最終決戦(2)
僕達が魔王城に入ると、2階の魔王の部屋には玉座に座る魔王ディアブとその脇に四天王アルタイがいた。全身からは今までに感じたことのない巨大なオーラが溢れ出ている。2人とも今まで貯め込んだ負のエネルギーで満たされているのだろう。辺り一帯の空気が急激に冷えるのが分かった。
「魔王様。私も戦いましょう。」
隣に控えていたアルタイからも漆黒のオーラが溢れ出た。今までの四天王とは比較にならないほどの大きさだ。
「ギン!マギー!メアリー!全力でアルタイの相手をして!」
「はい。」
ドラクは次元の違いを悟ったのか、戦いには参加しない。足手まといになるのが分かっているからだろう。
ギンがフェンリルの姿に変化し、マギーもメアリーも天使の姿に変化した。3人の身体から神聖な光が溢れ出て、アルタイのオーラと激しくぶつかり合った。
「さすが神獣と天使族ですね。相手にとって不足はありません。」
アルタイの身体が黒く光って巨大なドラゴンへと姿が変化していく。アルタイが翼をはためかすと真っ黒な霧が3人に襲い掛かる。3人は瞬間移動でそれを避けたが、黒い霧は3人を背後から拘束した。3人は身動きができない。
『シャドウボンブ』
3人を拘束していた黒い霧が爆発する。3人は口から血を吐き出して地面に落ちた。
グハッ
メアリーが自分とギン、マギーに治癒魔法をかける。3人の身体が光に包まれ傷が癒えていく。
「あの時と同じだわ。」
「そうね。でも、もう負けられない!」
「マギー!メアリー!行くわよ!」
「うん!」
3人は剣を抜いて同時に攻撃を仕掛ける。だが、確かにアルタイを斬っているのに手ごたえがない。
「メアリー!今こそ聖魔法よ!」
「わかったわ!」
メアリーが魔法を放った。
『ホーリーエンジェル』
すると、光の粒子が集まって天使の姿が現れた。その天使がアルタイの身体を拘束すると、うっすらとしていたアルタイの身体がはっきりと見えるようになった。
『シャイニングドラゴン』
『アイスドラゴン』
マギーとギンが魔法を唱えると光の竜と氷の竜が現れ、アルタイに襲い掛かる。光の竜はアルタイの上半身を氷の竜は下半身を喰いちぎった。
グワッ
アルタイは光の粒子となって消えて行った。
「やったわね!」
「うん!」
一方、僕と魔王ディアブは魔王城の外にいる。
「神の子シンよ!お前で俺様の力を試させてもらうぞ!行くぞ!」
瞬間移動で僕の背後に回って鋭い爪で攻撃してきた。僕は咄嗟に剣で受け止める。すると、剣を持たない左手の爪が僕の腹に襲い掛かる。僕は瞬間移動でその場を離れた。
「なるほどな。ベガ達が相手にならなかったのもわかるぞ!」
今度は魔法を放ってきた。僕を取り囲むように黒い鏡が現れ、ディアブがその鏡に黒い光線を放つ。その光線が鏡に反射して僕に襲い掛かってきた。
スパッ サッ
僕の手や足から血が流れだす。
グハッ
「ハッハッハッ どうした?神の子よ!お前の力はその程度か?本気で来なければ今の私は倒せないぞ!」
ディアブが手を前に出すと、突然何もないところから黒くて太い蔓が現れて僕の手箸を拘束した。その蔓から鋭利な棘が出る。その棘が僕の手足を貫いた。そして、まるで十字架に張り付けられたような形になった。
「もうおしまいなのか?つまらん!つまらんぞ!所詮貴様も神の子であり、神そのものではないということだ!お前を殺した後はディーテを殺しに行くさ!そして、私がこの世界の管理神となるのだ!ハッハッハッハッ」
僕の心の中にディアブに対する同情心があった。最愛の女性を殺され凶悪化したディアブを救い出す方法はないか考えていたのだ。だが、このままでは僕自身が危ない。僕は全魔力を開放した。それは魔力というよりも神力の様だった。銀髪は金色に変化し瞳が黄金色に輝く。そして、背中には金色の翼が出た。体中から発せられる光はあたり一帯を浄化する。僕を拘束していた黒い蔓も粒子となって消えてしまった。
「それがお前の本当の姿か?」
「ああ、そうさ。ディアブ!どこからでもかかってくるがいい。神の力を見せてやろう!」
ディアブが爪で攻撃してきた。だが、僕の身体を傷つけることはできない。今度は魔法で攻撃をしてくる。だが、結果は同じだ。
「ディアブよ。教えてやろう。今のお前が神に勝つことはできない。神は長く苦しい修行を何百年、何千年、何万年と続けて初めてたどり着ける境地だ。この世界のすべてのエネルギーがお前のものになっても絶対に神には勝てん。」
「何をたわごとを!私は神になるのだ!神にならねばならないのだ!そうしなければエルザに合わせる顔がないのだ!絶対にお前を倒して見せる!」
ディアブが最大の魔法を放ってきた。空が真っ暗になりディアブの周りに負のエネルギーが集まり膨れ上がっていく。物凄いエネルギーだ。地上のものがエネルギーの影響で浮き上がり消滅していく。そして、ディアブが魔法を唱えた。
『デーモン』
上空の雲の間からに凶悪な化け物が姿を見せた。とてつもなく大きい。その化け物が僕に襲い掛かる。僕は魔法を発動しながら剣を振った。
