リザードマンの村
帝国軍を殲滅した後、僕達はマギーの父親のいる村に行った。マギーと父親が久しぶりに再会したのだが、ここでミーアのことを思い出した。もしかしたら、マギーが僕達と一緒に行動しなくなるのではないかと考え、僕もギンもメアリーも徹夜状態だった。だが、翌朝マギーのもとを訪ねるといつもと変りなかった。マギーも気持ちを新たにして、僕達はルーカスさんに挨拶をして魔王城に行くことにした。
「ここから先は魔力感知を発動していくよ。」
「はい。」
今いる場所から魔王城のある場所までは大陸の正反対だ。かなりの距離がある。途中には魔族の様々な種族の集落がある。すべてが見方とは限らないのだ。
「シン。この先にはリザードマンの村があるよ。」
「マギー!リザードマンってどんな連中だ?」
「そうね~。トカゲのような顔をしている人達よ。言い伝えだと、竜人族達と親戚みたいなもんらしいけど、よく知らないわ。」
地面がぬかるんできた。目の前には広大な湿地帯が広がっている。その湿地帯の脇には大きな岩山のような場所があり、いたるところに横穴があった。
「あそこがリザードマンの住処よ。」
どうやらリザードマンの方も僕達に気づいたようだ。長い槍をもって僕達の方にやってきた。そして、ひと際体の大きなリザードマンが声をかけてきた。
「お前達は人族ではないか?!どうして、こんな場所にいるんだ?」
「魔王城に用事があるんだよね。」
「魔王城に?」
「そうさ。魔王ディアブがこの世界の平和を壊そうとしてるからね。それを止めに行くのさ。」
「お前達4人だけでか?アッハッハッハッ」
すると、マギーが怒った。
「ちょっとあんた!何がおかしいのよ!」
「魔王軍は悪魔族の精鋭部隊だぞ!中には四天王もいるし100人隊長達だっているんだ!お前達に勝てるわけがないだろうが!」
今度はメアリーが言った。
「私達はその100人隊長も四天王のベガもシリウスも討伐したのよ!」
するとリザードマン達が大きく口をあけて驚いた。
「なんだと~!お前達が四天王を討伐しただと~!馬鹿も休み休み言え!」
僕は魔力を少し開放した。銀髪が逆立ち瞳が黄金色に変化する。そして、全身から神々しい光が溢れ出た。
「本当だよ。これでも信じられない?」
「お前は何者なんだ?」
ギンもマギーもメアリーも本来の姿になった。すると、リザードマン達は慌てて後ろに飛びのいた。
「僕達は神の使いさ。これでわかってもらえたよね。」
リザードマン達が一斉に跪き、リーダーらしき男が言ってきた。
「私は部族長の息子のイグアと言います。使徒様達に置かれましては是非ともわが村にお越しください。」
「イグアさん。普通に話してください。そうなるのが嫌だから素性を隠していたんですから。」
「なるほど、承知しました。」
リザードマンの村に行く途中で僕達は自己紹介をした。どうやら、部族長はイグアの父親でカメルというらしい。リザードマンの村は岩山の入口から入った地中にあった。岩山のいたるところに穴が開いていたのは、村に日が差し込むようにするためのようだ。
「僕はシンです。こっちはギン、マギー、メアリーです。」
「私は部族長をしているカメルです。使徒殿達に会えるとは光栄なことです。」
「カメルさん。その『使徒殿』はやめましょう。普通に名前で呼んでいただいて結構ですから。」
「そうですか。わかりました。ではシン殿、何もない村ですが是非寛いでいってください。」
「ありがとうございます。」
僕達はイグアに案内されてリザードマンの村を散策することにした。地下にあるにも関わらず畑もあった。岩山の穴から差し込む光で作物を育てているようだ。家の軒下には湿地帯で捕まえた魚が沢山干してある。少し臭い。当然、店や食堂があるはずがない。だが、軒先で魚や肉を焼いて売っている店があった。イグアさんが店主に言って、僕達のために魚と肉を少し分けてもらった。
「シン!美味しいけどやっぱりパンチがないわね。ペップ出してよ!」
「いいよ。」
僕がペップを取り出すとイグアが不思議そうに見ていた。
「ああ、空間収納ですよ。」
「なるほど、さすがはシン殿ですね。ところで、それは何ですか?」
マギーが解説を始めた。
「これはペップよ。こうして振りかけて食べると美味しくなるのよ。魔法の粉のようなものね。」
「ならば、私にも貸してもらえますか?」
「いいわよ。」
イグアが一口食べて感激の声を上げた。
「う、旨い!これは旨いですな!」
すると、店主も近くを歩いていた人達もみんなが集まってきた。仕方がないので、全員にペップを渡した。一人残らず全員が感動した。
「シン殿。このペップをこの村に広めたいのだが、何とかなりませんか?」
「そうですね~。この近くに森があれば探しに行きますけど。」
「それなら、あります。すぐに行きましょう。」
僕達はイグアに言われてペップの実を探しに行くことにした。僕達が入ってきた入口とは逆の方向にも入口があるようだ。そちらの入口から出るといきなり森の中に出た。
「我々リザードマンの村にはいざという時のためにいくつも入口があるんですよ。」
「そうなんですね。」
僕達は森の中を探しながら歩いた。すると鼻のいいギンがすぐに見つけた。
「シン様。ありましたよ。この辺りにペップが群生しています。」
見ると確かにペップが何本もあった。僕達はペップの実を収穫して村まで戻り、魔法でペップの実を乾燥させて細かく砕き完成させたものをイグアに渡した。
「できましたよ。」
「こんなに簡単なんですか?」
「ええ、そうですよ。」
「これなら我々でも作れそうです。ありがとうございます。」
すると、リザードマンの男性が血相を変えてやってきた。
「イグア!大変だ!またグリフォンがやってきたぞ!」
「またか~。湿地帯にいる者達を全員村に避難させろ!それから、戦えるものは武装して広場に集合だ!」
「わかった!」
男は走って行った。