ギルドマスターのカレン
僕達はメアリーの冒険者登録をしようと冒険者ギルドを訪れた。そこで、ついでだったので、今まで討伐した魔物を換金しようと裏の作業場に出したのだが、大騒ぎになってしまった。当然だが、Gランクの僕とギンが大量かつ高ランクの魔物を討伐したのだから、騒ぎになってもおかしくない。そして、女性のギルマスの指示によりAランクの冒険者サムと模擬戦を行い、あっけなく勝利してしまった。そして、ギルマスの部屋に来るように言われ、現在、ギルマスの部屋にいる。ギルマスは自分の席に座っている。僕達は応接の椅子に座った。
「シン!お前何者だ?そこの銀髪の少女もだ!」
「ギンのことですか?」
「ああ、そうだ。そっちのお嬢ちゃんは人並みだがな。お前さん達からはとてつもない魔力を感じるんだがな~。」
やっぱりだ。学園長室に呼ばれた時と同じだ。どうやら、僕もギンも魔力を最低に抑えていてもばれてしまうようだ。
「私に隠し事は出来んぞ!」
ギルマスの目が緑から赤に変化した。これは本に書いてあった『魔眼』に違いない。さらに、ギルマスは長い髪を手で上げた。すると、学園長と同じ長い耳をしていた。
「もしかして、学園長先生と同じハイエルフなんですか?」
「あいつと一緒にするな!確かに私はハイエルフだが、あんな老いぼれとは違うぞ!私はまだ100歳だ。」
「100歳?」
「ああ、そうだ。エルフの寿命は約200年。ハイエルフとなると500年は生きるからな。別に珍しいことでもあるまい。」
確かにギルマスは若い女性だ。すると、学園長は何歳なのだろう?
「私はカレンだ。そう呼んで構わん。」
「わかりました。カレンさん。」
「ところで、さっきの話の続きだが、お前達は何者なんだ?」
そこで僕は学園長に話したことをそのまま伝えることにした。
「僕は気が付いたら魔物の巣窟といわれる森の中にいたんです。だから、自分のことは知らないんです。家の中にあった本で、自分の名前や、この世界のこと、魔法のことを学びました。」
「そうか。どうやら嘘ではないようだな。」
やっぱり魔眼なのだろう。魔眼は真偽を区別できると本に書いてあったのを思い出した。
「それで、そっちのギンとやらはどうなんだ?」
「私は母と世界中を旅していて、母が殺されて私が怪我をして彷徨っていたところをシン様に助けられたんです。」
確かにギンの話に嘘はない。どうやら、真偽を見破るカレンの魔眼でも、ギンがフェンリルであることはわからないようだ。
「そうか。どうやらお前達の話に嘘はないようだ。ところで、お前達のその桁外れの魔力だが、どう説明するんだ?」
「僕もギンも自分達が何者かわかりません。ですからあまり目立ちたくないんです。もし、僕達のことがばれてしまうようなら、僕達はこの国にはいません。他の国に行って静かに暮らしますから。」
「わかった。ならば私もお前達の能力については秘密にしよう。だがな、シンとギン。お前達のランクは今日からSだ。いいな!」
なんかいきなりSランクになったら思いっきり目立ってしまう。
「Bくらいで何とかなりませんか?」
「お前はバカか?Aランクのサムを子ども扱いで倒したんだぞ!今更寝言いうんじゃない!」
「わかりました。」
「それからな、SランクはGランクと違って誓約があるんだ。知っているか?」
「誓約ですか?」
「ああ、そうだ。冒険者ギルドの本来の使命は人々の生活と安全を守ることだ。つまり、人々に危険が及んだ場合、国やギルドから依頼が出る。その依頼は何があっても断れないからな!」
「ちょ、ちょっと待ってください。別に魔物の盗伐ならいくらでも受けますけど、もし戦争とかに参加しろって言われたらどうするんですか?僕は戦争には参加しませんよ。」
「心配するな!冒険者ギルドは世界中にあるが、国とは独立した組織だ。どの国にも加担することはしないさ。」
「なら、いいんですけど。」
少し安心した。僕には人殺しはできない。ましてや、戦争になど参加することは絶対しない。そう思っていたからだ。
「ところで、そっちのメアリーとかいうお嬢さんは、もしかしてナザル伯爵の娘か?」
すると、メアリーが驚いた。
「どうして知ってるんですか?」
「ああ、お前の父とは旧知の間柄でな。先だってお前の父から『娘をよろしく』と言われていたんだ。」
「そうだったんですか~?」
「ああ、お前の父は偉い人間だぞ!貴族でありながら威張らない。それに、領民や国民のことを何よりも考えている。お前も知っているだろう。教会のところのある孤児院を。あれはナザル伯爵が私財をなげうって作ったものだ。親のいない子ども達のためにな。」
カレンに言われてあらためて思った。ナザル伯爵は素晴らしい人物だと。そこに、ミオラが袋をもってやってきた。
「ギルマス。報酬の用意ができました。」
「そうか。ここにおいてくれ!」
「はい。」
その後、魔物代金を受け取って僕達はギルドを出た。報酬はなんと白金貨8枚になった。そこで、僕はミーアのいる孤児院に行くことにした。
「大変だったわね。シン君。」
「まあね。でも、しょうがないよ。僕が浅はかだったんだから。」
「シン様。どうして討伐した魔物を売ろうと思ったんですか?」
「孤児院さ。あそこは今は国からの補助金で賄ってるんだろ。でも、実際にはお金が足りてないと思うんだ。だから、子ども達が街の清掃活動してるんだよね。あの子達が学園に行こうとしたら、ミーアのように冒険者になって危険な仕事をするしかないでしょ。」
「まさか、シン君。そのためにお金が欲しかったの?」
「まあね。僕にも両親がいないからね。」
ギンが左手をメアリーが右手をつないできた。どちらの手も柔らかくて暖かい。
「やっぱりシン様はお優しいです。」
「あったりまえよ!シン君なのよ!」