お前の仕業かと聞いたんだ!」
「だったらどうするつもりだ!」
僕の怒りが全身に駆け巡る。全身から溢れ出ている光がさらに眩しさを増していく。逆立った銀髪の髪は真っ赤に染まり、そして、青色の瞳が黄金色に変化した。
「貴様は許さん!死ぬがいい。」
「ふざけたことを!貴様が何者であろうと、この俺様には勝てんさ!」
魔族の身体から真っ黒のオーラがあふれ出て、そのオーラが黒色のドラゴンへと変化した。
「ダークドラゴンよ!行け!あいつを殺せ!」
黒色のドラゴンが僕に襲い掛かる。だが、横から巨大化したギンが漆黒のドラゴンに噛みついた。漆黒のドラゴンは暴れるが身動き取れない。
「な、なんだと~!どうしてここにフェンリルがいるんだ?だとしたら、お前は何者だ?!」
「そんなことはいい。お前は罪を犯した。罪を悔いて死ぬがいい。」
『シャイニングドラゴン』
僕の身体から放たれている光が巨大な竜へと変化した。光の竜は体をくねらせて魔族に襲い掛かる。魔族は黒い翼を眉のようにして身を守ろうとする。だが、その黒い眉ごと嚙み砕いた。
「ギャー」
魔族は地面に落下して転げまわっている。
『ピュリフィケーション』
僕の右手から出た光が魔族の体を包んでいく。そして、魔族の身体がだんだんと薄くなっていく。魔族は全く身動きできない。
「お、おのれー!だが、覚えておくがいい。俺が殺された以上、俺よりも強い者達がお前達を狙ってやってくるからな!お前達には逃げ場はないぞ!」
魔族は完全に消えた。そして僕は地面に倒れている仲間達全員に魔法を発動する。
『オールリカバリー』
すると、黒い雲に覆われていた空が晴れ渡っていく。そして、空から眩しい光が差し込んできた。すでに上空の黒い雲はない。その光がどんどんと強くなっていき、奇跡が起きた。
「な、治ってる!私の手が治ってる!」
「俺の足もだ!」
「俺もだ!」
「奇跡だ!」
観客席も試合会場にいる生徒達も全員が歓声を上げた。
「オオオオ—————!!!」
「バンザーイ!!!」
すると、学園長と国王夫妻が僕とギンの前までやってきて片膝をついた。それを見て、生徒達も一斉に僕に片膝をついた。
「あなた様のおかげでこの国は救われました。感謝申し上げます。」
「国王陛下。皇后陛下。どうぞ立ってください。僕は学園の生徒にすぎません。ただ、街の人々や仲間が気付付けられることが我慢できなかったのです。」
「そちらは神獣のフェンリル様だと推察します。さすれば、あなた様は神なのですか?」
「いいえ。学園長先生には話しましたが、僕は自分が何者なのかわからないんです。気付いたら、森の中に倒れていたんで。」
「そうなのですか。」
僕は国王陛下と皇后陛下の手を取って立ってもらった。
「差し出がましいことですが、僕から国王陛下に一つお願いがあります。」
「なんでしょう?」
「この学園はこの国の縮図です。貴族達が仲違いしていては国民に示しが付きません。それに、本来、人には身分などないと思います。あるのは、それぞれ個人がどういう生き方をするのかということだけです。」
「おっしゃる通りです。嘆かわしいことです。」
後ろに控えているジャック、ランボ、ステラからすすり泣く声が聞こえる。
「僕はこの世界が平和になることを望んでいます。そのためには、この国が他の国々の手本になりませんか?国王陛下ならそれができると思います。ナザル伯爵のように、両親のいない子ども達を孤児院で面倒を見ている貴族もいるのですから。」
「お言葉、しかと胸に刻みましょう。」
そして、僕は全員に聞こえるように言った。
「僕は学園長先生に話したけど、もうこの国にはいられないんだ。だけど、何かあれば戻ってくるから。ここにいるみんなが団結して、みんなの力でこの国を平和にして欲しい。」
メアリーとミーアが僕に駆け寄ってきた。
「シン君!どこか行っちゃうの?」
「どこにも行かないって約束したにゃ!」
「ごめん。約束破ることになっちゃうね。でも、駄目なんだ。みんなに僕達のことを知られちゃったしね。それに、これからは僕とギンは魔族達に狙われるだろ。周りの人達に迷惑かけられないよ。世界中には僕の力を必要としている人達が大勢いるからね。」
メアリーもミーアも大粒の涙を流して下を向いている。
「わかったわ。私も頑張るから!シン君も元気でね。ギンさんもね。」
ギンが少女の姿に戻った。
「シン様のことは任せてください。メアリー様、ミーアさん。」
「行くよ。ギン。」
「はい。」
僕達は一番最初に住んでいた家に転移した。