『神斬』
すると、まるで世界が2つに斬られたように、大気も上空の黒い雲も目の前の巨大な化け物も2つに分かれた。
「もういいのよ!ディアブ!もういいの!帰って来て!」
2つに斬れた黒い雲の間から明るい光が差し込み、その光に投影されるかのように美しい綺麗な女性が現れた。
「エルザ!」
2つにわかれかけたディアブの身体が光の粒子となって消えていく。そして、空から現れた女性の姿も消えて行った。
“終わった~。”
僕が魔力を戻して元の姿になりみんなのところに行くと、すでに戦いが終わっていた。
「シン!勝ったのよね?」
「ああ、勝ったさ。」
「なら、魔族との戦いは終わったのね?」
「ああ、終わったさ。」
「シン様。この後どうされますか?」
「これで本当にすべてが終わったのかどうかわからない。でも、今日は疲れたから魔物の森の家にいったん戻るよ。」
僕達は魔物の森の家に戻った。ディアブを倒した後も僕の心は晴れない。もし、僕の修行がこれで終わりなら、ギン、マギー、メアリーと別れることになるかもしれないのだ。
僕達は魔物の森の家に戻った。だが、いつもと空気が違う。僕があまりしゃべらないからだ。
「どうしたんですか?シン様。」
「・・・」
「なんか変よ!シン君。」
「・・・・」
「シン!急にお別れとか言わないでよね!」
「・・・・・」
ギンもマギーもメアリーも心配そうだ。だが、僕にもどうにもできない。すると、マギーが言ってきた。
「もしかしたら、急にシンがいなくなる可能性もあるんだよね?なら、せめて今を楽しく生きようよ。ねっ!シン!」
マギーの言う通りだ。僕は気を取り直して料理を始めた。マギーはいつものように僕が料理するのを横から眺めている。そして、料理が出来上がった。ギンとメアリーとマギーがテーブルまで運んでくれた。そして、いつものように4人で食事を始めた。
「この先どうなるかわからないから、メアリーとマギーはお父さんのところにちゃんと挨拶に行った方がいいよ。」
「どういうこと?」
「以前、母上が言っていたよね。みんな修行の途中だって。だとすると、4人とも別の世界に連れていかれるかもしれないからさ。」
3人の顔が急に明るくなった。なんか希望が出て来たようだ。食事をとった後は久しぶりに4人でお風呂に入った。僕はそのつもりはなかったのだが、後から3人が入ってきたのだ。
「ねぇ!シン!背中流してあげる!」
「ああ、頼むよ。でも、ギンやメアリーはともかくとして、マギーはどっちが背中かわからないな!」
バチン
「酷い!シンなんてもう知らない!」
「冗談だよ!僕は今のままのマギーが好きなんだからさ。」
どうやらマギーの機嫌が直ったようだ。お風呂から出て今日はみんなで一緒に寝ることになった。寝相の悪いマギーは僕の足元で寝ている。
“あれっ!”
気が付くと僕は天界にいた。そこにはギンもマギーもメアリーもいる。そして、目の前には管理神ディーテがいた。
「4人とも大分成長したようね。」
「はい。母上。」
僕以外の3人は管理神ディーテに対して片膝をついていた。
「いいのよ。ギンもマギーもメアリーも立ちなさい。今日はあなた方に言わなければいけないことがあるの。」
母上の言葉に3人に緊張が走った。もしかしたら、僕とお別れの時が来たと思っているのだろう。
「4人とも成長はしたけどまだまだ修行は必要なのよ。わかるでしょ?」
「はい。」
「そこでなんだけどね。4人にはまた別の世界に転生してもらいますから。」
「もしかして、全員ばらばらの世界ですか?」
「フッフッフッ どうかしらね。それはわからないわ。」
パチン
母上が指を鳴らすと僕の頭に記憶が流れ込んできた。彼女達も同じようだ。この世界以外の記憶だ。ある世界で僕はギンと出会い、別の世界でマギーと出会い、また違う世界でメアリーと出会った。そして今回の記憶だ。
「わかったでしょ。あなた達は記憶を消されていたから覚えていないけど、何度も何度も出会っているのよ。」
4人の目から涙が流れる。
「可哀そうだけど、また記憶を消さなければいけないのよ。」
「母上。3日ほど時間をいただいてもいいですか?」
「いいわよ。お別れを言わなければいけない人達もいるものね。」
「はい。」
僕達はこの数年の間に出会った人達のところに挨拶に行った。すべてを話すことは許されない。中には2度と会えないかもしれないなどと思っていない人達もいた。逆に精霊女王や大精霊達は気づいていた様だ。そして、僕達は全ての挨拶を終えた。
「みんな、もういいかな。」
「はい。」
「うん。」
「大丈夫よ。」
僕達は天界に行った。すると管理神ディーテが出迎えてくれた。
「もういいのね。」
「はい。」
「なら、あなた達の新たな旅を始めるわよ。」
ギンもメアリーもマギーも微笑みを浮かべながら僕に身を寄せている。
『リーンカーネーション』
僕達の身体が光に包まれ、どんどん薄くなっていく。僕はギン、マギー、メアリーに声をかけた。
「きっと次の旅でも一緒だから!」
「うん!」
———— 完